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人嫌いの聖女様  作者: 天羽
第一章 学園入学編
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【0-2】学園へ

 サテナによってフィアレス学園への入学を決められたアテーナは、部屋の中で駄々をこねていた。

 しかめっ面で枕を抱いて、アテーナは部屋の隅で喚いているので、サテナは枕を取り上げる。


 「嫌だ嫌だ嫌だ」

 「剣神様が情けない姿見せないでよ」


 薄く笑いながら見るサテナの目に、アテーナは睨み返す。サテナは意にも返さないで、薄い笑みを顔に貼り付けていた。

 アテーナの抗議など無駄とばかりに、サテナは書類を多く机に置いていく。全てフィアレス学園に関連するものだ。


 「姉様最愛の弟からのお願いだよ?」

 「分かったわよ。聞けば良いのでしょ」


 流石姉様とサテナは鼻歌を歌って、機嫌が良くなっていた。

 幸せに顔を一杯にしたサテナは、浮かれていたがしっかりと話は進めていく。


 「対象の名前はアーサー・アレクトル。フィアレス学園には珍しい平民、それも公国の生徒だ」

 「平民がわざわざあの学園に?」


 フィアレス学園と言えば、貴族の子弟が多く通う学園だ。王国にはあるが、東諸国の貴族が多く通う学園で、他国から来るのは珍しい事では無い。

 だが平民で他国出身というのは稀だ。フィアレス学園は門戸を身分問わずに開いているが、内情としては貴族の子弟が殆ど。

 平民が学びに入るのは、高名な魔剣士や魔法使いの弟子か、推薦を受けたものだけだ。


 「そうそう、ちなみに推薦者はいないし、誰の弟子でも無いよ」

 「それ、その子大丈夫なの?」

 「ううん、大丈夫なわけないね。執拗な嫌がらせは毎日だし、決して居心地は良くないだろうね」


 まあ想定通りだった。貴族の子弟が身分違いの平民なんて受け入れるわけがない。

 王族である私も中等部では散々いじめられていたのだ。平民なんて格好の的だろう。

 苦しい思い出を振り返り、アテーナは苦い顔をしていた。彼女にとって学園のような貴族の集まる場所は近寄りがたい、記憶を刺激するものだった。


 「それで気にかけてはいたんだけどね、最近彼の魔剣を見してもらったんだ。するとビックリ、まさか彼の所有する魔剣が賢王八雄クラスでね」

 「へぇ?」


 賢王八雄は東に存在する最強の八人が名乗ることが許された称号で、そこに名を連ねる魔剣士の魔剣はどれも強力だ。

 一般的な魔剣とは性能から違い、特異な力を扱う事も多い。

 そんな彼らと同等と言えば、それだけで力が証明されているようなものだ。


 「サテナがそういうならそうなのでしょうね」

 「多分僕の魔剣より強いよ」


 つまりは賢王八雄上位に食い込む潜在能力を持っているということだ。サテナは賢王八雄第五席、そのサテナより強いなら、将来性は担保されている。

 ゆくゆくは次期剣神候補になってくれるだろう。

 アテーナは前々から思っているのは、剣神という今の立場を辞めたいのだ。ある事情で力を手に入れたが、剣神になったのは成り行きである。

 本当は社交の場にも出たくないし、戦場にも行きたくない。一人城で本を読んで、政略結婚もしないで静かに暮すのが目標なのだ。

 このままいけばサテナが王になり、それは叶うのだが、いかんせん剣神の立場だけはどうにもならない。

 今の賢王八雄は八人中魔剣士は三人。しかも第一席の私を覗けば、魔法使いでもあるサテナが次点の魔剣士になるのだ。

 剣神の称号は魔剣士で最も強い者に与えられるのだが、それが第五席では魔剣士の面子が悪い。

 だからとっとと後任を育てなければいけないのだが、中々才能のある若者がいなかったのだ。


 「私が今の立場を捨てるためには必要か」

 「という訳で、この書類にサインしてね」


 肩を落としながら、アテーナは何枚もの書類にサインしていくのだった。

 同じ様な内容を何回も書く作業に嫌気がさしたのは当然で、アテーナは途中から虚ろな目で作業していた。



 ■ ■ ■


 急遽フィアレス学園への編入が決まったアテーナは、諸々の書類を書いた後、いつの間にか編入の日になっていた。

 王族御用達の馬車の中で眠っていれば、従者に起こされ馬車から降りる。

 フィアレス学園の校舎は華美で豪華な外観だった。各地から貴族の子弟や王族が通うだけの事はある。

 校舎の中に入れば、明らかに見たことのある男が笑顔で待っていた。

 暗い影を顔に落とし、アテーナは思わず舌打ちをする。目の前にいるサテナに、視線を合わせようともしなかった。


 「姉様、僕の事が嫌いなのですか?」

 「別に、ただ貴方といると周りがうるさいの」


 サテナと話していると、周囲の生徒たちが二人を見て、何やら話していた。


 「出来損ない王女が弟にわざわざ出迎えさせているわよ」

 「サテナ様しか縋る方がいないから、情けないわね」


 その声は勿論アテーナの耳に入っていた。眉を震わせながらも、アテーナは下を向くだけで何も言わない。

 一方のサテナは、笑顔でアテーナに話しつつも、内心穏やかでは無い様子で口元が震えていた。


 「取り敢えず、二年生のクラスへ案内してくれるかしら?私従者がいないから、サテナが案内して」

 「勿論良いよ」


 投げやりに話すアテーナに、サテナは笑顔で頷く。

 アテーナは自覚していないようだが、アテーナが周囲から馬鹿にされているのは、出来損ないだからだけではない。

 そもそもアテーナが他人を見下している態度が悪いのだが、サテナはそれを口に出す事無く、アテーナを笑顔で案内していた。

 二年生のクラスへ行くと、サテナは一年生のクラスへと戻っていく。

 アテーナはクラスの扉を開けると、中に躊躇無く入っていき、自分の席であろう空席に座った。

 周囲が何か言うのも気にせずに、荷物の中から小説を取り出すと開き始める。授業が始まるまでの間、静かに本を読んでいるのだった。

 授業が始まれば、教師が教壇の前に立って、話を始める。朝の簡単な朝礼が終われば、アテーナの名前が呼ばれると、教壇の前に立たされた。

 クラスメイトの視線がアテーナに集中する中、アテーナは地面を見ながらどう切り抜けるか考えていた。

 

 「アテーナ殿下、挨拶を」


 挨拶を促されるが、アテーナは何も話さない。目を瞑って、何を言うか考えていた。

 無難に『よろしくお願いします』とだけ言えば良いのだが、アテーナは何を言えば良いのか考えつかず、あれこれと考え口を開いては閉じていた。


 「アテーナ・ガラティアよ。分かると思うけど、ここガラティア王国の第三王女。あなた達と馴れ合うつもりは無いから」


 クラスメイト達の様子が明確に変化する。アテーナの物言いに憤慨するものや、出来損ない王女が抜け抜けとよく言えるものだと嘲笑う者。

 嘲笑や侮蔑の視線がアテーナへ注がれる。その視線に萎縮しながらも、堂々とした振る舞いで席に向かう。

 アテーナの頭の中は不安と強がりな態度で一杯で、教師の話も周囲の声も聞こえなかった。

 一人小説を読んでいるアテーナを、隠れてみている者がいる事にも、アテーナは気づかない。


 ■ ■ ■


(そう言えば、アーサが依頼した対象ってどこにいるのかな。二年生なのは知っているけれど、顔や名前は興味が無くて聞いていないのよね)


 読んでいた小説を閉じると、周囲を見渡してそれらしき人物を探す。

 動くのも面倒くさいと、アテーナはその場に座ったまま辺りを見渡し、首を忙しくなく動かしていた。

 それらしい人がいないか首を回していると、背中がトントンと叩かれる。


 「あの、もう授業始まるよ?実践魔法学の授業だから、三階に行かないと」


 アテーナの背中を叩いたのは、アテーナよりも少し大きい背丈の金髪の青年だ。中背といった背丈に、あまり裕福ではないのか、肉付きは良くない。青白い肌は不健康そうで、目立つ点といえばそれと翡翠色の瞳くらいだ。

 どこか弱気で、怖気づいた態度でアテーナに話しかけ、みるからに弱々しかった。

 本当ならありがとうと感謝して移動するところだったが、アテーナはその青年の顔を覗き込んだ。

 青年はじっとアテーナに見られて体を引っ込める。怯えた青年を気遣う事もなく、アテーナは青年を見回した。


 「名前は?」

 「僕はアーサー・アレクトル。君と同じクラスメイトだよ」


 教室を見渡した時にこの青年はいなかった気がするが、クラスメイトなのか。

 アテーナが首をかしげていると、アーサは静かに笑って目線を下に向ける。


 「僕は教室にいると皆に煙たがられるから、朝はいつも教室にはいないんだ」

 

 目を伏せて自嘲気味に話すアーサーに、アテーナはただ黙って彼の顔を見つめるだけだった。

 また見つめられたアーサーは、何をすればいいのか分からずにあたふたし、言葉にならないような声を出している。


 「まぁいいわ、一緒に教室に行きましょうか。案内してくれる?」

 「う、うんいいよ。ところで君の名前は?」

 「アテーナ・ガラティアよ、よろしく」


 常に震えていて、動きもぎこちないアーサーに通じるものを感じたのか、アテーナは特に邪険な態度を取ることは無かった。

 二人は教室を出ると、アーサーの案内で実践魔法の教室に入る。

 教室では生徒が既に座っていたので、アーサーは後ろの席にアテーナを引っ張った。

 授業が始まると、実践魔法学らしく教師が目の前で魔法を見せてくれる。

 広い教室で教師が魔法を放てば、水が木の人形を貫いた。生徒たちは教師の魔法に歓声をあげる。


 「ねえアーサー」

 「ど、どうしたの、あ、アテーナさん」

 「アーサーは魔法が使えるの?」


 アーサーは黙って何も答えなかった。ただ視線を地面に向けて、アテーナの顔から逸らした。

 それだけで、彼が魔法を使えないことが分かった。アテーナは、彼の手を両手で握る。


「奇遇ね、私も使えないのよ」

「え、アテーナさんもですか…?」


 意外そうにアーサー目を開いていた。

 自分だけが魔法を扱えないと思っていたのか、アーサーは目をパチパチさせている。


「情けないって笑うかしら」

「そんな事ありません!僕だって魔法を使えないし」


 アーサーは肩を落としているアテーナを必死でフォローする。

 気にしないでとアテーナを慰めれば、アテーナは口の端をムズムズさせていた。


「貴方もしかして知らないのね?私のこと」

「え、はい。今日初めて会ったので」


 真っ直ぐな目をするアーサーに、アテーナは口元を片手で隠して微笑む。


「ガラティア王国の出来損ない王女、それが私よ。出来損ない王女って聞いたことあるでしょ?それ私なの、だから関わらないほうがいいわよ」


 アテーナが自嘲気味にすれば、アーサーは首を振ってアテーナを見た。

 アテーナが怪訝そうにアーサーの顔を見つめる。アーサーは、その翡翠の瞳をアテーナに向けていた。


「聞いたことないし、アテーナさんの事出来損ないなんて思いません!それに、この学園で僕と話してくれた初めての人なので…アテーナさんを無視するなんて出来ないです」

「そ…」


 アテーナはアーサーをちらりと見ると、授業に集中する。アーサーもアテーナと共に授業を真剣に受けるのだった。

 アテーナがアーサーに対して視線を向けては何度も逸らすのだが、アーサーは気づかない。


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