女性たちの思い
椿はオドルスの昔町と参謀長の石川を交え今後の事で協議を始めた。
「実際に物資を失ったのはとても重大だ、我々の任務はエルウィンを食い止めることであって奥深く侵攻することではない」
「参謀長のいう事には一理あるが、前線は領土より離れている方が国民に対する被害は少ない」
「オモテンキャブでも十分に離れている。からこそ本土からの物資輸送が困難に直面している」
「もし、オモテンキャブを抜かれることがあれば、最悪千州まで前線を下げなければならない」
「それは、大げさである」
妥協点を見出さない二人に対して椿が口をはさむ。
「我が軍の被害は甚大で、このまま2拠点に分かれていたとすると各個撃破されるのが目に見えている」
夜間故に接近戦となり、遠くから一方的に撃破される展開にはならなかったとはいえ、プロイデンベルクに比べ魔法科学および生産力が劣っている。
ゆえに、我が国の装備品ではなるべく優位に戦いたいのなら圧倒的な数で押すしかない。
数時間話し合うもまたもや平行線をたどり合流の目安が立たなかった。
「では、こちらがオドルスに向かいます」
「司令……」
椿は説得を諦め、昔町の意見を取り合流することを決断した。
そして数日後
その日は朝から風が強かった。
「竜巻でも起こるのか?」
「い、いや、あれを見ろ」
「敵襲、敵襲」
立て直したエルウィン軍が主力を総動員してオドルスに殺到すると、昔町は善戦したものの支えきれずにオモテンキャブまで退却した。
「……」
昔町の口から言葉が放たれずに重い沈黙が流れる。
「まずは、負傷者の治療と兵の再編を行いましょう」
椿の一言で救われたのか、昔町は頭を下げて持ち場へ戻っていく。
「これは、大変ですね」
逃げてきた兵を見回し暗雲たる気持ちになった椿はそうとも言ってられず次の一手を考える。
それは、何にせよ武器が不足し取り寄せねばなるまいと参謀本部へ暗号を打つことになるだろう。
そうすることで結果的に現実とも対面することになる。
「また、負けか」
椿は憂鬱げにため息吐き出していた。
翔陽首都、関京
この季節には珍しく冷たい雨が降りしきる。
そんな雨を吹き飛ばすような熱気をほとばしらせる集団。
国会議事堂の前には幾百幾千とも分からないほどの傘が覆いつくし、その色とりどりの華麗なる傘の主たちはある一点を要求していた。
すなわち女性にも権利をと言うことである。
「田村利津子伍長が戦死なされた記事に雲霞のごとく押し寄せる敵と書いてございましたが、何故そのように少ない兵で戦わせるのですか」
「女性の司令官だからと嫌がらせをして兵を送らないのでは?」
「スチューザンもメリアンもプロイデンベルクでさえ女性の普通選挙が20年前には行われていると言いますのに、我が国は遅れてございませんか」
などと気勢を上げている女性たちが集まっている。
翌日には2つの事が世間に伝わった。
プロイデンベルクの発表によりオドルスが奪取されたこと。
新聞のすっぱ抜きにより椿の補給の要請を結果的に握りつぶしていたことである。
この事が世間に伝わると、騒動がどんどんと大きくなる一方だった。
「なぜ、援兵を送らないのだ!」
野党の1人が総理を追求しだす。
「陸軍大臣殿、何とかなりませんか」
議員の1人がそう振るも大臣は首を振り「我らも送れる分は送っているゆえ……何分予算には限度がありますので」と言葉を濁す。
「では、補正予算を組んでは?」
野党の党首が追及すると。
「兵員も不足しているゆえ」
とこちらも逃げる。
それを聞いた女性たちは怒り狂い。
「兵が居ないなら私が行きます。武器を渡してください」
そう言って誰が持ち込んだのか竹槍で訓練をしだした。
どこの村にも坂木乙女のようなはちきんや本曽義中の妻友恵御前のような男勝りな女性は1人くらいはいるものである。
彼女たちはその行為により妥協を引き出すなどとよこしまな考えは毛頭なく、ただただひたむきにやっているに過ぎない。
その必死な女性たちを笑う一部の男たち。
その笑う男たちを見て憤る文学青年、女子たち。
その熱気の風が、遥か遠くメリアン連合国まで流れてゆくのはそれほど時間が掛からなかった。




