不穏
それから数日、椿に対する周囲の視線がどこかよそよそしい。
(後から考えると少し肩入れしすぎたかも)
椿の頭を一瞬通り過ぎるも受け流し気にしないことにした。
数日後
その日は次の作戦目標を定めるため会議を行っていた。
椿は地図を広げ、拠点間に定規を当て距離を測ってゆく。
「ここから楼湖までは……」
やはり距離がある。
「そうすると、中間地点に何かしら拠点が欲しいですな」
石川参謀長が口を開く。
地図を眺めても一面砂漠で代り映えがしない。
「せめて、高低差でもわかれば……」
「そういえばモキタル語を専攻している者が居たはず」
「そのものを呼ぶのですか?」
「現地住民に聞き取りをして地形など聞けるようでしたら聞いてみるのも悪くないと思います」
椿の言葉に頷くことも拒否することもなくただ聞いている。そのように感じ取れた。
入り口にいる衛兵に声をかける。
「魔歩第1師団に三木と言う小隊長がいるはずです。連れてきてください」
しばらくすると、ヨレヨレの格好の三木が姿を現した。
(このメンツは……ああ、僕は前の事で咎められるんだろうな)
「三木少尉よく来ました」
「司令、お言葉ですが今は中尉です」
伊賀作戦主任参謀が修正した。
「あっこれは失礼」
(呼び出しておいてまったく興味が無いのかよ!)
「中尉にここに呼んだのは他でもない、周囲の遊牧人と接触しオドルスと楼湖の間に何かしら拠点になりそうな場所や軍の飲料に耐える湖が無いか確認してくれませんか?」
キョトンとした三木は自分を指さし「私がでしょうか」と質問した。
「お前以外に誰がいる! モキタル語を専攻したのだろう」
伊賀には三木が反抗的と写ったらしく、声を荒げて叱責した。
「はい、了解いたしました」
三木がトボトボと歩き出すと、後ろから伊賀の怒声が飛んだ。
「ダラダラと歩くな! 駆けていけ」
振り返ることなく走り去る三木の背中を睨みつけ、伊賀は椿に軽い忠告をした。
立場は椿の方が上なのだが、士官学校の卒業年度は伊賀の方が先輩にあたるため椿は黙って聞いていた。
「あの三木とかいう予備士官、たしかに西京外語大学ですから愚かではないでしょうが、なにせ難速出身でガラが悪い」
「ここにいる人間はあなたを含めて出自は士族で行動に誇りが伴います」
伊賀は嫌悪感を出し言葉を繋げる。
「彼のような祖父が博徒のような者を信用しすぎるのは如何なものかと思いますがね」
椿は石倉具視が幕末に自宅が治外法権なのをいいことに賭博場を開いていたり、勝河舟の父親も博徒のようなものだったと頭に浮かんだが、それを隅に押し込めてうんうんと頷いていた。
(参謀としてなにか手柄が欲しいのかしら、それともないがしろにされていることを気にいらないのかしら)
椿は思考を回し妥協点を見出そうと試みた。
「それでは、他に航空騎での偵察を兼ねた拠点に相応しい場所の探索をするのはどうですか」
「よろしいかと思います。ただエルウィンに気取られないように配慮は必要ではないでしょうか」
「そうですね、ではそうしましょう」
会議は終了し、現地住民の聞き取りと航空騎による探索が同時に行われることになった。
明くる日
阿垣師団長が椿の元を訪れる。
「司令官、ご機嫌麗しゅう」
「どうしました?」
それから、しばし訪ねて来るようになる。
している話は師団の報告と雑談、相談など他愛もない話が多いのだが周りの者たちには違う景色に写っていた。
「何でも、女同士で派閥を作りそれを各所に伸ばそうとしているらしい」
「俺はこう聞いた、なんでも阿垣大将の策で娘を使って秋川司令に近づき利用しようとしているらしい」
「利用?」
「ああ、女性を自派閥に入れるんだよ」
「あのタヌキならやりそうだ」
「司令官はどうなんだ」
「嫌ならあんなに会ってないだろう」
「それもそうだな」
その手の話が広がるのは早く、オドルスに荷を届けた輜重兵、千州駐屯軍、そして帝都の陸軍へと伝わり深く静かに問題となっていった。




