流砂のコヨーテ エルウィン
一方楼湖では
「昨日到着した増援部隊の事ですが」
「うん、連絡もなく突然派兵されてきたから驚いたね」
「はっ、我が方現存の第7・15・21装甲師団に加え、第6航空艦隊、第9装甲師団・第504・508の重魔歩大隊・第90軽機械化師団を指揮下に加えて再び攻勢の準備は整えられております」
「本当によかった、再三増援要請した甲斐があったというものだ」
「まったくであります」
「ナイディンガー君、補充兵の編成を終え次第出撃する」
「はっ」
エルウィンはまず一撃を加え押せるようなら追撃をしようと考えていた。
「だが、つらいなぁ。前のビリアやラムセスは近くに海があった分補給が容易だったが、ここコービィーおよびティルゴ砂漠は補給物資をカイコロードで運んでこなければならない」
「頭の痛い所ですね」
「だが、ここまでしてくれているのだから、何もしないでいるのは陛下に申し訳が立たないからな」
「はい」
「閣下」
「ああ、リョーマ少将か」
リッターフォンリョーマ。ラムセスではエルウィンの代理司令官をも行った優秀な現場指揮官である。
「輜重隊が遅れております、数日の猶予を頂けないでしょうか」
エルウィンはにこやかに笑うと「なぁにウサギ狩りさ、そこまで長居はしない」と言って相手にしなかった。
「……」
ウィ――ン
「敵騎来襲!」
サイレンが鳴ると同時に各々目的に向け一目散に駆け出した。
ダダダダダダ
地上より一斉に魔銃の対空砲火が飛び交う。
「Hu37だ逃げろぉ」
「味方騎はまだか」
けたたましいサイレンと共に突っ込んで来る爆撃機を仰ぎ見て三木は防空壕へ走り出した。
バァン
Fm199の魔銃掃射によって破裂した蓄魔石が天高く飛び跳ねる。
「あ、いかん、こっちに来るわ」
慌てて地面に伏せ、間一髪避けた三木は、再び防空壕へ向け走り出した。
「ここは、いっぱいだ! 他所へ行け」
「そんなぁ堪忍してぇーな」
満員の防空壕に入れずおたおたしているとやっとこ味方騎が駆けつけてきた。
「助かったぁ」
上空で激しい空中戦が始まった。
「おおぅいけいけ!」
六式戦がHu37に取りつき魔銃一閃にて血を吹かすと、防空壕からいつの間にやら出てきた兵隊たちがやんのやんのと大はしゃぎで騒ぎ立て、爆撃なんぞなんのそのと今まで防空壕に避難していたのが嘘のような騒がしさだ。
「おお、そいつも行ったれぇ」
今度は違う六式戦が、地上を掃射して上昇の遅れたFm199を捉えると、背後から攻撃し態勢を崩した199が地上に落とされるとザーっと砂を引く音を響かせながら滑って流されてくる。
「やばい、逃げろ」
「巻き込まれるぞ」
三木も慌てて走り、どうにか難を逃れた。
「ふう、助かった」
ウィ―――ン
「今度はなんや?」
空中戦をみなで眺めているその時、突如再びサイレンが鳴らされる。
「北西より砂埃、敵部隊来襲」
「今度は地上軍かぁ」
三木は慌てて愛騎にむけ走り出した。
「迎撃準備急げ」
椿の凛とした声に促されて、兵隊たちが各々の持ち場へと走り去る。
(あと数日で部隊の補充が届いたというのに)
椿、プロイデンベルク軍との長い戦いの始まりである。
「ファイエル」
5号魔歩から放たれた魔弾が周囲に着弾し始めると、椿は急いで司令部に戻った。
偽装した砲兵陣地から対魔歩砲が次々と火を噴くと先頭の3騎が相次いで燃え上がる。
「5号なら潰れるぜ」
三木は愛騎の1式魔動歩兵に乗り込み発動機の始動スイッチを入れる。
ゴゴゴゴゴ
「よし、行くぞ」
僚騎は前の戦いで戦死して失われ、今は単騎である。
「まあ、なんとかなるやろ」
三木は諦めにも似た感情でギアを繋ぎ出撃していった。
プロイデンベルク軍
「よし、かかったな」
エルウィンは笑いながらナイディンガーに目を合わせウィンクした。
「初めからヴィルトカッツェを出したら逃げられちゃうからね」
エルウィンは腕時計を確認し「あと30分位かな」とおちゃらけながら呟く。
椿陣営
「これは、石川参謀長」
焦る椿を見て鷹揚と返事を返す。
「エルウィンは啄木鳥いや背後に迂回して兵を進めているのでは」
石川は軽くうなずき「一応手は打ちましたがあまり持たないでしょうから速やかに後退のご準備を」と退却を促した。
椿は自分の頭を越えて命令を出されたことに納得がいかない所ではあったが、ここはそうはいっていられず素直に従うことにした。
「わかりました、後退命令を出します」
魔歩隊
「よし、撃て」
5号魔歩は一時後退し、遠くからの射撃に切り替えてきた。そのころにはプロイデンベルクの砲兵が戦場に到着し、翔陽陣地に砲撃を加え始めた。
「あん、退却だぁ? こちとら互角に戦っているんだよ!」
敵に喰いついた前線の兵は椿の命を無視して退却しようとしない。
「えっ」
それからしばらくしてプロイデンベルクに動きがあった。重魔歩ヤグアルを先頭に中魔歩ヴィルトカッツェ、突撃魔歩フロスピァドが楔形の陣形を取りつつ向かって来つつあるのを発見した兵たちは途端に動揺する。
「その瞬間」
「敵襲、後方より魔歩隊」
「なに、何時の間に」
「後退の指示が出てたんだ、引くぞ」
兵たちは装備を放棄し我先へと退却を始める。
「よし、突っ込め」
エルウィンが号令をかけたその時である。
ズガン、ズガン
背後に回り込んだ魔歩が爆発音とともに四散した。
「戦力的にあまり持ちませんので、撤退を急いでください」
石川が潜ませていた砲兵部隊の射撃で一時的に足止めが成功したものの後から続く歩兵部隊が到着すると突破されるのは火を見るよりも明らかだった。
「魔歩部隊を殿に撤退を開始してください」
椿の声が全軍に伝わると、各部隊浮足立って動き始めた。
「オモテンキャブまで」
「後ろ、ヴィルトカッツェ追撃に来ます」
上空より聞きなれた推進音が耳に入った。
ドーン
「助かった」
追撃に来たヴィルトカッツェの一団を爆撃騎が数騎仕留めると、残りの魔歩は踵を返して後退していった。
「今のうちに行きましょう」
オモテンキャブまで退いた椿たちは、そこのカサタイの地を防衛拠点とし、テントを張り、地雷や有刺鉄線を設置し、飛行場を整備して後続部隊が到着するのを待った。
「今回は参謀長の予想通りでしたね」
「まあ、そうですな」
椿の誉め言葉もさも当たり前と言わんばかりに受ける石川を疎ましく思いつつ意見を聞く。
「それなりの量の物資を放棄してきましたので、補充をお頼みしましょう」
椿としてはその意見には賛成なのだが、早々に要請しては沽券にかかわると思い言葉を濁していると、石川は「いらないのならいいのです、ただ食料が無いと兵士は略奪をはじめますよ」と鼻でくくったような物言いで吐き捨てた。
「わかりました、要請します」
「それがよろしいかと思います」
軽く言う石川に対し奥歯をギュッとかみしめてこらえる椿を乃本は心配そうに見守っていた。
翌日
「敵部隊バカルスに存在しない模様」
未明に向かわせた偵察騎より連絡が入る。その一報を受け緊急会議が開かれた。
「偵察隊を出しましょう!」
椿の言に対し石川は「無用です、すでに出してあります」と答えるとため息を吐いた。
「敵の部隊が攻めて来る可能性がありますので、防備を固めると共に敵の位置を特定しましょう」
「そうですな」
椿の決定により四方に偵察騎および斥候兵が出された。
それから数日後、補充の部隊を加えて、再度配置替えをして敵襲に備えるも数日待っても敵は現れなかったどころか偵察範囲に存在すらしなかった。




