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人嫌いの聖女様  作者: 天羽
第二章 魔法試験編
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【1-1】ポスッ

 〈紅の魔女〉ことレアーナは、目の前で行われている事に唖然と、嘲笑を通り越して絶句していた。

 ガラティア王国にあるフィアレス学園では、多くの東諸国の生徒が集まり、実質的に多くの国の共同経営である。だが、勿論最も影響力を持つのはガラティア王国であり、学園では魔法が重要視される傾向にあった。

 貴族や王族の子弟は基本的に魔法を嗜んでいることが多く、学園側もこれを進級の試験としている。

 目の前で行われていたのは、魔法実践である。とてもそうは思えないが。


 「爆発しろ!」

 「こうです!」


 詠唱も何もなく魔法を使おうとして、何も起こらない女子生徒に、詠唱はしっかり行っているが情けない音と煙を出す男子生徒。

 魔法の実践では無く、子供が魔法のごっこ遊びをしているような光景だった。何度も声だけしか出ない二人が、また魔法を使おうとしている。


 「あんたら、よく学園に入れたわね」

 「あはは、僕魔力だけは高かったので」

 「私はコネよ」


 申し訳なさそうにして、魔法の練習を続けるアーサーは、また詠唱だけして情けない音を出す。

 アテーナはあまりに成果が出なくて飽きたのか、床に寝転がっている。

 アーサーの魔法を見ながら、応援しているのだが、レアーナから言わせればお前の方がまずいのである。


 「貴女達、これから毎日ここに来てね。私の監修の元、しっかり練習してもらうから」

 

 アーサーは嬉しそうにしているが、アテーナは面倒臭いとゴロゴロ床で転がっている。

 レアーナは目を閉じて優しい笑みを浮かべると、アテーナへと向ける。

 口元は優しく見えるのだが、どう見ても目は笑っていない。

 アテーナは少し瞬きした後、後退りして逃げようとするのだが、すぐに追い詰められてしまう。


 「アテーナ、しっかりとやるんだよ」


 威圧感を秘めた穏やかな声にアテーナは震え上がると、何度も何度も頷くのだった。

 レアーナは満足そうに声を出して微笑む。

 二人は顔を引き攣らせ、また魔法練習を再開した。アテーナもサボることなく、詠唱からしっかりとやるのだった。


 ■ ■ ■


 一日の魔法の練習が終わったアテーナな、クタクタになりながら寮の部屋についた。

 体中にズッシリとした鉄球でも持っているような疲労感に、足をふらつかせている。

 扉を開けると、真っ先に布団に抱きついた。

 顔を布団にうずめて、できる限りの力で掴んでいる。棒さえも握れないような力で、小さい跡を布団につけていた。


 「魔法、いやぁ…」


 今日一日全くと言っていい程に成果が出なかった。

 どんなに適正がない人物でも、本来なら火の粉程度の魔法は出せる。だが、アテーナはそんな毛ほどの才能も無いのか、音すら鳴らない。

 一方のアーサーは火の粉くらいなら百回に一度は出せるようになっている。

 こちらも大概の才能なのだが、アテーナは焦りを覚えていた。布団を強く握りしめて、歯を噛みしめる。


 「置いてかれない、絶対私も頑張る」


 棒みたいになっている足を立たせて、服を脱いで着替える。

 白いローブを身にまとうと、剣神の姿へとアテーナは身を変えた。

 月が照らす夜に、窓から出たアテーナは一直線に飛んでいく。

 風に吹かれるアテーナは、夜空に浮かぶ流星のように飛んでいき、下にいる人々は流れ星と勘違いして祈っていた。

 視界に見えてきたのは、大きな屋敷。小さな貴族の屋敷と違い、豪勢で立派だ。

 ここに住んでいる人物にこそ、アテーナは用があった。

 玄関をロックすると、鍵が開いた音が聞こえた。

 扉を開けると、一人の女が紅茶を飲んでいるのが見える。

 黒い髪でツインテールの女。片眼鏡の先から覗く綺麗な瞳はこちらを見向きもしないで、机の上だけに向けられている。

 一瞬だけ、彼女がこちらを見た。また視線を机に戻した彼女はカップをソーサーに置く。


 「剣神、何の用」

 「実は今日お願いしたいことがあるのよ」


 態度も変えず、女は机の上から動かない。その代わりに、魔法で彼女の目の前にある椅子を引いた。

 アテーナは彼女の思惑通りに、椅子へと座る。


 「それで、内容を簡潔に」

 「魔法を教えてほしいの」

 「それ以上強くなってどうするの?世界でも滅ぼす大魔王になりたいの?」


 女は真剣な眼差しで剣神を見ていた。決して表情には出さないが、こちらの真意を探っている。

 どこまでが本気なのか、それを知りたい女は手をカップから離して、真っ直ぐに顔を上げた。


 「〈上古の魔神〉を頼ればよくて?なぜ私に頼むのかしら」

 「……参考にならなくない?他の子もそうだけど」


 剣神の言葉に思わず頷いてしまう。確かに、賢王八雄の魔法使いは教わるのには向いていない。

 魔神は特にで、無詠唱に使う魔法と詠唱から学んでも彼女の魔法は古代語故に理解できない。

 自分に教わりに来るのも納得していた。

 カップを持って紅茶を飲むと、静かにソーサーに置く。

 女にとって別に魔法は教えてもいい。だが、なぜ剣神がこんな事をするのかだけが疑問であった。

 何がしたいのか分からない事だけが怖い。


 「剣神の目的は?」

 「聖女の秘密だよ」


 女は目を細めて剣神を見つめる。

 急に来て要件だけ告げて、理由も教えないとは、教わる気があるのか。

 しかも浮いた声で言うのだから、余計に何なんだと思ってしまう。


 「私には仕事がありますので」

 「そこをお願い!いつか、今度!何でも一回だけ絶対に手を貸すから!」


 女は一息つくと、口に手を当てて考える。断ろうと思っていたのだが、魅力的な条件がきた。

 〈救国の聖女〉、〈神代の剣神〉に恩を売れると考えるなら、確かにこの話はありだ。寧ろ、魔法を教えるくらいなら安いものである。

 ただ勿論、魔王を作ってしまいそうで恐怖もあるのだが。


 「賢王八雄第三席〈狂乱の魔女〉ミファー・エカル。この名において剣神に魔法を教える事を誓いますわ」

 「頼りにしているわ、ミファー」


 剣神の前で淡々と話すこの女こそ、賢王八雄第三席〈狂乱の魔女〉ミファー・エカル。

 最も剣神魔神に近いとされ、賢王八雄随一の魔法使い。

 一般魔法使いにて最強とされる英雄の一人。

 そんな人物に教えを乞えるのが剣神の強みである。

 早速ミファーは立ち上がると、いくつかの魔導書を本棚から取り出した。

 何冊かを重ねると、机に一通り並べていく。

 『上級魔法入門書』『炎の書』『癒しの書』『聖魔大全』。

 どれも高位の魔導書であり、上級魔法使いでも全ての内容を習得しているものはいない。

 剣神はこれらの魔導書に目を回していると、ミファーが片手を広げて、本を見せる。


 「どれがいいかしら?私的には、貴女程の魔力量と実力者ならすぐにでも聖魔大全に入ってもいいと思うわ」


 並べられた本をそれぞれ見せると、静かに剣神を見つめる。

 剣神は並べられた魔導書を見て、全ての表紙の内容を確認する。


 「えっと、何語?」

 「は?え?ん?いや、え?魔導書の表紙よ?上級魔導書でも初級魔導書でも文字は変わらないわよ?基礎的な魔法文字よ?」


 目を大きく見開いて、気の抜けた声を出す。

 どうしたって初心者、少しでも魔法に触れたことのあるものなら読めるレベルの文字である。

 文字通り子供ですら知っている内容を読めない剣神に、ミファーはしばしの間固まっていた。

 ようやく手を動かすと、紅茶のカップを持ち上げて飲む。ソーサーに戻した後、また暫く固まった。

 なにを言っているのか、冗談なのか?だが目の前の剣神は首を傾げていて、こちらの様子を見ている。

 ミファーは頬を引きつらせ、剣神を見た。


 「えっと、そしたらこれはどうかな?」

 「あ、これなら分かる!」


 ミファーが出したのは子供用の魔導書。しかもまだ文字も読めるか怪しい子供に絵と共に教えるものだ。

 それでようやく分かると言った剣神に、額に手を当てたミファーは唇を歪ませた後に緩ませる。


 「いいわ、これくらいならタダで教えてあげる。対価を貰おうとした私が馬鹿みたいよ」


 笑って立ち上がったミファーは、早速魔導書を開いた。

 一つ一つの単語の読み方を教えていき、一先ず剣神を帰らせる。


 「一週間かけて覚えてきなさい。まずはそこから」


 最初の課題を出すと、剣神は頷いて本を持っていった。

 お礼をして帰っていく剣神を軽く見た後、ミファーは椅子に腰を沈める。


 「焦ったわ。剣神が突然私の元に来るなんて」


 安堵の息をついて、肩の力を抜く。

 来たばかりの時は何をしに来たか分からず、警戒しかなかった。だが、存外にも簡単な要件であって良かった。

 これで賢王八雄としての仕事の押し付けなんかだったら、発狂していたぞと思いながら冷静になっている。

 ミファーは立ち上がると、ペンと紙を取り出した。

 考えるような仕草をして、紙の上に止まる事なく書き続けていく。どれも魔法習得の為のステップが纏められたものだ。一つ一つが詳しく書かれていて、未熟な者から魔法を扱う者までに学びがある内容だ。基礎から応用を順序だて、応用はスキップできる用に工夫されている。

 誰にでも分かりやすい様な内容は、ミファーの能力故であった。理解度が高いからこそ、問題点を多く書くことが出来ている。

 一通り書き終わったミファーはペンを置くと、一息ついて腕を伸ばした。


 「これをどれくらいの時間でこなせるか、頼まれた以上はやってやるわよ」


 常に興味が無いような目で、無関心なミファーは意外にもしっかり教えようとしていた。

 ずっと変わらない表情だが、手をしっかりと動かしていた。本人なりにやる気はあるようだ。

 その優しさが隠れているところこそ、彼女が他の賢王八雄に付け込まれる原因なのだが。

 

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