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荒野の椿  作者: クワ


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40/42

蒼の町サルマカドン攻防戦

 昼には真夏のような灼熱に焼かれ夜になると零下のように冷え込む、そんな砂漠の砂を纏いながら貨物魔動車の群れがおりをなして続く。

 快速に飛ばす魔動車に遮るものは何もなく楼湖、ラルコ、チャク、アックスと大小の町を通り過ぎ、それぞれに駐屯させる小隊と食料を始めとした荷物を下ろし、飲料水を補充して進んできた。

「どうやら、エルウィンは兵を残さずに撤退したようですね」

 椿は舌を巻いた。どこにそのような余裕があったのか?

 エルウィンはカルカジュ到達時に降伏兵が多数出たことを知った。その数的に翔陽に追撃は無理だろうと読んだエルウィンは魔動車に魔力を注入させ、その場にエルウィンを始めとして全軍を降ろして車を引き返させた。少しの兵でも救おう考えたのだ。

 あと明日にはカルカジュに到着すると言うところで速度を緩め警戒して進みだす。

「さすがにカルカジュには守備隊がいるだろう」

 カルカジュは大山南路と西域南路の合流する出口に当たり、これに加え大山北路の出口にある大都市サルマカドンを抑えることによりパルサポリスから東秦に至るカイコロードを勢力下に置くことができる。

 ゆえにその2都市の占領は後方の安全のために必須であり、当然プロイデンベルクが固めていることが予想された。

 ところが。

「第26師団は左から、第28師団は右から、中央は第038師団が行きます」

 椿は包囲をじわじわと狭めて追い詰めてゆくつもりであったのだが……。

「司令、守備隊が居りません。占領です」

「そうですか……」

 顔がすぐれない椿を見て阿垣が声をかける。

「司令、どうなさいました? 無血占領は喜ばしいではないですか」

「まあ、そうなのですが、エルウィンが何を企んでいるかが読めないのです」

「衛兵、通信兵を呼んでくれませんか?」

「はっ」

 通信兵が小走りで来ると、椿は2つの指示をだした。

 兵はメモを取り出しペンを走らせる。

「電信を2つ打ってください。まず1つはカルカジュを無血占領したこと、もう1つは煌敦から航空騎隊をこちらに寄こしてくださいという事です」

 それを聞くと兵はメモをくしゃくしゃとポケットに放り込み飛ぶように出て行った。

「阿垣中佐、この地で航空隊と乃本元帥を待ちます」

「秋川指令は少し変わりましたね」

 阿垣はニコリと微笑み目を伏せた。

「えっ」

 その声に答えることなく阿垣は嬉しそうに出て行った。

(変わった? あの様子だと悪い意味合いではなさそうだったが)

 他に椿は斥候を出し周囲を窺うと同時に地図では分からない地形を知ろうとした。

 

 兵が居なかったのはエルウィンの問題ではなくプロイデンベルクの懐事情だった。

 北東のスーズルカ戦線は、ニコラエヴィッチの娘レクタシア公女の前線での鼓舞も相まって援軍の翔陽の山上元帥と共に二コラエグラードまで押し返し、プロイデンベルクについた貴族たちが今更ながら反旗を翻しそれに加勢しようと合流していた。

 南に目を向けると、ラムセスを追われたスチューザンのパイソン大将が援軍を得て、ホープからドラゴンサンダー山脈沿いを北上してラムセスの奪回を開始し、手始めにヘラクレンドリアの攻撃を開始しはじめ、その横ではムガルに東秦帝国の軍が侵入し、スチューザン、翔陽の在留軍と共にプロイデンベルク軍をパールサ国境まで押し返していた。

 西の戦線では、スチューザン本土との航空戦はいまだに続いており、ジブタルラル海峡の拠点にメリアンの軍が上陸し激しい地上戦が展開され、旧カール王国では自由カール軍というゲリラが暗躍し鎮圧に手間取っていた。

 そのような事情でプロイデンベルクとしては自領から見て遠く辺境にある町に兵を割くより、より近く需要な拠点に兵を配置し防戦させるというのは至極当然の考えだった。

 

 数日後、まるで飛蝗の群れのように空を覆いつくす航空騎が飛んできて、飛行場に着陸を始めた。

「これで、しばらくは安泰ですね」

 着陸している飛行隊を見ながら阿垣は安堵の声を出す。

「しかし燃料や爆弾の搭載量は限られていますので、数回しか出撃できません。あくまで輜重隊が着くまで待たなくては」

「そうですね、失礼いたしました」

「謝る事なんてありませんよ。何も悪いことなど行ってないでしょう」

 真面目に言う椿の顔を覗き込んで、阿垣はおかしみが込み上げてきたがどうにか堪えた。

「はっ」

「そうそう、航空騎の諸物資を積んだ魔動車は煌敦を出発したとの連絡がありました」

「それは、でしたら1週間ほど待てば届きますね」

 3日後、西域南路を走破した乃本元帥の軍が到着した。

 椿は乃本元帥を出迎え、現状の情報を交換した。

 わかったことは西域南路にも敵兵が居なかったことである。

「右翼の昔町中将より連絡がありません。大山北路には兵が駐屯していたのでしょうか」

「可能性はある。それにサルマカドンは大都市ゆえ、そこに籠城している事が考えられる」

 乃本が椿の言葉に答える。

「こちらも北上してサルマカドンを攻撃しましょう。ここは要地ですので占領の必要があります」

「そうだな、まずは航空騎で偵察をしたらどうか?」

「わかりました、指示を出しましょう」

 石川参謀長の偵察の指示を航空隊に出すと軍の編成に手を付ける。

 

 偵察の結果、サルマカドンには魔動歩兵を含めた部隊が駐屯し、航空兵力も増強され幾分か存在しているようだった。

「ただいま、翔陽の参謀本部より連絡が入りました。右翼の昔町中将の部隊がサルマカドンの攻撃を始めたそうです」

「日が明け次第、航空騎を出撃させ支援させたほうがよろしいかと」

「手筈を整えましょう。それより航空騎の荷物を積んだ輜重隊の到着日時は」

「あと3日と言うところですな」

「では、蓄魔石、爆弾の事も考えて今日と明後日に爆撃をするように指示し、後は輜重隊の運ぶ量により柔軟に決めるようにしたいと思います」

「それでよろしいのではないかと思われます」

 椿は石川の意見を取り入れサルマカドンへの空襲の指示を出し、終わると乃本の第16師団、第18師団、椿の第28師団をこの地に残し、第1師団、第26師団、第038師団をもってサルマカドンの攻略に向かった。

 

 サルマカドンは蒼い町と呼ばれるように、灰色がかった青がふんだんに彩っている都市であり、ジンテムハーンの息子タイオゴハーンの立てた城塞都市である。

 しかし、タイオゴハーン自体は遊牧民らしく自由を愛し、拘束されるような都市を好まず、ほとんど草原で過ごした。

 そのサルマカドンである。

 昔町の総攻撃を何度もはねつけているその町に椿たちが到着したのは、初めの攻撃から5日後のことである。

 

「おい! 三木、何をやっている!」

 英語教師の罵声が響く。

「怠惰な奴はこれだから、だいたい年長の人間に対する態度がなっておらん!」

「乃本大将を見習うがいい。あれこそ翔陽の武士をあらわす鏡だ!」

 その後の言葉は聞き取れなかった。

「ほな、起きんか! なんか集合かかっとるで。これから総攻撃になるんちゃう」

 川濱は寝ている三木を揺すって起こした。

「まあ、ええ、よく知っているけったいなセリフや!」

 三木は悪い目覚めに苛立ちを隠さず、起き上がり胡坐をかいた。

「おい、三木! 集合や! 早うせい。遅れたらまたビンタやで」

「ああ、わかった」

 ゆっくりと立ち上がり川濱に続いて歩き出した。


 翌日、椿たちは昔町の所へ向かい攻撃の割り振りを整えて航空騎支援の元、再度総攻撃に入った。

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