第7話 ダンシングマニア
ある日、横山健斗は、田村ゆなにあることを頼まれた。彼女は改まって、彼に願い事をしてきたのだ。
「あの、横山先生…お願いがあるの。上院公民館の近くまで、私を車で連れてって欲しいの。何かすごい上からの物言いになっちゃってごめんなさい。敬語が使えないって、やっぱり不便ね。」
彼女の頼みにどのような思惑があるのかは良く分からないものの、その日特に予定もなかった健斗は、希望通り彼女を上院公民館まで送っていくことにした。
「車運転できる人って、やっぱ凄いわね。私にはとてもできない…」
「そんなことはないですよ。それより、ちょっと心配です。田村先生見た目がお若いから、僕が女子中学生くらいの子に猥褻なことしようとしてるって思われそうで。」
「まだ言ってるよ。私、これでも32よ。だから大丈夫。それよりあなた、ダンシングマニアって知ってる?」
「聞いたことがあるな。確か過去に中世ヨーロッパで確認された死ぬまで踊る感染病…」
「そう、中世ヨーロッパの時と同じ危機が、現在でも起きようとしているの。」
「それって、まさか?」
健斗が彼女の思惑を察した時、車は上院公民館のすぐ近くまで来ていた。公民館に駐車させて貰い、その場を降りる。ゆなが走り出した方向に、健斗も走り出す。暫く進むと、道路の中央で踊っている人物が1人。2人、3人、4人…次第に踊る人の数は増えていく。ゆなが彼らの方向に向かって飛び出した。
「田村先生、そっちは危険だ。君も感染するリスクがある。」
ゆなは健斗に意味深な言葉を返した。
「大丈夫。私は悪魔の子、だから感染しない。」
「悪魔の子」というフレーズは、健斗の耳に強く印象に残った。まあ良く分からないが、何かしらの事情があるのだろう。この時は、深い意味を考えないことにした。ゆなが踊っている人の手に触れると、彼らは踊りをやめてその場に倒れていく。
「もう暫くすれば、意識を取り戻すはずよ。」
ゆなの言葉通り、彼らは5分も経たないうちに意識を取り戻した。