引き継ぐ夢
「はあはあはあ」
その後も夢中で数騎撃破して気付いた時にはすでに敵は撤退したらしくあたりに見当たらない。
動いている騎体は味方だけとなり、その生き残った騎体は、燃え上がる荷物の火を消そうとしたり荷物を運んだり何かしらの作業をしていた。
「利津子」
速射砲を投げ出し、利津子の騎体に駆け寄る。
ガシャン
騎体のハッチを開けると、むせかえるような血の匂いが鼻についた。
「大丈夫か?」
利津子は綺麗な顔で眠っているような優し気な微笑みを湛えてそこにいた。ただ先ほどと違うのは座席が撃ち抜かれて無くなっていたところだった。
「……」
三木は無言で利津子を騎体から下ろし、赤く照らされた大地の上にゆっくりと据えると、血の匂いに混じりほのかに甘い香りが鼻を掠めた。
「利津子ちゃん……」
おじちゃんとおばちゃんが顔に手を覆い嗚咽を漏らし、ごめんね、ごめんねと繰り返し呟いていた。
「だから……言わんこっちゃない」
利津子の顔が段々と歪んで見えてくる。
「別嬪さんだったからなぁ顔やられなかっただけよかったのかなぁ」
後ろからザリザリと音を鳴らし川濱が様子を見に来た。
「なあ、川濱ぁ」
「何だ?」
「今までも……澤田とか片桐とか戦死しても涙が出えへんかったのに……何でやろなぁ」
「それは、君が恋をしていたから……かな」
川濱は優しく語り掛ける。
「そっかぁ……恋かぁー」
そう言うと三木は星を見上げて流れるままに涙を流し続けた。
しばらくして椿と連隊が息せき切って駆けつけてきた。
「遅かった」
椿はかぶりを振って、やることはやると指示を出し始めた。
「疲れている所申し訳ありませんが、生存者の救護と被害にあっていない物資の搬入を開始してください」
「念のため敵の去って行った方角へ斥候を出してください」
指示を出しつつ歩き回るうちに三木たちの所に差し掛かる。
「大丈夫ですか? 元気なら手伝って……」
その言葉を聞いた途端、三木が怒りのあまり興奮し捲し立てた。
「今の状態を見てそんなこと言いはりますか」
「状況とは?」
そう言って利津子に目を向けると「そうか、軍人なのだから仕方がない」と話すと三木はエスカレートして口角を上げ言葉を放つ。
「そもそも国が勝手に戦争して、才能があるからって勝手に徴兵して、死んだら軍人なんだからってなんですか、それ? おかしいじゃないですか!」
「この子、利津子は貴方の事を慕ってたんですよ。女性なのに凄いって。利津子自身は小説家になりたくて、進学しないと見合いをさせられるからって進学し、でも普通の大学は親が許してくれないからって教員育成の学校に行って、学校の教員の傍ら執筆しようとそこまでして夢を叶えようとしていたんですよ」
「利津子は死に損だったんだ! みな貴方の幻想を見ているに過ぎない。貴方は所詮既得権益に乗っかって権力争いをしているに過ぎない!」
三木の様子を見て川濱は二人の間に分け入って三木を必死になだめつつ「司令、申し訳ありません。三木はいいヤツなのですが、取り乱しておりまして……」
「取り乱してなどいない!」
「いいから、取りあえず黙れ!」
周囲に人が集まると三木を止め、椿に頭を下げて許しを請う。
「いいです、私たちの落ち度もありましたし」
「……」
「私は行きますので落ち着かせて下さい」
「はっ」
そう言って他の現場へ向かう椿を見送る。
見送った川濱は椿に意外な印象を受けた。
(寂しそうな眼だったな)
川濱は引き続き怒りのため黙り込む三木をなだめ続けていた。
それからもう少し時間が経過し。
「おい、三木」
石濱が手に持った物をグイと押し付ける。
「形見分けだ」
涙をふき取りそれを見ると、利津子のいつも持っていたノートだった。
「騎体の中にあった。最後まで持っていたんだな」
ノートを見開くと綺麗な文字で本で読んだもの、自分自身で見たもの、話の設定や人間関係など色々と細かく書き綴ってあった。
「本当に、なりたかったんやろなぁ」
なるべくノートを長持ちさせようとしたのか文字はとても小さく、所々血に濡れて読めなくなっている。
1ページ1ページめくってゆくと、とうとう最後のページになり、そのページは今までのページとは違い大きい字で何か書いてある。
「……」
これを拾って読んでくれた人へ
これが読まれているという事は、私がノートを落としたか、亡くなったかだと思います。
もしよかったら実家に届けてくれませんか。そして私が亡くなっているようでしたら、大変迷惑だと思いますがお願いをしていいですか。
出来るようでしたら、私の書いたメモを参考にして小説を書いていただけませんでしょうか。
よろしくお願い申し上げます。
田村 利津子 住所……
三木は胸にノートを押し抱き天に向かって吼えた。
「坂木龍麻・雉方歳一・田丹秀吉郎……お前の意思を継いで書いてやるよ! 絶対にこの戦いを生き残って書いてやるからあの世で待ってろよ!」
それは、まるで天国に旅立った利津子に届けと言わんばかりに声を張り上げ涙を見せながら叫んだ。




