第10話 禁断の恋
「それは、その…とてもお伝えしづらいんですけど…」
「話してごらん。ここで聞いたことは、誰にも言わないわ。約束する。」
「その、実は、私、恋をしておりまして…」
そう言って俯く彼女を見て、ゆなは半ば目を輝かせていた。
「恋?ロマンチックじゃない。その話、聞きたいわ。」
「もう、先生、からかわないでくださいよ。中学生なら誰でも恋をすると思うけど、まさにそれが私が今不登校になりかけている原因なんです。」
「どういうこと?」
「その、私が好きなのは生き物じゃなくて…」
「ああ。ものってわけね。」
「そうなんですよ。それは良いんですが、私が好きなのはシャープペンの芯なんです。」
「シャー芯が?」
「はい。授業中にノートを取るためには、シャープペンの芯を使わなきゃいけないじゃないですか。1本の芯を使ったら、私の恋は自然消滅してしまう。」
どうやら志保は消耗品であるシャー芯を好きになってしまったことにより、学校に行きづらくなってしまったらしい。それを1本使い切るのは好きな人が他界してしまうのと同じことなのだそうだ。
「なるほどね。あなた、今日中に芯を一本使い切ってみてくれる。」
「え、でも?」
「今日はとても辛いと思う。けど、明日になればその恋は終わる。あなたが再びシャー芯を好きになることはないわ。」
彼女は、ゆなの言葉に黙って頷いた。志保は、言われた通り1本のシャー芯を使い切って文字通り号泣した。しかし、翌日、ゆなが言ったとおり、この不気味な恋愛感情が消えて、晴れやかな気持ちになっていた。これで、また楽しく学校に行くことができる。