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荒野の椿  作者: クワ


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銀葉師団

 銀葉師団が到着してからしばらくの間、女性が来たという事で覗きに行く男たちが多かった。

 なにせ比率的に圧倒的に男が多い場所である。

 しかし、その男たちは残念そうな顔をしながらすぐに戻ってきて呟く。

「彼女たちは違う、下手な男より男らしい」

 そんななかとても困惑している人物がいた。

 椿当人である。

 彼女自体前線にいたためこの成り行きを理解しておらず、ある意味急に自分の事を慕い、押し上げようという勢力が押しかけて来たに等しい。

 まるで思考的にもまとまることなくどのように対応したらよいのか苦慮した。

 確かに自分の味方が増えてくれることは嬉しい、がここで迂闊に動いてしまうと第6師団を初め女子供は引っ込んでろの様な思考を持つ将兵からの支持を失いかねない。

 ただここで以前からの将兵に気を使い、第038師団の女性たちを冷遇すると、彼女らは失望しそこからすべて瓦解しかねない。

 今後の事を長考し悩んでいると脳裏に三木の声がよみがえる。

「利津子は死に損だったんだ! みな貴方の幻想を見ているに過ぎない。貴方は所詮既得権益に乗っかって権力争いをしているに過ぎない!」

 女性たちが兵隊になってまで私を助けてくれようとしているのは、私に幻想を見ているから?

 既存の師団に気を遣うのは既得権益に配慮しているから?

 第038師団はこの度の戦いが終われば解散されるであろう。

 陸軍と言う組織に所属しているなら、今後も存続する部隊に配慮する方が政治的に見て正しい。

 正しい、が……。

「それも権力争いの一環なのかしら?」

 自然と思考パターンが自然とそう考えることに椿自身も驚いた。

「私は今まで能力を発揮する事しか気にしてこなかった」

 彼女は負けず嫌いで、女性だからと馬鹿にするものが居れば、その数倍努力し打ち負かしてきた。

 合理的思考が絶対的に正しく、感情を表に出して非合理なことを言う人間を嫌った。

 また、男性に媚びを売り努力する女性の足を引っ張る女性群に対する嫌悪の感情を隠さず出すこともままあり、そういう態度からか相手からも嫌われて孤立することもあった。

 むしろ、孤独が主で、それが当たり前だった。

 だからこそ今回のようにたくさんの支持者が列をなして来るとどう対応していいのか分からないのだ。

 ふと真顔に戻り一言呟く。

「会わないといけない。でも気を使わないと」

 明くる日

 椿の心とは裏腹に空は透き通るように青く、空気は冷たく澄んでグルグル回る頭を適度に冷やす。

「みなさん、おはようございます」

 師団の駐屯所に至り、その入り口を潜ると、他の部隊にはない独特の張り詰めた空気を感じた。

「おはようございます」

 師団長代理という女性が出迎えてくれた。

 代理の女性は、年齢的には40代~50代といったところ、身長は150そこそこだが、何とも言えぬ存在感から背丈以上に大きく見えた。

「最近髪を切られたのですか?」

 椿の質問に、女性は少しばかり驚き「よくわかりましたね」と微笑みながら返してきた。

「髪に纏めていた時の癖が残っていたもので」

「あら、それは、よく見えていらっしゃいますね」

 椿の指摘に手で後ろ髪をいじった。

 女性が動くと防寒着が緩み、その隙間から見える装飾品からセンスの良さを感じられた。

「わざわざお出にならなくても、こちらからお伺いしようと思っていたところでして……」

 そういう団長代理に椿は優しく話しかけた。

「かまいません、何分ここは前線で今回派遣されてきた師団の情報があまり入ってきておりませんので確認がてらに参りました」

「はっ、ではこちらへ」

 それと同時に兵に何か耳打ちをすると、小走りで離れていった。

 そういって宿舎までの道のりを二人で歩くと、まわりの兵や士官代理たちからこそばゆいぐらいの熱い視線を何重にも感じる。

 顔にはおくびにも出さぬように平然を装っているが、慣れていないせいか内情はかなり緊張していた。

「あなたの名は」

「阿垣中佐代理であります」

「阿垣というと、阿垣義成大将のご家族の方ですか?」

「はい、さようです」

 椿自体、阿垣大将には会ったことは無かったが、かなりの切れ者で恐慌時に軍縮を行った人物だが曲者として頭に入っている。

「以前は何をなさっていたのですか」

 阿垣は一瞬間を置き、貿易関係の仕事をしておりましたとだけ話した。

(何か隠している)

「私は中佐代理ですが、他の師団長は中将なので今後起こるでしょう話し合いの時など困りますね」

 言質を取るために言っているのか、それとも雑談なのか分からない。

「私も、1年前までは大佐です。色々言われたりしておりますが考えたからとて状況が変わる訳ではありませんので」

 椿の話を受け、阿垣はそうですねと軽く笑う。

「はい、注目!」

 阿垣が声を張り上げると、訓練をしたり、作業をしたりしていた女性たちが一堂に直立の姿勢をとりながらこちらに体を向けた。

「指令よりお言葉がある」

(そう来たか)

 ただ、あらかじめ予測していた範囲である。

 椿は力強く言葉を吐き出した。

「陛下より指令を賜っている秋川です。皆さんの志を聞き大変嬉しく思っています」

 大きく息を吸い込むと冷たい空気が肺の中を満たす。

「プロイデンベルクの指揮官は流砂のコヨーテエルウィン。強敵ですが皆さんの敢闘で追い返せると確信しております」

 視聴している兵たちの目が輝く。

「皆さんの存在意義を世に知らしめるために頑張ろうではありませんか!」

 椿の言葉に満面の拍手が沸き起こり、気合を入れた咆哮が広がっていった。

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