エピローグ
それから10年ばかり経ったある日。
「ここ国会議事堂、初の女性議員たちが登院してまいりました」
「今回の選挙から女性に参政権が与えられ、沢山の女性議員が誕生しました。新しい風に期待しましょう」
椿は軍人の地位を辞し、女性参政権獲得のために精力的に働いた。
始めは男性を中心に否定的な者が多かったが、人権を重視する進歩派や翔陽を周辺国より劣っていると思わせたくない愛国者、さらにはスチューザン王国のメアリー女王の声掛けもあり、何とか選挙にこぎつけることができた。
彼女自身は貴族院に属することも可能だったのだが、あえて選挙と言う形に拘り立候補した。
秋川 椿 衆議院 帝都地区トップ当選。それどころか全国トップ当選。
阿垣 貴子 衆議院 西京地区3位当選。
西川 幸枝 衆議院 帝都地区4位当選。
「おはようございます、秋川司令」
「もう、司令ではありませんよ」
「では、秋川党首」
阿垣は困り顔の椿をからかい笑い出した。
「もう……」
「そういえば、聞きました?」
「何をです?」
「モキタル語を喋れた青年がいたのを覚えていますか?」
「ああ、たしか三木中尉でしたっけ?」
「そうそう、彼、小説家になって坂木龍麻の物語を書いて大ヒットさせたんですよ」
「三木と言う名の小説家、居ましたっけ?」
「右丘 遠一郎と言うペンネームだそうですよ。なんでも春秋右氏伝を見ていた時に思いついたそうです」
道すがらよく知っている声が聞こえてきた。
「椿、がんばってね」
「お姉ちゃん、頑張れ」
「お母さん、ミア、どうしてここに?」
「応援に来たの」
ミアは弟である海の複座の射手を務めていたスチューザンの戦争孤児であり、決戦時に戦闘騎に乗り換えた海が自分が死んだあとの事を考え養子に迎えようとしたところ、未婚の海に養子を取らせられないと父が代わりに養子にした娘で、今は二十歳位になっていた。
「みんなが居心地のいい舞台、作れたみたいね」
「ううん、まだまだこれから」
「お義父さまも生きておられたらどんなに喜んだことか……」
心地よい風がスッと吹き抜ける。
「おじいちゃんが来たのかも」
「ふふ、ミアったら」
「海は、海軍かな?」
「しばらく帰れないみたい」
「そっか……」
椿は寂しそうに呟いた。
「党首、みなお待ちですよ!」
待ちわびた阿垣が呼んでいる。
「あ、ごめんなさい。お母さん、ミアまた後で」
そう言って阿垣たちの元へ駆けだした。
「ごめんなさい」
「そういえば、さっきの話。右丘 遠一郎さん、新しい小説を執筆するそうですよ」
「へぇーそうなんですか? 今度読んでみようかしら」
「それもいいですが、党首の仕事を忘れないでくださいね」
「ふふふ」
それから流れるように時が過ぎて。
「右丘先生、新しい小説について一言」
出版社の一室に拵えた会場に詰め掛けたマスメディアが放つカメラがパシャリパシャリと鳴るたびに三木の視界が失われる。
その後、三木は利津子との約束を果たすように、雉方歳一や田丹秀吉郎を始めとした数々の人物を主人公とした小説を立て続けに発表し、押しも押されぬ国民的ベストセラー作家になっていた。
「私は、若かりし時に亡くなった仲間にあることを誓いました。その誓いはある程度叶えたとは自負しています。そこで、受け取った物を多少返そう、そう考えまして……そう、あの人がもし生きていたら、書きたがっていたあの一連の出来事をこのように書くのではとなるべく文体などを似せるように筆を執りました」
初老と言っていい年になった三木は少し照れくさそうな笑顔を浮かべた。
「と、言いますと?」
司会のアナウンサーが興味ありげに話を振る。
「私が小説を書こうとする切っ掛けを与えてくれた人達に捧げる物語でもあります。この出会いが無かったとしたら私は物書きにはならなかったでしょう」
その照れた顔を写そうと沢山のフラッシュがたかれる。
「文体は今まで私が書いて来た小説と比べると未熟に見えるかもしれません。が、あの人の思いをこういう形で出してあげたいと考えまして、執筆している姿を思い出しながら書き上げました」
三木は目を閉じた。一瞬にして星が瞬ぐ砂漠が広がり、目の前にある篝火の明りを頼りに、在りし日の彼女が鬢付け油の匂いを纏いながら、ヨレヨレのノートへ楽しそうに何かを書きこんでいた。
(待たせてごめんな。これは僕の書くべき作品やない、君の作品や)
「それは面白そうですね! 小説の名前を教えていただけますか?」
三木はゆっくりと目を開く。手元にはあの時よりもヨレヨレで黄ばみが進んだ書籍のような一冊のノートが握られていた。
それでは、発表します。
【荒野の椿】
あとがき
みなさま、クワの荒野の椿、最後までお読みいただきありがとうございました。
昔、制作進行時代、車の中でかけていた音楽を聴きながら、当時を思い出しつつ執筆してきたこの作品ともお別れになる寂しさと同時に、自分の中で埋もれさせてきた物を表に出してあげられた安堵感、終わらせられたという解放感のようなものが入り混じってあとがきを書いております。
この作品は、俺たちゃ翔陽天空騎士隊のスピンオフ作品でして、天空騎士隊の原案を思いついたのが、約20年ほど昔、私がアニメーションの制作進行をやっていた時でした。
出世したらいつかと思い構成を温めていたものですが、お恥ずかしいことに気力的な問題から業界を去り、宙ぶらりんになっていたものを再構築し世に出したものでございます。
翔陽天空騎士隊を書き始めたのが3年ほど前、それまでは以前勤めていた会社で必要な資格を勉強して順々に取っていたのですが、コロナ騒動で大多数の人間が出入りする場所に行く事を禁止され、試験を受けることを諦めて空いた時間でほんの少しずつ書き進めてまいり、諸事情で会社を退職することとなりまして、出来た空き時間で書きあげました。
初めは、第二次大戦を魔法の世界、パラレルワールドで書いたらどうなのかと言う所だったのですが、昨今の世界情勢から日英同盟を延長した世界線に変えまして、でしたらナチスドイツ強くせにゃいかんなっと相成り、ロシア王家乗っ取り、スペイン参戦、中東および北アフリカ占領位でバランスとれるかとなりました。
ただ、それだとストーリーが進みませんので、アナスタシア王女が東に逃げそれを諸侯が担ぎ上げる。そうすると正面攻撃の他に側面から回り込むよな、タクラマカン、ゴビの砂漠だろ、砂漠……ロンメルだなと相成りまして、それを迎撃する人物、秋川海の姉、秋川椿にしよう、ストーリーは強敵を相手にした成長物語にしようと考えました。
毎日1話更新することに決め、見切り発車で書き出したものの、サイトに乗せる前の書き溜めが1、2話分と母親の舞台のくだり、あとエピローグのみだったため、散々苦労しました。特に今回はキャラが勝手に動くという作家さんや漫画家さんがよく言われている事態に遭遇して、結局エピローグは全部書き直したり、伏線に設置したところが回収できなかったりと初めに考えていたプロットから大幅に脱線し迷走いたしました。
作品自体母親の舞台のくだりを書きたいがために始めた所がありましたので、最終的には思いを託す、思いが伝わり、思いを紡ぐをメインテーマに書き進めることと相成りました。
関西の喋り方は、私自体あまり馴染の無い地域に住んでいる関係で、芸人さんとかこんな言い回ししていたよなぁとか曖昧な記憶を頼りに書きました。もし変な言い回しがありましたら、わかってないヤツだからと笑って見過ごして頂ければ幸いです。
大変名残惜しいのですがこの辺で筆を置かせていただきます。ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。最後までお付き合いいただいた読者様に幸あらんことを。




