気付き
「私は、シャホルルンスト参謀総長やクヴィッツラウゼ以来の敵を相手にしているのではないか?」
「エルウィン元帥?」
「かつてカール王国のボナレローネが率いていた国民軍。自由を勝ち取りそれを守るために命を懸けて戦い続けた、あの国民軍」
「エルウィン元帥?」
「ああ、ナイディンガー、すまない」
エルウィンは頭を掻きため息をつく。
「プロイデンベルクの心理学では、粘着気質と分裂気質、躁鬱気質の3タイプがあると言われている。一説によると傭兵を志願するのは分裂気質が多いと言う話がある」
「その説によると、分裂気質の者は臆病ゆえに武器に対する憧憬があることと、周りと上手く馴染めない者が多く職を転々としやすい、同じ作業を繰り返し行う行動に安心感を感じるなどの気質ゆえに他の気質に比べると傭兵になりやすいそうだ」
「人によるとは思いますが、傭兵ってあまり積極的になりたい職業ではないですからね」
エルウィンの言葉にナイディンガーは相槌を打った。
「我々も軍人をしているがね」
「はは、そうですね」
エルウィンは前線に視線を向けると、双方の魔砲が七色の光を相手陣地に叩き込んでいた。
「基本的には、傭兵のような訓練を受けている兵の方が強い。強いが相手軍の強さと自軍の強さを天秤にかけ、不利だと自分の判断で撤退したりすることがある。記録によると特に中世の傭兵にその傾向が強い」
「国民軍。徴兵制により集められた兵は3気質とも平等にいる。とくに粘着気質の者たちは、その名前の通り粘り強く戦い、上には忠実で、我慢強い。兵としては理想的だが訓練をしないと使えない、やはり日常から鍛えている傭兵に比べると戦闘技術が低いのだ。訓練を施せば練度にもよるが傭兵より強くなる可能性は大いにあるのだが」
「当然、地域によって兵の質に違いがある。山岳地を始め過酷な自然と対峙する地域の兵は強く、次いで農村地の兵は並みで、商業地の兵は弱いことが多い」
「だが、それらよりも強い集団がいる。1つは宗教だ。殉教や十字軍を始めとして過去から現在までそのような事例はいくらでもある。もう1つは思想だ。騎士や武士が忠という美学のために果てる事や商人たちが損をしてでも信用のために約束を守るなどがある」
「この集団の特徴は自発的に集まったにも関わらず、戦いになれば気質に関わらず妄信的に戦い、自分の役目を自発的に探し出し献身的に行動し、強い仲間意識で繋がりそう簡単に引こうとしない」
「翔陽と東秦は男女関わらず人権感覚が薄い。特に女性はなおさらだ。それをどうにかしよう、自分たちで変えよう、勝ち取ろうとしている。彼女たちは歴史に参加しているんだ! まるでカールの自由革命の時のように」
翔陽陣営
「038を後退させなさい、そこに入り込んだ敵を6、18の一部を割いて包囲します」
椿は伝令を走らせると、唇から血が出るほどに強く噛んだ。
「まだまだ問題ないが、命令なら仕方がない」
阿垣はそう言うと次々と指示を出す。
「後退する、中段は、前線の後退を支援、後段まで引いて、到着次第中段の後退を支援、その後中段が後退、それを繰り返す!」
しばらくすると攻撃しつつゆっくりと038師団は後退し始める。
「この包囲もいつまで持つか」
椿は小さく呟いた。
そんな折、第6師団内でちょっとした動きがあった。
「おい、おまん、このままでいいでごわすか?」
「おんし、なん言いいよるか」
「おなごがおいどんたちの盾になっちょるでごわす」
「おなごを盾にしちょっておめおめ生きのこるでごわすか?」
「……行くばい!」
「おお、突貫でごわす」
その会話が切っ掛けに6師団の一部が038を追撃する9師団、508重魔歩兵隊の横を突く形となり、一時的に追撃が緩んだ。
阿垣はその隙に038師団を立て直し再び攻撃を始める。
マルス指揮下の508の重魔歩兵のヤグアル隊が我が物顔で陣中を突破しようと突入すると伏せて身を隠していた038師団のテムカセ隊が一斉射撃を行った。
「ここを通すな! 撃て!」
それに後方の速射砲、山砲が呼応して火を噴き前を歩いている順にヤグアルが炎上して後退してゆく。
椿は通信兵を再度走らせる。行く先は飛行場だ。
「先任将校を選別して上がらせるよう催促しなさい。大型爆撃騎は日が上がってからでいい、戦闘騎と襲撃騎を上げなさい。目的は敵の攻撃を緩めるためです。このままでは038師団が突破されてしまいます」
先ほどから通信を送り続けているが、話を流されて相手にされておらず、とうとう痺れを切らして通信兵を直接送ることにした。
夜どうしで行われた戦闘はまだまだ終わりが見えず、次の戦闘に移っている。
トロイヤの20軍団の攻勢が弱まり余裕のできた18師団が9師団への攻撃を開始し、3方面から包囲攻撃を受けた9師団が後退を始めた。
「ようし、押し返すぞ!」
阿垣の魂のこもった声に周囲は狼のように吼えじわじわと前線を上げてゆく。
「それ、駆けろ!」
テムカセ隊がプロイデンベルクの歩兵を蹴散らし走る。
「初期の前線まで戻すんだ」
「はい」
ピューン
テムカセの1騎が炎上すると、魔砲の集中砲火を浴び動きが止まる。
「くそう。ここまでか……」
「敵は崩れている。テムカセ隊の攻勢を無駄にするな」
プロイデンベルクの第9師団は包囲を避けるために後退を繰り返し、逆に翔陽の深追いを蟻地獄に引き入れるかのように動き、気付かずに誘い出された部隊を各個撃破してゆく。
東の黒く染まった空と言う名のキャンバスに少量の白が混ざるころには、翔陽が誇る戦闘騎隊を始め、各爆撃騎隊が地を蹴って大空に羽ばたいていった。




