集中砲火
プロイデンベルク陣営
「高台は翔陽により要塞化され、まるでセヴァポリストの如く難攻不落です」
セヴァポリストとはかつてスーズルカ公国が保有していた内海を見下ろす要塞で、スチューザンや同盟各国が万単位の犠牲者を出し何とか攻略した要塞である。
「大げさだな、翔陽はここに拠点をつくってまだ3カ月くらいだぞ。そんなに早く作れるわけなかろう」
「しかし……」
エルウィンは士官の報告を笑って流し、ナイディンガーの方に向き直る。
「前線の正面左、女性の新兵の部隊だったはず」
「はい、そのようです」
「ならば、そこに攻撃を集中させてくれ。崩れたらそこを突破口に戦域を拡大、敵の本陣まで貫く」
「はっ」
ナイディンガーが指示のためその場を離れると、エルウィンは前線に視線を投げた。
「悪く思わんでくれよ。弱い所を叩く。これも戦争だ」
双方の魔砲の放つ光が花火のように輝いては消えてを繰り返し、そこに人がいることを思えば、それが命のはかなさを写しだしているように見えた。
翔陽陣営
椿は双眼鏡に視線を出し入れして左右を確認するも、月明りもほとんど無いような夜だったために前線を確認することができない。
「戦況はどうなっているのですか」
周りに尋ねるも答えが返ってこないことは経験上椿が一番わかっている。が、焦燥感からくる苛立ちが椿を突き動かし、問いを発せざるを得ない状況に追い込まれている。
ボウン・ボウン
「キャー――」
魔弾が砲兵に当たると、四散した体が周囲に落下した。
「ユリーーー、おのれ、よくも」
ボーン
「明らかに、着弾が増えた」
阿垣はまわりに視線を這わせて確認する。
「やはり!」
阿垣は何とも言えない感情が湧きおこった。恐れ、悔しさ、怒り、そして哀れみ。手元に予備兵があるわけなく、本陣にもない、どこにも予備兵が居ないのだ。
「反撃だ! 突破させてはならない」
突破されれば、この戦いは負ける。
「あれは!?」
居ても立っても居られない焦燥感に捲し立てられ走り出す。
他の士官たちが青年・壮年期に学んでいたことが自分だけ分からない。今必死に勉強しても若い時のように頭に入ってこない。
あのバカにされた視線、憐れんだ視線、蔑まれた視線、気にしないようにしてきた。
メリアン製、M2高射魔砲。
足元には爆風で吹き飛ばされた息絶えた女性たちが横たわり、血を吸った真っ赤な砂が一面に広がる。
「使い方は分かっている」
かつて阿垣の父親の部下から聞いていた。
「くっ」
砲身のハンドルを力いっぱい回す。
標準中央にヴィルトカッツェが入ると阿垣は引き金を引く。
激しい衝撃が体を揺さぶったあと、流れ星のように炎の曳光を引いた弾はそのままヴィルトカッツェに飲み込まれ、数秒後騎体は炎に包まれた。
「次!」
魔弾を取り替えるために尾栓を開いた時、遠くからシュルシュルという音が近づいて来た。
「逃げないと!」
阿垣は急いで横っ飛びをすると、それまでいた場所が、爆発音とともに明るい光に包まれた。
「くっ、くう」
砂を掴みゆっくりと立ち上がると、阿垣を見つけた兵が駆けつけてきた。
「師団長、なにをなさっているのです」
「ここを突破させるわけにはいかないの。私たちが負けたら――今までと同じ、元に戻ってしまう」
「師団長……」
「大丈夫ですよ、みなに思いは伝わってますから」
周りからは砲撃の音と共に果敢に反撃を打ち返している師団の兵たちが沢山いることに気付く。
「よっと」
兵は阿垣の脇に頭を入れると、背中に手を回しゆっくりと歩き出した。
「……あなた、名前は?」
「稲っていいます。石田稲、18歳。本当はお姉ちゃんみたいないい名前がよかったんだけど、いっぱい生んだからってめんどくさがっちゃって」
そう言って稲は乾いた笑いを浮かべた。
「そう、それは?」
「あ、目立ちます? ごめんなさい。このブローチ、軍令違反ですよね」
「おばあちゃんから家の家紋だからって、何でもみょうがって縁起物らしくって持って行けって聞かないんですよ」
稲は阿垣に怒られるのかと思い、あわあわしながら釈明するも阿垣はそれを気にすることなしに新しい質問をする。
「あなたは何で戦争に?」
「……旦那がゴンサイ沖でBボートに沈められて帰ってこなくって。そして姉もプロイデンベルクにやられて亡くなって……仇討ですかね?」
「あ、でも、女性の選挙とか興味ありますよ! ぜひやってみたい。だから勝って生きて帰らないと」
稲の底抜けに明るく、誤魔化そうとしても誤魔化せてないその感覚におかしみを感じ、阿垣は少しばかり元気になった。
「師団長さん、笑顔がいいですよ。スチューザンではスマイルでしたっけ? スマイルスマイル!」
「看護師さーん。師団長、チョット爆発に巻き込まれたみたいなんで見てください」
「わかりました。師団長さんこちらへ」
「あっ私はもう一回行ってきます!」
稲はしばらく走ると急に振り返り、大声で「絶対勝ちましょーねぇ」と言ったあと振り返り再び走り出した。
「元気な子ね」
「そうですね」
「では、チョットだけ検査させてください」
「はい」
プロイデンベルク陣営
「……おかしい」
エルウィンは首を捻る。
「どうなされました」
ナイディンガーが質問を投げるとエルウィンは魔法が解けたかのように話し出した。
「いや、ね、計算上ではとっくに崩れているはずの部隊が、まったく崩れていないのはなんでなんだろう?」
ナイディンガーが視線を上げると、やはりまだ足止めを喰らっているのかこちらの射撃位置に変化が見られない。
「地雷除去に手間取っているのでは」
「いや、それは終わったと連絡があった」
「あの部隊はメリアンの最新鋭の武器を貰ったとの事ですので、そのせいではないでしょうか」
「……ナイディンガーも知っているだろうが、新兵ってそんなもんじゃないだろう? まして女性だ」
その時、何気なく正面を見ていたエルウィンの目は急に見開かれて、独り言を呟き始めた。
「まさか、私はとんでもない思い違いをしているのではないのか?」




