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荒野の椿  作者: クワ


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魔動歩兵小隊長と新兵

魔歩兵宿舎


「おっしゃぁークロウフォードじゃぁ、これなら負けん」

「連隊長うらやましい」

 補充部隊により、よい騎体は連隊長や中隊長およびベテランの小隊長に割り当てられ、三木の元へは届かなかった。

「まあ、当たり前やな、下手やし」

 長嘆息を吐いていると顔見知りが寄ってきた。

「よう、なに落ち込んでるんや」

「僕に魔歩割り当てないんや」

 彼は川濱と言い、同じように大学在学中に徴兵され、予備士官から小隊長と同じような境遇から三木とはわりかし気が合ってよく話し相手になっていた。

「当然や、また壊されたらたまらへんやろ」

「壊してないがな」

「ハッハ、渡したら壊す」

「うーん、壊さへんがなぁ~」

 漫才のような冗談のやり取りをしていると、新兵がキョロキョロと何かを必死に探している様だった。

「あの子らお前んとこの部隊やないのか?」

「そうやろか?」

「ワイらの連隊、三木の小隊以外欠員でてないがな」

「まあ、確かにそうやな」

 流石に笑えない冗談を振ってきた川濱を心の中で八つ当たりしつつ、気まずい空気から逃げるため「せや、向かい行ってくる」と言い席を外した。

「ああ、行っといで」

 手を振る川濱を背にして新兵の方へ歩き出す。

「こんにちは、どないしたん?」

 三木を見て助かったと安堵の表情を見せた女性は名前を名乗った。

「私、田村 利津子と申します。 魔動歩兵第1連隊はこちらでよろしいのでしょうか?」

 年齢的に三木や川濱と同じか少し若い位か、肩ほどもある髪からはほのかに鬢付け油の甘い匂いが漂っていた。

「ああ、そうやで」

「第3小隊と言うのは……」

 田村と名乗った女性はまさに三木の隊の新兵だった。

「お嬢さん、ソイツが隊長や」

 三木が川濱の方を振り返ると、にやにやしたと笑いながらこちらを見ていた。

「はい、私が第1連隊第3小隊隊長の三木です」

「よかったぁ、やっと会えました」

 そう言って平手を顔の前で合わせ笑う利津子に川濱は「嬢さんそれ神様ちゃうねんから右手で頭にビシィーや」と言うと、利津子は慌てて敬礼をし名乗りなおした。

「魔歩第1師団、第1連隊、第3小隊に配属されました田村利津子軍曹であります、よろしくお願いいたします」

 三木も慌てて敬礼を返す。

「そういえば、嬢さんはどういう経緯でここに来たんや」

 川濱の言に利津子は一瞬時を止めて、その後口を動かした。

「私は、帝都女子高等師範学校在学中に見込みアリと兵にとられました」

「そら、難儀やなあ」

「あはは」

 本当に可哀そうな人間をあやす口調で川濱が同情すると、利津子は愛想笑いをして言葉を濁した。

(僕は西京外語大学、川濱は帝都大学で予備士官の少尉……彼女は帝都女子高等師範学校で軍曹……大学校在籍と言う意味では同じではないか)

 三木は何やらほのかに香る差別を嗅ぎ取って不快な気持ちが沸き起こった。

「で、なぜ師範学校にいったんや?」

「それは、私にはやりたいことがありました。しかし学校に行かないと見合いをして結婚しなければなりませんので」

 とそこまで聞くと川濱は「学校の先生になると時間稼ぎできるからな」とうんうんと頷く。

「はい」と嬉しそうにこちらも頷く。

「ところでやりたいことってなんなんや?」

「うーん」

 三木の質問に躊躇いを見せていた利津子だが、エイヤと思い切って口を開いた。

「歴史専攻の物書きになりたいんです」

「物書き? 歴史? 吉山英三や陸音寺塩三郎みたいなんか?」

「はい、思いついたネタを忘れないうちにノートに綴っているんですよ」

 そう言って袋から1冊の分厚いノートを取り出した。

 それはノートと言うより書籍に近く、紙の質が悪いのか所々ヨレヨレになっているのが閉じている状態からでも確認できた。

「三木、彼女偉いなぁ」

「そうやな、川濱よりエライ!」

「キミなあ」

 そう言って3人から笑いが漏れた。

 ただ、もう1人来るはずの新兵はいくら待てども来なかった。


楼湖


 エルウィンは、大砲などの鹵獲品を運び込ませる傍ら陣地を補強しなおしていると、ナイディンガーに呼び止められた。

「司令、陛下から電文です」

 そう言って手紙を渡そうとするナイディンガーに対しエルウィンは「手が離せないんで読んでくれないか」と返した。

「では、失礼ながら……まずは初戦の快勝お見事である。まずまず務めるように――との事です」

「ああ、ありがとう。あと補給の要請をしておいてくれ」

「はっ」

 ナイディンガーを下がらせ天を仰ぎ見た。

「次は簡単に行くかな? 行けばそれに越したことは無いが」

 黄色い大地の上には、深海のように透き通った青い空がどこまでも広がっていた。

 

椿陣営


「どうやらエルウィンは楼湖に帰ったようですな」

 即席で作られた不格好な枯れ木のイスがギイギイと音を立てて、何時壊れるやもと肝を冷やす。

 紛糾しているのは、以前のオドルスのバガルスに再進出するかどうかという一点だった。

「我らがここに来たのはこのような所でむなしく過ごすためではない。再進出するべきだ!」

 第5師団の師団長である昔町中将が机を叩くと、不格好な机が激しく揺れ、あともう一度叩かれれば壊れるだろうと思われた。

 他の新規で派兵されてきた師団長や航空隊隊長は昔町の意見に賛同する。

 参謀も意見が分かれ、石川参謀長は補給の観点からこの地に留まり持久戦をする考えを持ち、伊賀作戦主任参謀は持ち前の積極性から進出する意見に賛同していた。

「地雷を含め、何かしら置き土産がある可能性がある。特に諜報されるような魔法が仕掛けてあったりしたらこちらの情報が筒抜けになる」

 乃本元帥はそう憂うと周りを見渡した。

「我が軍にも工作兵はいるわけですから、各部隊の兵を含め対応すればよい」

「その間に、攻撃を受けたら指揮命令系統に混乱が生じます」

 椿の意見に皆黙った。

「エルウィンとの戦いで物資を多数失ったゆえ補給物資が欠乏しているのだ、補給が来るまで待ってくれないか」

 参謀の一人がそう言うと、昔町がせめて我々だけでも進出させてくれと食い下がる。

「第1・11・14師団に加わった補充兵は新兵ゆえ訓練が必要でしかも想定していたより少なかった」

「次の補給はいつくるのですか」

 椿の言葉に参謀は「補充が終わったばかりですので、しばらく先になるかと」と言葉を濁す。

「石川君、ここは我らの顔を立てて折れてくれないだろうか」

 そう優しく諭したのが第18師団の師団長白武であった。

 これに石川も動かされ、第5・18・26師団などの増援部隊をを先行させ、先行し消耗している第1・11・14師団と付随している部隊は編成の後追いかけるという形で決まった。

 会議終了後、書類をまとめ終わると椿は夜風に当たりにテントを出た。

 昼間あれだけ暑かった大地も、日が落ちると途端に冷たくなる。

「私はこの戦い勝てるのでしょうか」

 椿のつぶやきは、風に乗せて星が瞬く夜空に運ばれていった。

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