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転生した魔術師令嬢、第二王子の婚約者になる  作者: 冬野月子


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第28話

 スラッカ王国へは、私とルーカス様、護衛のデニスとアンナ、そしてルーカス様の護衛二人と共に行くことになった。


「こんなにたくさんの魔法石、どうしたんですか?」

 出発当日。

 王宮へ行くと、テーブルの上に白い魔法石が置かれていた。

 二十個近くあるだろう、どれも大きくて質もいいものだ。


「アグレル侯爵と通じていた司祭がいただろう」

「はい。黒髭の」

「あの男に作らせた。牢から出してやる代償としてな」

「牢から出すんですか?」

「奴は司祭の身分を剥奪し、今後は魔術師として国のために働かせることになった」

「そうですか……」

 確かに、魔術師としての腕は一流だったから。いいかもしれない。


「とりあえず二つ持っていてくれ」

 ルーカス様は特に大きな魔法石を二つ手に取ると、私の手に握らせた。



「伯爵たちは見送りに来ないのか」

 出発するために廊下へ出るとルーカス様が尋ねた。

「はい。泣いてしまうので……」

 昨日も、そして朝も父は号泣していた。

 家ならまだしも、さすがに王宮で泣くのはどうかと思い、家族の見送りは家を出る時までにしてもらったのだ。


 馬車止めには既にアレクたち一行が来ていた。

「ああ、ドレス姿も綺麗だけれどやっぱりその姿も似合うね」

 私を見てアレクは微笑んだ。

 魔術師として行くのだからと、王都にあるギルド御用達の店で服を用意した。

 動きやすいワンピースに革のショートブーツ、そして無地のマント。

 身体を締め付けるドレスよりも、こういう格好の方が落ち着いてしまう。


「レベッカさん!」

 馬車に乗り込もうとすると声が聞こえて、振り返るとドリス様とエドヴァルド殿下の姿があった。

「気をつけてね」

 駆け寄ってきたドリス様が私を抱きしめた。

「怪我しちゃだめよ、病気もね」

「はい」

「無事に帰ってきてね」

 ドリス様の震えている声に、私も胸が熱くなる。


「はい、ちゃんと帰ってきます」

 笑顔でそう答えて、私たちは馬車に乗り込んだ。



 まずはスラッカ王国の王都へ向かう。

 師匠に白竜のことを聞くためだ。

 今回の任務は非公式とはいえ、一行には両国の王子がいる。

 そのため脚の強い軍馬が使えるので、最速のルートで目的地へ向かう。

 ルートの途中には一箇所魔物が出やすい危険な地域があるが、スラッカ側には水の魔術師がいるし、このメンバーなら大丈夫だろうとアレクと私で判断した。


「楽しそうだな」

 王都を出て現れた田園風景を眺めているとルーカス様が尋ねた。

「……そうですね。久しぶりにこういう景色を見たので」

 ギルド時代は魔物の出没する山や森にいることが多かったから、建物ばかりの王都は正直息苦しかった。

(前世でも田舎に住んでたから……特に森を見ると落ち着くのよね)

 広い空と山、そして森や畑。前世の景色に少し似ていて懐かしい。

「魔術師に戻りたいか」

 思いを馳せているとルーカス様の声が聞こえた。


「え?」

 振り向くとルーカス様が真剣な眼差しで私を見つめていた。

「……王都に来たばかりの頃はそう思っていましたけれど。今はここにも大切なものが増えましたから」

 家族、ルーカス様、それにドリス様たちも。

 短期間だけれど大切と思える人たちが出来た。

「魔術師として働きたい気持ちは、正直まだあります。でもギルドに戻ろうという気持ちは……あまりないです」

 いつかギルドへの気持ちの方が大きくなる時がくるかもしれないけれど。

 今は、今の生活が気に入っている。


「そうか」

 ルーカス様の眼差しが和らいだ。


  *****


 旅は順調に進み、国境にある山の麓へ着いた。

 この先は近道をする危険なルートに入る。

「リサ。索敵を頼める?」

 山に入る前に馬車を降りて装備を確認していると、アレクがやってきた。


「分かった。地図はある?」

 地図を借り、ルートを確認する。

 杖を手に取り山へ向けて意識を集中すると、ルート上に魔物の気配がないか、確認していく。

 今回はルーカス様から貰った宝石入りの杖ではなく、師匠から譲り受けたものを持ってきた。

 ルーカス様は不満そうだったけれど、この格好にあの豪華な杖は似合わない。


「――今はルート上にはいないけれど、近くに強い魔力を感じる箇所があるね」

 地図の二箇所を指で示した。

「そうか。遭遇する可能性があるな。ありがとう、警戒するよ」


「噂には聞いていましたが、すごいですね」

 スラッカ王国の魔術師が感心しながら言った。

「この距離で魔力の気配や位置まで分かるとは」

「僕は魔力がないからよく分からないけど、リサの魔力は特別らしいね」

「そうね……自分でも違いは分からないけど」

 この「索敵」は、他の魔術師には出来ないという。

 魔物の気配は分かるけれど、私のように離れた場所から感じたり、正確な位置までは分からないらしい。


「それじゃあリサ、またあとでね」

「うん、気をつけて」

 手を振り合って、別々の馬車に乗り込むと一行は出発した。



 馬車が走り出すと、向かいのルーカス様が不機嫌そうな顔をしているのに気づいた。

「……どうかしましたか」

「あの男には敬語を使わないのだな」

「え? ……ああ、アレクですか」

「俺にはそうやって丁寧口調なのに」

「アレクはギルド仲間なので……ルーカス様は王子様ですし」

 ギルドでは誰も丁寧な言葉なんて使わない。

「ドリス嬢は兄上と対等な口調だ」

「……ドリス様は公爵令嬢ですし、幼い頃から知っているのですよね」

 私がルーカス様に対して丁寧口調なのが嫌なのかな。

(でも立場とかあるし……)

 婚約したとはいえ伯爵家の私がルーカス様にタメ口なんて使ったら、他の人たちにどう思われるか。


「では、この旅の間は丁寧語はなしだ」

「え……」

「あまり身分を知られない方がいいからな」

 それは、確かにそうだけれど。


「分かったな、レベッカ」

「……善処しま……頑張る」

 言いかけた言葉を言い直すと、ルーカス様は満足そうに頷いた。


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