司令官着任と顔合わせ
椿が窓の外を眺めていると陸軍の兵站を担う輜重隊の一群が目に入った。
牛や駱駝などの荷を積んだ動物たちが、人に率いられて長い列をなして進んでいる。
「司令、ああやって日数をかけて運んできますので時間がかかるであります」
「それで少尉は色々荷物を積んだのですね」
三木は苦笑いをして「見逃してください。駅まで行くと知られると色々と頼まれるんですよ」と困ったような笑ったような不思議な表情をした。
「大丈夫ですよ」
椿も士官の考えなどお見通しながらそこは心得たもので、話をずらして聞かなかったことにした。
「線路が引ければ楽なのだが」
そう呟いたところで予算が無いことは椿も重々承知していた。
椿が小休止を数回挟み、一日かけてバガルス基地に到着するとお出迎えの士官たちが挨拶に駆けつけてきた。
「おはようございます、司令」
「こちらこそおはようございます」
椿の配置の最大の問題は陸軍の師団長は中将をもって任ずというところである。
例外中の例外とはいえ、椿の当時の階級である中佐に司令官をやらせるわけにはいかず、軍としても色々と頭を絞り少将まで名目を付けて昇格させた。
ただ、それ以上は流石に周りからの反発もすごく諦めざるを得なかったのが現状である。
それゆえ、各師団の長の方が司令より任官も早くしかも官位も上と言う逆転現象が起こり、かといって皇帝の命には逆らえず、軍としては出来るだけ師団長以下比較的穏健派かつ皇帝に忠実な者と入れ替えた。
しかしながら、それなりの人数をいっぺんに入れ替えたので軍内が多少混乱していた。
「私は急ぎここに駆けつけたのですが、標準的な行軍速度でどれくらいかかりますか?」
「そうですねぇ十日と行った所でしょうか」
「では、プロイデンベルクの師団は今どのあたりに駐屯しておりますか」
「それならば、補給のため楼湖からホトカラあたりに引き返したとの事です」
「わかりました。補充兵が到着するまでは作戦行動に移りそうにありませんね」
「はっ」
「いやいや遅くなりました」
にこやかに笑いながら初老の士官が入ってきた。
「これは、ようこそおいでいただきました」
「いやいや陛下のご命令で貴殿が司令官ゆえそのようなお心遣いは無用です」
「しかし……」
「ところで自己紹介は必要ですかな?」
そう言っておどける老士官に対し椿は「乃本元帥は冗談がお好きですからね」とにこやかに対応した。
老士官は乃本真典という名で、椿の祖父真好とともにスーズルカ公国と戦った将軍の三男である。
陸軍参謀本部としてもこの顔見知りの老紳士を第11師団の師団長と共に副司令官として補佐させることで周囲との摩擦を出来るだけ抑えようとした苦肉の人事である。
「今現状の戦力はどのような状況でしょうか」
椿の質問に少しばかり癖の強そうな参謀が返答した。
「今の我が軍は第1師団・11師団・14師団の3師団。他に魔歩第1師団ですが3連隊と9連隊が引き抜かれ1連隊5連隊のみとなっており、それも先の戦いで7割弱まで減っております」
「補充は来ます。現存部隊の補充兵の他、第5・18・26師団に魔歩第3師団および第1師団に充当する10・11連隊、他に第3飛行師団、この師団に在住の飛行隊を組み入れることになります」
「それは」
周囲がざわざわと喧騒に包まれる。
「他に、千州に第6・15・16・28師団を置き、引き抜いた五平の魔歩連隊の代わりに部隊を新設して北と西に備えるとの事です」
「最後に数両スチューザンの護衛魔動歩兵ジョンと巡行魔動歩兵ナイト、メリアンからのM4テムカセM5クロウフォードを少量ですが配備してくれるとの事です」
「これは豪勢ですな」
そういいつつもあまり嬉しそうでないのは、なんども期待を裏切られて来たからなのか。
「石川参謀長、何か意見はございますか?」
椿の突然の振りに、石川と呼ばれた参謀長は鼻で軽く笑い「ここの土地は水の補充は近くの塩湖しかなく軍の維持が難しいと思われますので補給線も考え一旦下がった方がよろしいかと」と言って会話を切った。
「ありがとうございます、しかしながら補充を受けてなお一戦もしないで撤退しては陛下に申し訳が立ちません」
「そうですか、そういう考えもありますな」
椿の発言を適当にいなしてそこから一言も喋らずに目を閉じた。
話すことも尽き、そこで顔合わせはお開きになった。
石川参謀長は他の参謀と一緒に建物を出てしばらく歩くと相方に目をやり呟く。
「はは、伊賀君陸軍も赤子の介護をすることになったらしい」
「ふふ、まあそのおかげで補充が速やかに進んだのですからよしとしましょう」
「まったくだ、それにしても来る部隊が何処まで訓練を終えているのやら」
「まあ、新兵でしょうな」
そう言って笑いながら戻っていった。
兵舎
「おい、三木、司令はどんな奴だった」
頼んだ荷物を受け取りながら士官仲間が聞いて来た。
「どうだろうなぁ頭は良さそうだったんやけど」
「だけど?」
「なんか、話聞いてくれたんはそうなんやが、なんか融通がきかなそうでなぁ」
「大丈夫なのかっておおこれだ! タバコ一月ぶりだよ」
「じゃあな、ちょっと吸って来るわ」
「ああ」
仲間は走って出て行ってしまった。
「はは、せわしないのう」
「あいつはいつもそうや」
別の士官が話しかけて来る。
「何か動きありそうか?」
男の問いに三木は笑いながら返事をする。
「まあ、いい話あるで」
「なんじゃ?」
「補充が来るらしい」
「おお、そりゃあ」
「だだ、新兵だ」
「ふう、めんどくさいのう」
男の喜びの顔が少し歪むと三木は「来ないよりいいやろ」と付け加えた。
「まあ、そうなんじゃが……」
納得のいかない男の背に平手を一発くわえると「いいように考えようや」と笑って荷物を引き渡した。
「おお、忘れる所だった。ありがとうな」
「気にするなや」
そう言って二人笑いあった。




