第9話 不登校出現
2425年、不登校という概念はほとんど消失しかかっていた。対人恐怖症、HSP、人間関係リセット症候群、起立性調節障害など、医学的な正式用語でないものも含め、多くの精神的症状が抑えられるようになり、結果として不登校の数は、激減した。貧困の家庭には国からの経済的援助も行き渡り、いじめなどの深刻な問題も早期発見をすることによって予防できるようになっていた。しかし、その日ゆなのもとに診察に来た浅川志保は、この時代にしては珍しい不登校になりかけの生徒だった。ゆなは過去の嫌な思い出をそれとなく思い出した。由奈の義理の両親は、ゆなが学校で壮絶ないじめを受けていると知りながら、彼女を学校に通わせ続けた。その結果、首吊りの自殺未遂により病院に緊急搬送されたが、両親はそれでも毎日彼女に学校に行かせた。行かないと殴られるので、彼女は現実世界に逃げ場がなくなってしまった。
「ご両親のことは好き?」、ゆなはいきなりストレートな質問を投げかけた。
「はい。父も母もとても良くしてくれています。だから、ここ数日中学校に通えていないことは本当に申し訳ないです。できれば一刻も早く学校に復帰して、友達と会いたい」
「あなた、良い友達、良い両親を持ってるのね。」
ゆなは彼女にそう言いながら、自身の学校生活を思い出した。友達はいない。味方になってくれる先生もいない。両親からは虐待を受ける。そんな生活だった。目の前の彼女は学校に行きたい気持ちがあるみたいだし、周りの人間にも恵まれているみたいだから、何とかなるだろう。
「あなたが、中学校に数日行けてない原因は何?」
「それは、その…」
「あなたは本当は学校に行きたい。友達が多いってことはいじめられてるわけでもないんでしょ。何となくってことはないだろうし、何か原因があるんでしょ。」