引き継ぐ技術・引き継ぐ思い
サルマカドン城内
ズ―ンズ―ンと小刻みに地面が揺れる。
「ここも、長くはもちそうにないな」
エルウィンは長嘆息し、小さく呟いた。
彼は疲れていた。
彼は攻勢の時はその勢いを背に受け能力以上の物を発揮するが、いざ守勢になると気が萎えすべてを放逐するところがある。
「司令、よろしいですか?」
黄金の髪を湛えた1人の男がコツコツと足音を鳴らし部屋に入ってきた。
「ミヒャエル君か、どうしたのだ?」
ミヒャエルと呼ばれた男は、一歩前に進み不敵な笑みを浮かべた。
「なぁに、ここに来て何もやることが無かったので、ちょっとばかり暴れたいとおもいやして」
「出撃許可か?」
ミヒャエル・フィットマン、辛うじて参謀本部から割いてもらったヤグアル隊の中隊長である。魔動歩兵戦のエースであり、最新鋭の試作騎を貰っていた。
エルウィンは渋った。煌敦にかつて居た師団はほぼ壊滅し、かき集めてすべて合わせても1個師団強にしかならず、しかも先の会戦で魔動歩兵は消滅し、魔砲は廃棄して撤退したのもあり絶対数が足りていなかった。その上連日のように来る爆撃騎によりそれも急速に数を減らしていた。彼らが全滅すれば戦力は無くなる。
だがフィットマンも食い下がり説得をする。彼にとってこのまま出撃を認められずに立ち枯れて騎体を失い降伏などしたくはなかった。できれば華々しく戦いたかった。
「わかった。だが日が落ちるのを待ってくれ! 迎撃騎が足りず上ではやりたい放題されている。夕方以降なら出撃を許可する」
その日の夕方。ひと際大きな魔動歩兵が歩き出した。
翔陽の兵が門を突破し侵入してくる。
「それぇ、突撃!」
元気よく進んでいた兵たちの足が止まる。
「何だあれは!?」
ただでさえ大きいヤグアルのなかにあって、その3倍はあろうという巨体を晒し向かってくる魔動歩兵がいる。
「バケモノだ」
「怖気ずくな! 砲撃開始!」
その弾は魔法障壁にはじかれ、かすり傷一つつけられない。
「よし、こちらも魔動歩兵を出すぞ!」
テムカセ隊、クロウフォード隊が前進する。
「来たぜ! 暴れるぜ」
得意の射撃を見せつけるようにフィットマンが魔砲を放つと、次々と翔陽の騎体に命中していく。
キューン
テムカセが次々と擱座炎上し、兵が命からがらハッチを開け飛び降りていた。
「打ち返せ!」
ピューン
「このラッドの魔法障壁、そう簡単に破られてたまるかよぉ」
キューン
ドーン
クロウフォドが炎上すると、それを合図にヤグアル隊が走り出した。
「うぁぁぁあぁ」
「よし、押し返せ!」
フィットマンの号令と共にヤグアル隊が突っ込んでゆく。
「なな、なんやあれ」
「三木、射撃や!」
川濱の言葉で我を取り戻し魔砲を構える。
ピューン
「ん!? 見た事ねぇ騎体だな」
ラッドが三木の試作6式目指して歩き出した。
ピューン、ピューン
「その程度では、通らないぜ」
「利津子と約束したんや! ここで死ねんのや!」
キューン
「クソが!!」
ハンドルを力いっぱい右に切り攻撃をかわす。
「フッ、やるねぇ」
キューン・キューン
何度も攻撃をかわすうちに三木の意識が飛んで行く。
夕焼けの砂漠に置いてある篝火がチロチロと龍の舌のように炎を動かしていた。
「三木隊長は背が高いですね」
「そうか? 普通やん」
「大きい人間は大変ですね。足元にいる子供に気付かない」
「子供?」
「えい」
利津子は立ち止まっている三木の足を引っ掛け転ばせる。
「利津子。何するんや」
「えへへ、私の勝ち!」
「……利津子。でもどうやって近づけば……」
再び意識がトランスに入る。
「6式の騎体が今までの物と著しく異なる点はスラスター、まあ推進器だな、これが付いている点だ」
「スラスター?」
三木の呆気にとられた問いに島中は笑いながら答える。
「そりゃー初めて聞く物なんだから分からないのは仕方がない」
「スラスターは魔力を出して進む……航空騎と同じ原理でありますか?」
「おお、よくそこに気付いた。まったく素晴らしいよ」
「そう、これは航空用発動機を後ろにくっつけたことで、ジャンプした後滑空したり、滑空最中落下位置を変えたり、走るスピードを上げたりするものだ」
「……島中先生」
スラスターのスイッチを入れると、背中のランドセルから炎が噴き出し、ラッドとの距離が劇的に縮まる。
「なんだ!? コイツ」
フィットマンが慌てて射撃をするも、三木は素早く躱し足元に転がり込む。
「どこに行きやがった!?」
「島中先生! 利津子! 見ていてくれ。僕はやる」
三木は試作6式の背中の鞘から魔力刀を引き抜き、再びスラスターのスイッチを入れる。
「この一撃で――決める!」
「うぉぉぉぉぉ」
助走をつけた試作6式の刀がラッドの硬い感覚を突き抜け空虚の空間を捉えると、その強大な身体は躍動を止め、勢いに押し切られる形で仰向けに倒れた。
「おお、アイツやりおった!」
「よし、総攻撃じゃぁぁぁぁぁぁ」
エースが操るラッドが倒されたことにより、プロイデンベルクの戦意は喪失し、その日の未明エルウィンは降伏を申し出てきた。
「秋川司令」
「乃本元帥、どうしました?」
「エルウィン元帥は歴史に名を成す名将。その降伏ですが、私の父のように行いたいのですが」
「ふふ、元帥らしい。みなさん異議はありますか?」
「いや、ありませぬ」
「武士の情け。翔陽らしくて良いかと思われます」
椿とエルウィンの降伏文書の取り交わしはマスメディアを介さずに秘密裏で行われ、後に真相を知った民衆は椿と乃本に惜しみない称賛を送った。
試作6式魔動歩兵の操縦士の三木はラッドを撃破した功により、皇帝より直接勲章を下賜され、これまた英雄として称賛されることとなった。
エルウィンが降伏したことはプロイデンベルクに少なからず衝撃を与えることになる。
「秋川司令は私が書きたい人の内の1人なんですよ。今の会話だけでも大切です! 声のトーンだったりとか身振り手振りだったりとか……」
三木はふと利津子の言葉を思い出した。
「書いとかなあかんな、忘れてまう」
利津子のノートを取り出し、筆を走らせる。
「なに、書いとるんや?」
川濱が笑いながら横に腰かけた。
「色々や」
「ははぁん、自分の戦功のこと書いとるんやろ?」
「はは、どうやろなぁ」
「そうですねぇ、坂木乙女と弟の龍麻とか雉方歳一とか、あと田丹秀吉郎とかあとあと三木小隊長も書いてみたいですね」
(僕の事も書かなあかんかなぁ)
三木は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
それから――
2か月後 ヘラクレンドリア陥落。
半年後 パルサポリスおよびジブタルラル陥落。
1年後 トロイヤ王国降伏。
1年8カ月後 スーズルカ公国、ミスクン奪還。バステーリャ王国降伏。
2年後 ノランマンディーに同盟軍上陸。半年後カール奪回。
3年後 プロイデンベルク帝国――降伏。




