利津子戦死
輜重隊
黄色の大地が段々と黒みがかってゆくころ一団の先頭が速度を緩めると、みな思い思いに口を開き出す
「今日はこの辺で休息かな」
「明日の昼には運び終えるな」
「さっさと終わらせちまいたいぜ」
そのような愚痴ともつかぬ会話を聞き流しながら利津子は相も変わらず輜重隊のおばちゃんたちと会話を楽しんでいた。
「結局、敵は来なかったね」
「おばちゃん、夜が危ないんだよ」
「利津子ちゃん、狼には気を付けるんだよ。男はみーんな狼だから!」
「あははは、気を付けまーす」
それから数刻後
三木は利津子から鬢付け油の甘い匂いがより強く広がっているのに気が付いた。
「利津子はん、何か今までより鬢付けの匂い濃くないですか」
それを聞いて利津子は「西京夏の陣」と軽く微笑んだ。
三木はそれが気に喰わぬと表情に出し「本村繁成は討ち死にするやないか! 不吉な事言うもんやない!」と叱った。
それに対し利津子は何も弁明をせずに視線を天に向け星々を眺めていた。
「狼さんはもう寝るわ」
そう言って三木は魔歩の中に体を突っ込む。
「もう、拗ねないでください」
利津子の話にどう返すか頭を働かせている最中に味方から突然発砲が始まる。
「な、なんや?」
何も分からない三木の耳に敵襲の叫び声が飛んできた。
「利津子はん、戦闘や」
下に目をやると、利津子は緊張の面持ちで頷き自騎に走り出した。
「どこや、どこから来た」
三木は周囲を見回して暗闇の中敵の動きを探る。
「見えへんなぁ。あ、あそこや」
味方の魔銃が敵の硬いものに当たっているものの、火花が散って跳ね返されている。
「うおりゃ」
ビチューン
三木の放った魔弾は敵騎に吸い込まれたものの、跳ね返されたのか反応が無い。
「よし、前進や」
ズキューン
「撃ってきやがった」
いくつかの放たれた魔弾が輜重隊の荷物に当たり、そこから引火して周囲が明るくなった。
「これは、危険や!」
後ろからの明りに照らされてこちらの姿が浮き上がり、絶好の的になってしまう。
「隊長!」
利津子の絶叫が聞こえると、三木は「着いてきーや」と言い素早く前進した。
オモテンキャブ駐屯地
「予想通りお客さんがきたぜ」
「来なくていいのにな」
「ホント、眠いわぁ」
「まったくだ」
航空騎から照明魔灯が数個落とされて、闇夜に敵が映し出される。
「それ、魔砲を開け。攻撃開始」
バガルス駐屯所
「何か物音がしねぇか」
「ああ、魔動歩兵の歩く音だ」
「間違いねぇ」
ドカーン
大きな音と共に地雷を踏んだヴィルトカッツェが折れた片足の方に倒れ込むと、ヴィルトカッツェから火の手が上がり、瞬く間に騎体を炎が包み込む。
「来やがった!」
「撃てぇ」
輜重隊
炎上した荷物は濛々と煙を吐き、周囲を明るく照らし続ける。
「敵、味方かかわりなく、隠匿した姿を浮き上がらせ、お互い気付いたのが目の前だったために、至近距離での撃ちあいとなっていた。
三木は騎を激しく動かし、的を絞らせないよう試みる。
「利津子、この1式は装甲が敵に比べると薄いのと敵の魔砲はこちらを簡単に貫く」
「はい」
「それと敵の装甲はこちらより厚く、我が方の魔砲は威力が敵より劣るので近寄らないと撃破できない」
「はい」
「当たらないよう近づく、考えて動くんや」
ビチューン
三木の放った魔弾が敵に当たると、そのまま貫通して仰向けに倒れ込んだ。
「よし、こんな感じだ」
「私も!」
ビチューン
利津子の撃った弾は敵の装甲にはじかれ傷を与えられない。
「いいで、その調子や! 初めから当てられるんはセンスあるで」
5号魔歩の銃口がこちらに向けられる。
「利津子、来るで! 横に動きー」
三木の絶叫と共に右に走り出すと、元居た場所を光の弾が通りすぎる。
「このぉ」
ビチューン
利津子の放った魔弾が5号魔歩に吸い込まれると、5号魔歩は天を仰いでそのまま崩れ去った。
「ナイスや」
三木の声に興奮冷めやらぬ口調で「はい」と言葉を返す。
「よし、アイツや」
三木が敵魔砲隊に向け弾丸を放つと、魔砲に当たり砲手たちが空高く舞った。
その時である。
「あっ」
何かに気付いたように利津子が燃え盛る荷物へ向け走り出した。
「お、おい」
「おばちゃん大丈夫?」
「この人が挟まれちゃって」
利津子は荷物の下に挟まれたおじちゃんを見ると、懸命に荷物をどかし始めた。
「ちょっと待ってて」
「利津子ちゃん、いいの、逃げなさい! あなたは若いんだから!」
「大丈夫! ほら、どかしたよ」
そう言う利津子に三木が大声を張り上げた。
「利津子! 逃げろ!」
「えっ?」
利津子が振り返ると、ヴィルトカッツェの銃口が今まさに放たれんとする所だった。
「避けたら、おじちゃんやおばちゃんが……」
魔歩の腕を十字に組み防御態勢をとると、利津子はギュッと目を閉じた。
「お父さん・お母さん・三木さん」
「無理だぁ避けろぉ」
三木の声が空しく響き渡るころに、ヴィルトカッツェの魔砲はスゥーっと放たれ利津子の1式魔歩に吸い込まれてゆく。
ドン
激しく騎体が揺さ振られると、ガックシと膝を折ってそのままうつ伏せに倒れた。
「利津子ぉー」
弾を放った敵をキッっと睨むと三木は騎体を滑らせ走り出した。
「おまえーーー」
ヴィルトカッツェは標準を三木に向け射撃するも、三木はそれを躱し敵へ向け魔砲を射った。
「くそぉ」
敵の装甲に弾かれダメージを与えられない。
そんな時、先ほど倒したヴィルトカッツェの騎体が目に入った。
「絶対に潰す」
三木は2発目の射撃を避け、倒した騎体に飛びつくと持っている50㎜の速射砲を拾い上げ、相手に向ける。
「くたばれぇええええ」
かつての仲間が持つ砲から放たれた魔弾がその厚い装甲を貫くと、ドサリと砂の上に崩れ落ちた。




