第8話 集団療法
「俺は一体何をしてたんだ?」
「私は何でここにいるわけ?」
踊っていた彼らは、混乱を口々に言葉にした。ゆなと健斗は、彼らに事情を説明し、翌日家族の了承を得た上で慶東病院に来てもらうことにした。公民館の近くで踊っていた人は、総勢20名前後。担当は、田村ゆなになった。彼女は広い講堂で集団療法を試みた。
「あなたたちは、昨日の夜、何をしてたの?」
「急に身体が動き出して、気がついたら踊っていたわ。」
「他人が踊っているのを見て、無性に踊りたくなってよ。」
彼らは昨日の状況を各々振り返った。
「あなたたち、今度無意識に踊ったらあの世行きよ。脈絡なく、踊り出したくなったら、私のことを思い出して、心の中で3秒数えて。」
ゆなは、計20名前後の患者に暗示をかけた。これで、彼らは今後無意識に踊りだすことはないだろう。大多数の患者を相手に一気に暗示をかける集団療法は彼女の得意とする治療法の1つである。ゆなはこの後、既存の精神疾患の患者を複数診察して、仕事を終えた。身体が無意識に病棟の3階に上っていく。彼女はドアを開けて外に出た。携帯していた刃物で自分の手首を切りつける。涼やかな風が彼女の服を靡かせていた。