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全国エアガンサバイバルゲーム大会決勝

全国大会の決勝戦

5人で出場の特別ルールにより龍崎が加わることになる。

一進一退の攻防、本物とサバゲのガチンコ勝負の行方はどうなるか。

________________________________________

『サバイバルゲーム大会決勝』

 観客席の大型モニターには、随所に設置されたカメラの映像が切り替わり、プレイヤーたちの視点が次々と映し出されていた。

 この決勝に進んだ二つのチームは、まったく異なる理念を持っていた。

 SAJ。

 その名を聞けば、軍事や警察関係者なら誰もがうなずくだろう。彼らは本物の対テロ特殊部隊であり、普段は市街地の銃撃戦や人質救出の最前線に立つ者たちだ。

 彼らにとって「戦い」とは命を賭ける行為であり、サバイバルゲームのようにリセットが効くものとは根本的に違う。撃つよりも、可能であれば「逮捕」を選ぶ――それが彼らの矜持であり現場の哲学だった。

 一方のRagdoll。

 彼女達はサバゲにおける“リアル”を極限まで追求する集団だ。装備も動きも、実戦に限りなく近い。だがその根底にあるのは「ゲームに勝つ」こと。どれだけ現実に近づけても、最後はルールの上での勝敗に徹する。

 観客は固唾を呑む。

 現実と虚構――その境界線上に立つ2つのチームが、迷宮の館でぶつかり合おうとしていた。


 決勝戦のフィールドは、廃墟と化した洋館を模した巨大構造物だった。

 二階建ての屋敷は内部が複雑に改造され、廊下は何度も折れ曲がり、壁の裏には隠し通路、床下には地下へ続く階段が口を開けている。

 視界は悪く、音は反響し、方向感覚は容易に狂わされる。

 まるでウイルス蔓延後の研究施設――バイオハザードを思わせる、敵意に満ちた迷宮だった。

 この場所で、サバイバルゲーム大会の決勝が行われる。

 観客席の大型モニターには、直前の試合映像が映し出されていた。

 閃光。

 白く焼き付く画面。

 高周波の音に動きを止めた相手を、黒装備のチームが一気に制圧する。

 それを、Ragdollの面々は黙って見つめていた。

________________________________________


◆ Ragdoll控え室

「……さっき対戦相手の試合を見たが」

 龍崎が、腕を組んだまま口を開く。

「かなり手強いぞ」

 誰も軽口を叩かなかった。

「武器に閃光手榴弾を使ってた。一般には売られてない」

「しかも高周波の音を出すタイプだ」

「……それ、相当まずいですね」

 麻耶が言う。

「だから装備を追加する」

「何を追加するんです?」

 龍崎はケースを開き、中身を全員に配った。

「高周波をカットできるノイズキャンセリングイヤーマフだ」

「無線は使える。声もちゃんと聞こえる」

 未来が試しに装着する。

「ほんとだ。問題ない」

「もし閃光手榴弾を投げられたら、逃げるか背を向けろ」

「まともに見たら、何も見えなくなる」

 凛が小さく息を呑んだ。

「……対戦相手のSAJって、何者なの?」

 葵が尋ねる。

「恐らく本職だ」

 龍崎は即答した。

「何人か、前に別のアウトドアゲームで見たことがある」

「それと、予選の射撃で一位を取ってるのがいる」

「ええ!?」

「ぼ、僕……そんなのに勝てないよ……」

 凛の声に、未来がすぐに続く。

「これはサバゲでしょ?ゲームなんだから」

「戦術は、うちらとそんなに変わらないと思うよ」

「慌てず、素早く、正確に、だ」

「それ、宇宙戦艦ヤマトの真田さんじゃん」

 空気が一瞬で冷えた。

「……」

 龍崎は咳払いをする。

「それと、もう一つ」

「こちらも新兵器を使う」

 装置を取り出し、麻耶に渡す。

「麻耶、お前が付けてくれ」

「私が?」

 短い説明。

 小型だが、戦局を左右する装備だった。

 そのとき、場内アナウンスが響く。

『決勝戦は特別ルールです。両チーム五名での出場が可能となります』

『フィールドを破壊しなければ、武器使用制限はありません』

「師匠、五人目どうするんですか?」

「俺が入る」

「大丈夫なんですか?」

「足手まといにならないようにするさ」

 龍崎は笑い、凛を見る。

「凛、お前はポイントマンだ。最新の注意を払え」

「これを持っていけ、暗視カメラだ、MP5に付ける」

龍崎は凛に暗視カメラとレーザーモジュールを凛に渡した。

「すごーい、映画みたい!」凛が喜ぶ。

「本来は四マンセルだが、今回は三マンセル」

「未来は別行動だ」

「単独で?」

「敵にはバディで動いてるように見せる」

「未来が音響手榴弾で陽動する」

 今までのタクトレの応用。

 全員が無言でうなずいた。

________________________________________


◆ SAJ控え室

 一方、SAJの控え室は異様なほど静かだった。

 黒装備の隊員たちは無駄な動きを一切せず、装備を確認している。

「相手はRagdollだ」

 隊長が言った。

「BMの妹チームですね」

「……因縁だな」

 21年前。

 本来出動するはずだったSAP(SAJの前身)の代わりに、BMが解決した人質事件。

 我々が出ていれば、あんな手間は掛けずに済んだ――

 隊長の胸には、今も苦い記憶が残っている。

「当時、研究所では最新の銃を開発していた」

「だが所長の判断で、SAPは装備調達できなかった」

 結果、事件を起こし、研究員になりすました潜入捜査員が銃を盗み出すという歪な選択がなされた。

「……それはそうと」

 隊員が尋ねる。

「どう戦いますか?」

「我々は訓練通りだ」

「可能な限り、逮捕する要領の範囲で撃つ」

「やっつけたらダメなんですか?」

「我々はLEだ」

「法執行が第一義だ」

 隊長はモニターを指す。

「Ragdollは4マンセルを基本で動く」

「突入時は音響手榴弾を合図に、一斉突入してくるパターンだ。」

「その瞬間に――」

「閃光手榴弾で足を止める」

「一網打尽にする」

 隊長は戦術図を切り替える。

「こちらは5マンセル」

「バディ、バディ、単独の3編成で包囲殲滅だ」

 隊員たちが真剣な表情で聞き入る。

「三番手」

 隊長は射撃の名手を見た。

「君は単独行動だ」

「その射撃の腕前と、例の銃を活かせ」

「それと暗視ゴーグルを忘れるな、暗闇が多いから有利だ。」

「了解しました」

 予選射撃1位。

 黒装備の彼らは、ただそこにいるだけで、圧倒的な威圧感を放っていた。

________________________________________

 こうして、2つのチームは同じ迷宮へと向かう。

 命を懸ける現実を知る者たちと、

 ゲームの中で現実を再現しようとする者たち。

 思想も、矜持も、勝ち方も違う。

 その違いが、やがて――

 たった一人同士の対峙へと収束していくことを、

 まだ誰も知らなかった。

 サバイバルゲーム大会・決勝戦。

 開始まで、あとわずか。


〈老鼠の一閃〉

5人が縦一列に並んでスタート位置についた。

「装填!」

麻耶の低く通る声が、反響する。号令に合わせ、全員が無言でマガジンを銃に差し込んだ。

カチリ、という乾いた音が重なり、場の空気が一段引き締まる。

「HKスラップ!」未来が叫ぶ。

掛け声と同時に、未来は勢いよくボルトを叩いた。

金属音が鋭く鳴り、H&K特有の動作が決まる。それにつられるように、他の4人もボルトを操作した。

チャキン。

ガチャン。

それぞれの銃が「撃てる状態」へと変わる音だった。

誰も喋らない。

ただ、呼吸の音と、グローブ越しに握られたグリップの感触だけがやけに鮮明になる。

先陣は俺が行く。

齢61――引退してからしばらくサバゲーからは離れていたとはいえ、Ragdollを教えながら龍崎は日々のトレーニングを欠かしていなかった。

その表情には、年齢を感じさせない確かな自信が宿っている。

舞台は、14LDKの洋館。

迷路屋敷と呼ばれる、究極のインドアフィールドだ。

サバゲーフィールドとしては老舗で、部屋と通路が異様なまでに複雑に絡み合っている。

この構造では、定石通り部屋をクリアリングしても意味がない。

背後に回り込まれる危険が常につきまとうからだ。

「こういう迷路型の場合はな、内側に切り込むより――外側を回るんだ」

「……あっ!」

麻耶がはっとしたように声を上げる。

「外側は壁。つまり敵は正面か、内側からしか来られない」

「その通りだ」

外壁側から撃たれる心配はない。

敵を螺旋状に追い込み、最後は中央で雌雄を決する――それが狙いだ。

「未来。お前は反対回りだ」

無線を入れる。

「位置は常に共有しろ」

「了解」

「凛。明るい場所から暗い場所を索敵するときは慎重にな。

 遠慮はいらん。フラッシュライトを浴びせろ」

そして――。

スタート合図のホーンが鳴り響いた。

初めての5マンセルフォーメーション。

だが龍崎とRagdollは、まるで一つの生き物のように噛み合っていた。

静かに、だが速く通路を進む。

要所要所で龍崎が足を止め、わずかな音に耳を澄ませる。

――だが、敵も心得ている。

SAJは一切の物音を立てていない。

内側にあるバーの部屋を覗くが、気配はない。

「セラ(未来)、反対回りで行け!」

龍崎とアルファ(凛・葵)は外側通路へ。

「ブラボー(麻耶・未来)はバーから中央を押し上げろ」

3隊に分離し、ラインでフィールドを制圧していく。

通路の角を曲がる先は、薄暗い。

龍崎はハンドライトをFBIモディファイドで一瞬照射した。

――パンッ!

威嚇射撃。

BB弾が、龍崎の肩先をかすめる。

「コンタクト! 中央、暗闇!」

即座に無線を飛ばす。

「ブラボー、中央コンタクト!」

オセロット(麻耶)の声。

「セラ、右側インポジション!」

未来の無線が続く。

「セラ! DD!」

「了!」

未来が音響手榴弾を右側通路へ投げ込んだ。

密閉空間での破裂音は、直撃すれば耳鳴りを起こすレベルだ。

だがRagdollはイヤーマフのおかげで平然としている。

SAJ隊員は背後で炸裂した音に一瞬動きを止めた。

Ragdollは、右側通路にマンセル単位で固まっていると思い込んでいた。

即座に応援要請。

そして、右側で龍崎との撃ち合いが始まった。

だが――。

薄暗さのせいで、ライトを照らしても敵影が掴めない。

このままでは、いずれこちらが削られる。

「アルファ、この場を任せる。無理はするな、威嚇でいい」

凛に言い残し、龍崎はバーへと姿を消した。

ブラボーの2人も攻めあぐねているところへ、龍崎が合流する。

「援護射撃、頼む!」

MP5を背中に回し、ハンドガンを抜く。

腹這いになり、床を滑る――

まるでバイオハザードのモンスターのような、異様な速度。

一瞬でSAJの足元に潜り込み――

一発。

ヒット。

「……なに、あの動き!?」

麻耶が思わず声を漏らす。

「やっぱり、人間技じゃない……」

龍崎が次の指示を出そうとした、その瞬間だった。

――誰もいないはずの空間から、弾が飛んできた。

龍崎の眉間を、正確に捉える。

「ヒットー!」

老鼠の一撃は、ここまでだった。

セーフティへ戻りながら、龍崎は考える。

おかしい。

跳弾ではない。

まるで――弾が通路を曲がってきたように見えた。

常識では説明がつかない。

だが、死人に口なし、である。

龍崎には、もはやどうすることもできなかった。

――あとは、麻耶の判断に任せるしかない。

_______________________________________


〈一進一退〉

 師匠の龍崎がヒットされた。

 オセロット――麻耶は即座に判断し、アルファとセラ(未来)を集合させた。

「師匠が差し違え。敵も4名。

 2階にも気配がある。この階段から上がるわ」

 全員が短く頷く。

「相互カバー。リンクス、慎重に」

「OK。……僕の鼻が利くといいんだけど」

「匂い、わかるの?」と葵。

「わかるわけないでしょ。猫じゃあるまいし……」

「うちらRagdollでしょ!」

 未来の一言に、張り詰めた空気が一瞬だけ緩む。

 2階へ上がると、通路は完全な暗闇だった。

 窓はなく、非常灯も落とされている。

 凛がハンドサインで合図を出す。

 同時に、Ragdoll全員がライトモジュールを起動した。

 フル点灯はしない。

 瞬間的に照らし、消す。

 断続的な閃光が、通路とドアの輪郭だけを浮かび上がらせる。

「……部屋、多いね」未来が囁く。

「音、拾う」葵。

 床を擦る、かすかな気配。

 凛が通路角で止まり、拳を握る。

(いる)

 麻耶は頭の中で構造を組み立てた。

 この先は3方向から侵入できる一室。

「3方同時突入。

 インポジション。セラ、DD」

 西側から、未来が音響手榴弾を転がし込む。

 ――閃光と破裂音。

 その一瞬で、

 南から凛と葵、

 北から麻耶がエントリー。

 ライトが交差し、室内を切り裂く。

 SAJ隊員は中央、ソファーに囲まれた位置。

 身体は完全に西を向いていた。

 西が囮。

 単純だが、効果的な戦術。

 両脇からの射線に気づいた時には遅かった。

凛の暗視カメラがSAJ隊員を捉えていた。SAJ隊員も暗視ゴーグルで凛を見つけお互いに激しい銃撃戦となった。

が、凛の正確な射撃が敵を射抜いた。

「クリア!」凛。

「オールクリア、ゴー!」麻耶。

 ――その瞬間。

 南側入口から、別のSAJが突如発砲した。

 暗視ゴーグルを利用した、完璧な逆取り。

(しまった、通路警戒……!)

 葵が背中に衝撃を受け、手を上げる。

「ヒット!」

 麻耶は迷わなかった。

 ライトを点けたまま前進し、師匠譲りのライジングシュート。

 弾丸は闇を裂き、SAJの胸を貫いた。

 ヒット。

(これで3対2)

 暗闇の中で、Ragdollは再びライトを消す。

 一進一退。

 まだ、勝負は終わっていない。


〈SAJの厄介な銃〉

葵がヒットされ、残ったのは凛、麻耶、未来の3人――3マンセルとなった。

2階の残存エリアを慎重に索敵したが、敵の気配はない。

Ragdollは判断を早め、階段を下りてフィールド奥にある建屋へと向かった。

その建屋は、

1階・2階ともに迷路状の構造で、3方向から侵入可能な設計になっている。

凛は即座に左ルートを選択した。

この建屋は厄介だった。

左側から階段を上がると2階右側の部屋に出る。

逆に右側から上がると、2階左側の部屋に出る――

侵入方向と到達位置が反転し、位置感覚を狂わせる造りだ。

さらに内部は薄暗く、視界は悪い。

どこに敵が潜んでいてもおかしくなく、

一瞬の油断がそのまま奇襲につながる。

難易度の高い、最悪の建物だった。

________________________________________

狭い空間だ。

凛はMP5SD5を腰だめに構え、ライトを照射する。

光が壁と床を舐めるように滑り、建屋内部を切り取っていく。

内部は、まるでお化け屋敷のようだった。

視界の先には何が潜んでいるのかわからない。

音もない。ただ、「出てくる」という予感だけが、空気にまとわりつく。

否応なく、進行スピードは落ちた。

階段に差し掛かる。

凛はライトを消し、MP5SD5を引き締める。

暗視カメラを覗いた瞬間、闇が像を結ぶ。

真っ暗な階段の上が、はっきりと見えた。

――敵影なし。

次の瞬間だった。

前方から、転がる音。

閃光手榴弾だ。

狭い階段空間。

3人は反射的に身を強張らせ、動きを止めた。

破裂。

空間が一気に真っ白に染まり、高周波が耳を刺す。

イヤーマフのおかげで致命的な音は遮断されたが、視界は完全に奪われた。

凛は条件反射でトリガーを引いた。

弾幕が階段先を埋め、突進しかけたSAJの動きを止める。

だが、――撃ち合いになる。

進めない。

「挟む!」

麻耶が叫び、未来に反対側の階段からの突入を指示する。

未来が素早く回り込み、音響手榴弾を投げ込んだ。

破裂音が響く。

凛が角から飛び出し、バリケードに取りつく。

SAJ隊員は前後からの挟み撃ちに一瞬戸惑いながらも、即座に反応した。

特殊な銃口が凛を捉える。

刹那。

見えない位置から、凛の肩に衝撃が走った。

BB弾が命中する。

「ヒット!」

凛の声が、戦闘空間に響いた。


________________________________________

――麻耶は、確かに見た。

何……今の?

弾道がおかしい。

まるで、弾が曲がってきたように見えた。

撃たれた方向が、わからない。

見えない位置から撃たれた――それだけは確かだった。

「ここじゃ分が悪いわ」

未来が即断する。

「広い空間に移動しましょ!」

……その通りだ。

迷路構造の狭所では、完全に相手の土俵だ。

2人は回廊を一気に走り抜け、建屋から離脱した。

辿り着いたのは、大広間。

入口は2か所――

いや、違う。

麻耶が壁際のタンスを開けると、その奥は隠し通路につながっていた。

「……3か所ね」

麻耶は未来と対角線上にポジションを取り、即座にアンブッシュ態勢へ移行する。

こうすれば、

この空間では――攻める側が不利になる。

________________________________________

〈攻防〉

麻耶の側面のドアが、音もなく開いた。

その刹那、

対角線上にいた未来が反射的にトリガーを引く。

――だが。

扉の向こうに、敵の姿はない。

それなのに。

放たれた弾が、不自然な軌道を描いて未来へと迫る。

「っ……!」

未来は紙一重で身を捻り、弾を躱した。

即座に反撃するが、見えない相手に撃ち返しても効果はない。

麻耶が援護に動こうとした、その時――

別のドア。窓越しに、もう1人。

SAJの隊長だ。

麻耶は完全に釘付けにされた。

動けば、撃たれる。

窓越しに、麻耶とSAJの隊長が睨み合う。

一方、未来は見えない弾を何発も躱していた。

だが、撃ち合いが続いた末――

「ヒット!」

未来が倒れた。

――まずい。

一瞬で、2対1。

形勢は完全に逆転した。

その時、麻耶の脳裏に、師匠の言葉がよぎる。

「最後まで取っておけ」

……これしかない。

麻耶が起動すると、

視界に間取り図が展開され、SAJの位置が投影された。

――いた。

さっきまで“見えなかった敵”が、そこにいる。

麻耶はSAJの隊長を牽制しつつ、素早く部屋を回り込む。

タンスの奥――タンスの隠し通路を抜け、敵の背後へ。

そして、迷いなく撃ち込んだ。

「ヒットー!」

よし。

残るは――

SAJの隊長。

一騎討ちだ。

________________________________________

〈決着〉

1対1。

互いに、間合いだけを気にしていた。

踏み込めば撃てる。

だが、踏み込めば撃たれる。

まるで――剣道の見合いだ。

時おり銃声が響く。

だが、どちらの弾も決定打にはならない。

麻耶はわざと足音を立てた。

誘うための、あからさまなノイズ。

――だが、SAJの隊長は乗らない。

冷静だった。

やがて、2人とも動きを止める。

音が、消えた。

静寂の中、距離だけが詰まっていく。

……その一瞬。

SAJの隊長が、一枚上手だった。

麻耶の死角に回り込む。

「終わりだ!」

隊長の声。

だが――

麻耶は、正面を向いたままだった。

瞬間。

左足。

ホルスターに収めていたサイドアーム――グロック。

逆手で引き抜き、

小指をトリガーにかける。

視線も、体も向けない。

ただ撃つ。

トリッキーな、切り札。

隊長は――油断していた。

ほぼ同時に、銃声。

だが。

VR判定。

隊長の射撃より、

ほんの一瞬早く――麻耶の弾が撃たれていた。

Ragdoll、勝利。

麻耶は左目から、コンタクトを外した。

「……師匠のお陰ね」

それは最先端のコンタクトレンズだった。

PCから無線LANで送られるデジタル映像を、直接視界に投影する。

見えないサバゲから、見えるサバゲへ。

テクノロジーの進化だ。

そのコンタクトも、

21年前――

あの事件の舞台となった「最先端武器研究所」で開発された試作品。

そして。

SAJの“弾が曲がる銃”は、

あの時盗まれた銃の――完成形だった。

________________________________________

〈エピローグ〉

喫茶店 Ayuzoroy の扉が開くたび、甘い果物の香りがふわりと漂った。

「今日はお祝いだぞ」

カウンターの向こうで、龍崎がいつになく上機嫌な声を出す。

「新作のフルーツスムージーもある。優勝記念だ」

麻耶、凛、葵、未来の4人は、いつもの席に腰を下ろした。

銃も装備もない。

それだけで、戦場とはまるで別の世界だった。

色鮮やかなスムージーが並ぶ。

グラス越しの光が、今日という日を祝っているように見える。

「……改めて、優勝おめでとう」

龍崎の一言に、4人はグラスを掲げた。

軽く触れ合う音が、店内に静かに響く。

しばらく雑談が続いたあと、凛がふと思い出したように言った。

「結局さ……勝敗の分かれ目って、どこだったと思う?」

誰もすぐには答えなかった。

戦術、装備、連携、判断――理由はいくらでも挙げられる。

その沈黙を破ったのは、葵だった。

「SAJとRagdollの“立場”の違いよ」

未来が小さく頷く。

「最後の、隊長と麻耶の戦い。

あそこに全部出てた」

龍崎が、少しだけ視線を落としたまま言う。

「SAJはLEだ。

……法執行としては、まず逮捕が優先になる」

一同が黙って続きを待つ。

「だから、瞬間的に考えたのかもしれないな。

“制圧”か、“排除”かを」

「でも」

未来が続ける。

「麻耶はサバゲ。

撃った者勝ち、でしょ?」

葵が苦笑する。

「立場が違えば、正解も違う。

その一瞬の差が、勝敗になった」

「まさか」

葵は肩をすくめた。

「麻耶が、あんなトリッキーなホルスタードローをするなんて、

誰も思わないわよ」

「それね」

麻耶が少し照れたように笑う。

「あれ、師匠が前に、冗談でやってたワザなの。

『実戦で使うなよ』って言われてたけど……盗んじゃった」

「冗談のわりに、完成度高すぎ」

未来が呆れたように言う。

「でも」

凛が静かに口を挟んだ。

「最後まで、麻耶は迷ってなかった。

勝つって決めてた」

麻耶は一瞬だけ目を伏せ、そして頷いた。

「……みんながいたからね」

話題は自然と、それぞれの戦いを振り返る流れになった。

凛の突入判断。

葵の被弾と、その後の冷静な分析。

未来の撤退判断と、大広間での布陣。

龍崎の指示と、全体を読む視点。

一つでも欠けていれば、結果は違っていた。

ふと、店内の棚に視線が集まる。

ガラスケースの中で、優勝トロフィーが静かに輝いていた。

金属の表面に、店の灯りが反射する。

「……本当に、取ったんだな」

凛がぽつりと呟く。

「これは」

麻耶が言った。

「4人で取ったトロフィーよ」

一瞬の間。

未来が、柔らかく笑う。

「師匠もいたから……5人、でしょ」

「そうだな」

龍崎が短く答えた。

カウンターの奥に置かれた、1枚の古い写真。

そこには、若い頃の龍崎と、もう一人の男が並んで写っている。

技術は受け継がれ、

意志は形を変えて、今ここにある。

「シーズン1、終了って感じね」

未来が冗談めかして言う。

「終わった気はしないけど」

葵が応じる。

「これから、もっと面倒なのが来そう」

「間違いないな」

龍崎はスムージーを一口飲んでから言った。

「技術は進む。

見えないものが、見えるようになった。

だが……」

視線が、トロフィーから外れる。

「何を“見る”かを決めるのは、人だ」

誰も否定しなかった。

喫茶店の外では、夕暮れが街を染め始めている。

戦いのない、静かな時間。

だが同時に――

次の物語が、すでにどこかで動き始めている。

そんな予感だけが、確かに残っていた。



この物語は映像化が目的だったのでシナリオ風な作りが多くなりました。

人質事件、岩見凛、一番合戦葵、進藤麻耶、渡辺未来、龍崎猛、Ragdoll結成、全国大会

というストーリーです。

原案よりタクトレの描写を増やした為、最終話までが長くなりました。

異なる理念の2つのチームが大会で激突。どちらが勝ったというより勝負ではどちらも負けでは無かった点を理解していただけたら幸いです。


人気が出たらシリーズ化していきたいです。

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