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人嫌いの聖女様  作者: 天羽
第一章 学園入学編
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【0-3】意志のある魔剣

 フィアレス学園では主に社交、魔法学、魔剣学について学ぶ事ができる。

 特に魔法学は一流の講師がっていて、古代から現代の魔法学の基礎応用を学べる。

 ただアテーナは魔法を扱えないし、アーサーも魔法が扱えないので主に選択していたのは魔剣学だった。

 魔剣学は魔法学程講師が充実してはいないが、元軍人や名のしれた魔剣士が講師をしている。

 アテーナはアーサと共に実践魔剣学の教室へと向かった。教室に入れば、暑苦しい空気と汗の匂いが鼻に入ってくる。

 アテーナは瞬時に後悔をした。教室では、既に多くの男子生徒女子生徒問わず、全員が腕立て伏せやスクワット、基礎的な筋トレをしていた。


(無理、こんな暑苦しい感じと思ってなかった)


 「魔剣士の基礎は体力だ!いいか、基礎を怠るものは魔剣士になれない!」


 教師が大声で叫べば、生徒たちが耳を貫くような勢いで返事をする。思わず顔をしかめて耳を塞ぐアテーナとアーサは、そそくさと教室に入っていく。

 教師が教室に入ってきた私達に気づくと、二人へ近づいてくる。

 アーサーはアテーナの肩をつかんでよりかかり、怯えていた。

 

 「君たちは初めて見るな。編入生かい?」

 「ええ、アテーナ・ガラティアよ、よろしく」


 噂の編入生かと教師は納得したように頷くと、隣にいたアーサーに目を向けた。アーサは心臓が跳ね上がるような感覚に襲われ目をそらす。


 「君はずっと休んでいたアーサー君かな?よく来てくれた」

 「え、あ、はい」


 教師はニッコリと笑って二人を受け入れた。

 教室にいた生徒達も二人を仲間として受け入れ、笑顔で迎え入れる。

 思っていた反応と違った二人がその場で立ち止まっていると、教師と他の生徒が手を引いた。

 抵抗する間もなく掴まれると、お近付きの証とダンベルを差し出す教室の人たちに、二人はいじめとは違った絶望を覚えるのだった。


 「新たな仲間が来たということだ!歓迎として、初日は軽めにやっていこう!!」

 「そ、そんなぁ!!」


 悲鳴を上げる二人だが、汗を流して気持ちのいい笑顔を浮かべる教室の皆を見れば、断れないのだった。

 後日、二人は関節の隅々まで痛みに悶えて、寮の部屋で一日を過ごす事になる。



 ■ ■ ■


 関節の痛みで立つのも辛くなったアテーナは、学園側に休みの申請をした。寮のベッドの上で本を開いて読み始める。

 小説の世界に熱中しているアテーナは、ふと学園の外に目を向ける。

 しおりを挟んで小説を机の上に置くと、アテーナは髪や服装を整えだした。

 普段のだらしない見た目とは打って変わって、整えられた髪にしわのない服、白一色に染まった姿になる。


 「賢王八雄級の魔力反応、一体どういう事?」


 窓から飛び降りたアテーナは、魔力反応がある場所へと向かっていた。

 学園の者に見つからないように移動しながら、魔力反応の元を隠れみると、見たことのある青年が立っていた。

 アーサーは無機質で感情の抜けた様な表情をして、剣を地面に突き刺している。

 黒の刀身の紫の意匠が波打って、魔力が剣に巡っている。巡る魔力は地面につたい、ひび割れたように紫の魔力が地面に広がっていた。

 その状況を見たアテーナは、すぐさまアーサーの背後をとると剣を首へと振る。

 音が遅れてくる剣速は、峰でアーサーの首へと振り付けられた。

 首に迫る刃に、アーサーは気づかない。アテーナがとったと思った瞬間、アーサーが突然首を後ろに回し、その無機質な瞳でアテーナを見た。

 アーサーは迫る刃に地面から剣を引き抜き受け止める。流れるような動作で振るわれた剣に弾き飛ばされると、アテーナは体制を整える。


 「魔剣に意識を奪われているのか」


 アテーナの剣に対応できる剣速と直前まで背後に立たれた事すら気づかなかった筈のアーサーの超反応。この二つにアテーナは心当たりがあった。

 魔剣の侵食と呼ばれる現象だ。

 魔剣には二つの種類があると言われている。

 一つは魔剣士が生み出す専用の魔剣。これは一般的な魔剣で多種多様な能力を秘め、その魔剣士固有の魔剣となる。

 そして二つ目、古代の魔剣。古い時代の魔剣士が使用していたものが現代に残ったものだ。

 新たなる主を探す魔剣は、見定めた人間が本来扱う筈の魔剣を侵食し、我がものとする。

 大抵は強力な力を持っているが、稀に意思を持った魔剣が存在する。この意思を持った魔剣が厄介で、多くは以前の主を求める者や凶暴性が高まり暴走しているものなどだ。

 アテーナは三本自身の魔剣を所持しているが、二本は古代の魔剣である。

 強大な力を持った魔剣だが、アテーナは目の前のアーサーの方が目を惹かれた。本来なら身体の主導権を持つ魔剣を見るべきなのだが、アテーナにとってはさして興味が無かった。


 『強い、人間。賢王八雄、か』

 「賢王八雄第一席、〈神代の剣神〉」

 「そうか、剣神か。ならば、よい贄になりソうダ」


 そう言うなり、アーサーは一直線に突っ込んでくる。地面を蹴ったかと思えば、空いていた距離を一息で潰し、剣神に剣を振るう。

 同時、アーサーの持つ魔剣から赤い蔓がいくつも伸びると、剣神に襲いかかる。

 意思をもっているかのようにうねうねと動きながら剣神に狙いを定め、逃げ場を潰すように囲んだ。

 剣神が周囲の蔓を見回すと、一斉に蔓が襲いかかってくる。

 迫りくる蔓に体を回した剣神は、そのまま何回転もしながら無数の蔓を斬っては落としていた。


 「あーそういう攻撃もある感じね?蔓は〝一種類〟しか見えなかったからありがたいわ」

 『ナぜ、我のチカらを知って、いル』


 アーサーの魔剣から青色の蔓が伸びると、槍のような一直線の軌道で伸びていき、剣神の手足へと飛んでいく。

 突然の新たな攻撃だったが、剣神は見もせずに蔓を切り落とした。むしろ既にいくつも切り落としている赤い蔓の方に警戒を割いている。


 『その眼、きサマ』

 「随分博識な魔剣なのね?〈叡理の魔眼〉を知ってるなんて」


 〈神代の剣神〉の顔から覗く銀に輝く瞳。美しさよりもまず感じるのが無意識に引き込まれるような感覚で、気を抜けば目線が外せなくなる。

 アーサーを乗っ取った魔剣は、舌打ちをし剣神を睨みつける。抵抗はやめと、魔剣を持ったまま地面に座り込んだ。


 「〈喰命(クリフォト)〉成る程成る程、二代目剣神〈死白の剣帝〉の魔剣か」

 『とっと我を殺すがよい。この小僧は道連れだ』

 

 〈神代の剣神〉はアーサーを道連れにしようとする魔剣に対して、首をかたむけてじっと視線を注ぐ。

 顔の見えない剣神だが、魔剣はその布の裏にあるであろう姿に気後れし、思わず立ち上がり身じろいだ。


 「剣風情が何を思い上がっているのかな?でもまぁ君の力は魅力的。今後その男のものになるよう、しっかり調教してあげるから」

 『キサマ、ナニをする!ヤメ、ろ……』


 アテーナは魔剣を取り出す。

 白い魔剣だ。柄から刀身が雪のように白く、刀身には蒼い脈が連なっている。

 これはアテーナの魔剣。古代の魔剣ではない、アテーナ自身のアイデンティティだ。

 剣神として、アテーナとしての力の象徴。

 その魔剣の名は〈神威〉。

 歴代最強と謳われ、偉大なる神とも称される魔剣は、蒼い脈を輝かせ白い光が喰命(クリフォト)の蔓を飲み込み、全てを包み込んだ。

 光が晴れれば力なく横たわるアーサーと、横には魔剣が転がっている。

 アテーナが胸に手を当てれば、弱々しいが確かな鼓動を感じた。アーサーをアテーナは抱きかかえると、学園の寮へ忍び込み、静かに彼の部屋のベッドに寝かせるのだった。


 ■ ■ ■


 アーサーの暴走を止めた日、アテーナはサテナの部屋に忍び込んだ。

 窓から侵入したアテーナは、椅子を二つ用意し、足を組んで優雅に紅茶を飲んでいるサテナを見る。

 アテーナが来る事を予期していたのか、サテナは既に窓に手を振っていた。気にした様子もなくアテーナは部屋に入ると、席についた。

 机に置かれたティーカップを持ち上げ口をつける。

 甘い、フルーツのような甘みが口いっぱいに広がった。渋みもないさっぱりとした紅茶を飲み干すと、小さな音を立ててソーサーにカップを置く。

 アテーナの目は、サテナの顔をみつめ責めるように鋭さを秘めていた。


 「やっぱりアーサー君は暴走したか」

 「知ってたなら何で伝えなかった」

 「姉様ならなんとかするって確信してたからね」


 何事もないように平然と振る舞い、首を傾けるサテナは微笑んでいた。

 アテーナはサテナを見る目を細め、さらに視線を強くする。


 「姉様らしくない。世話しなければならないとは言え、随分と心配するね?」

 「心配はしていないわ、人間なんて皆嫌いだから。けれどもあの魔剣は別よ。賢王八雄に即座に連絡しなければならない一級危険魔剣よ」

 「だったら問題ないね。僕が知っていたから」


 得意げな顔をするサテナにアテーナは鼻で笑い、冷たい視線を向ける。


 「五席が粋がらないで」

 「言ってくれるね?僕だって賢王八雄第五席〈無窮の賢者〉だけどね」

 「あれに対処するなら四席より強くなってからにしなさい」


 アテーナの高い評価にサテナは目を丸くする。

 圧倒的強者ゆえにアテーナは他者の実力への評価は弱いの一言で片付ける事が多い。だがそんなアテーナが高く評価し警戒していた。


 「肝に命じておくよ、僕の愛しい人」

 「あっそ」


 そっけないアテーナの態度にも、サテナは頬を緩ませ感激している。僕の姉はなんと素晴らしいのか、サテナは感慨にふけりながら、窓から出ていくアテーナを見送った。


 「姉様、姉様、どうして貴女はこんなにも美しく気高いのですか」


 姉様に向けられた冷たい視線にサテナは興奮し、鋭い視線に高揚感を覚えた。

 自分の用意した紅茶を飲んでくれた姉様に、サテナは口に合うかの不安と安堵を感じた。

 姉様がいた部屋の空気を逃さないよう窓を締めると、サテナは大きく息を吸い、浮かれた顔で満足するのだった。

 

 「あーでも、余計な男がいる」


 寒気を感じるような表情で、サテナは男子寮の方を睨みつけた。その目には憎悪と嫉妬が浮かんでいる。

 サテナは手を前に出すが、すぐに抑えて頭を掻きむしる。

 怒りが収まらないと行った様子で、落ち着こうとゆっくり息を整える。胸に手を当てて、目を閉じながら呼吸をした。


 「これは仕方がないんだ。彼は剣神の代わりに育てなければならないから」


 自分に言い聞かせるように呟くサテナは、自身の中に渦巻く感情を必死に抑えるのだった。

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