2ー79 【彼】を探せ!
1人で森の中に移動させられた後は必死に戦った。
もう負けたくなかった。
もう二度とあんな目に遭いたくなかった。
それに言われたから。
『頑張って生きて』と。
だったら頑張らないといけないだろう。
自分の命を危険晒してまで救ってくれたのだ。
適当に生きるのは彼に失礼だ。
戦って、戦って、戦ってようやく森を抜けたとこで倒れた。
失血と飢餓感で。
必死になりすぎて何も考えてなかった。
服はもうボロボロで、全体的にうず汚れ、ところどころ血で赤くなっていた。
怪我は、もらった回復薬で何度か治したので痛くはないが、多くの血を流しすぎた。
意識を失い、気付いた時は知らない部屋のベッドの上だった。
通りがかった商人の人が助けてくれたらしい。
その後、改めて感謝を伝えた後は再びレベルアップを開始した。
追いつきたかった。
あの、名前もわからない彼に。
同じくらい強くなりたかった。
同じを目指しては超えられないとか言うけど、夢を見すぎるつもりはない。
あくまで現実を見ておく。
「エルリア王国を侵略してロルニタ帝国が国際規約を違反していたことが判明した。戦争が始まるんだが……お前行くか?」
冒険者になり、しばらく立った頃そんなことを言われた。
何があったのか詳細なことはわからない。
でも答えは決まっている。
「他の勇者のみんなはどうですか?来ますか?」
「ああ、一応勇者全員に声がかかってる」
「じゃあ行きます」
そんなの即決だ。
迷うまでもない。
そこで必ずあの人を見つける。
見つけてみせる。
そしてローデリア。
なぜか既に城が落ちていたようで紗夜が着いた時には必死の調査と修理作業が行われていた。
領域の中でしか力を使えない紗夜にできることはない。
そのまま応接室らしき場所に通された。
既に14人のクラスメイトが集まっているようでワイワイと騒がしかった。
仲が良かった佳穂ちゃんが、考えたいことがあるのでソファーの一つに静かに座って思考の海に漕ぎ出した。
このメンバーの中にいる瞬間移動ができる人。
ミッケは好きでした。
数が少ない分すぐに見つかるはずです。
それにあんなに強かった人が負けて……その……亡くなられるとは思えない。
必ず見つけられるはず。
そう意気込んでそれぞれの力を思い出す。
西田くんは覚えてる。
【破壊】だ。
スキルをもらった初日にベッドを粉砕して問題になっていた。
勇者の暴走として結構問題になったのでよく覚えている。
でも違う。
詳しい力はしたないけど、【破壊】に瞬間移動ができるとは思えない。
次だ。
パスだ。
九重くん。
さてどうしよう。
スキルがわからない。
みんながみんなスキルを公表しているわけではない。
スキル公表の義務はないし、こっそりしておいた方がいいこともある。
初見殺しのスキルだったら尚更だ。
現に紗夜も進んで公表はしていない。
でも、ここまでどうにかできたんだから、逃げスキルか万能スキルとか取り敢えず強いスキルのどれかだろう。
まあ、大して絞り込めてないが。
どうしようもないのでパス。
宮原くん。
【再演】っていうスキルコピーだったことは分かってる。
問題はコピーしたスキルに瞬間移動があるかどうか。
絞り込めないように見えるが、案外わかるかもしれない。
召喚からあの事件までの間、紗夜たちはスキルの訓練をしていない。
自主練をしていた人はいたようだが、全体練習はしていない。
つまり、そこまで多くの人の技を写すことはできないのだ。
コピーとかいうチートを軽く超えて反則の技なんだから相応の欠点があるはず。
欠点なしのチートならスキル判定の時にもっと騒ぎになってるはずだ。
なのに【再演】で騒ぐ人はいなかった。
どちらかというと梶原くんの【進化】が注目されていた。
なんでも、未発見の新スキルだったとか。
欠点で思い浮かぶのはコピーにかかる時間。
仮にソレと仮定すると、ますます宮原くんの可能性は低くなる。
そもそも、宮原くんはあんな感じじゃない。
もっとこう、自信過剰な感じがする。
危険になったら、我が身可愛さに真っ先に逃げ出すタイプだ。
逃走を真っ先に考えた紗夜に言えたことじゃないが。
長利くんは違う。
【竜王の加護】がテレポートではなく飛行の力を持ってること、それから口調が違うこと。
パスだ。
普通に考えると【瞬間転移】を持つ榊くんが一番可能性が高い。
なんだけど……何か違う気がする。
直接聞けばいいのでは、と思うかもしれないが、他の男の子と仲良さげに話している彼にいきなり話しかけるのは気が引ける。
それに、そんな勇気が紗夜にはなかった。
聞くべきか、パスすべきか迷っていると不意に扉が開いた。
扉のすぐそばに座っていたので突然のことに驚いてビクッと肩を跳ね上がらせる。
大きく開いた扉から足を踏み入れたのは【進化】で話題になった梶原くんと純恋ちゃんと遥香ちゃん。
ついでに見たことのない男の子。
意外な面子の登場に軽く目を見張る。
「やあみんな、久しぶり」
軽い調子で入ってきた彼。
【進化】でスキルが度々進化するのは知っているが、最後に聞いた時は確か……【天候】だったと思う。
天候を操り、その事象を自在に操作する力。
『万能』という印象が強かった。
そこまで強くないスキルだったのでどちらかというと『万能』というよりも『器用貧乏』かもしれない。
純恋ちゃんに話しかけて最近の話に花を咲かせた後、会はお開きとなり、自分の部屋に戻ってきた。
「誰なんだろう」
さっきの純恋ちゃんとの会話で気になることがあった。
梶原くんのスキルが進化したらしい。
それも結構な強さのものに。
名前は【宙】。
名前からして怪しい。
いかにも空間を操りそうな能力だ。
一旦捨てていた【彼】が梶原くんだという話を考えてみる。
「………ん〜〜〜!わかんない!」
わからなかった。
なにしろ情報が少なすぎる。
考えようにも考えられない。
「こんなことなら純恋ちゃんにもっと聞くべきだったかなぁ」
あんまり深く聞くのもおかしいかと思って、さりげなさを装いすぎた。
結果、ほとんど情報が得られなかった。
正に本末転倒だ。
「何やってんだろ……紗夜」
そんなことを考えながら悶々とした気分で眠りについた。
翌朝。
なぜか決闘になった。
紗夜としては勇者同士で戦う意味がわからないが、純恋ちゃん曰く、対人戦と敗北経験のため、らしい。
敗北経験はよくわからなかった。
4人旅の途中で何かあったのかもしれない。
結局、決闘は梶原くんの圧勝だった。
3体1だったのに完膚なきまでに叩きのめされて蘇生までしていた。
普段ならやりすぎだと彼を責めたと思うけど、今回は他のことに目を奪われていた。
……さっき……梶原くん、瞬間移動してた
彼の周りがグニャッと歪んだかと思うと、いきなり結界の縁に現れた。
……梶原くんが【彼】なの?
根拠も証拠も確証もない。
でも可能性はある。
その小さな疑問は直後に確証に変わった。
「【空間転移】」
6人で訓練をしようということで郊外に行く時、彼が言った言葉。
間違いない。
あの日の【彼】も『空間転移』と言っていた。
間違いない。
視界が歪む。
次の瞬間には草原に立っていた。
この転移の感覚も全く同じ。
再会の嬉しさに涙が溢れそうになる。
でも必死で押し留める。
ここで泣くわけにはいかない。
みんなを心配させてしまう。
本気で戦おう。
難しいと思うけど、必ず純恋ちゃんに勝ってみせる。
そうしたら梶原くんーーいや、優人くんも認めてくれるかもしれない。
これが独りよがりな思いだということは分かっている。
もしかしたら彼は紗夜のことを忘れているかもしれない。
でも、それでもいい。
紗夜が思い出させる。
思い出させてみせる。
今日、彼の部屋に行こう。
そして話がしたい。
再会の喜びを胸に秘めて。
そしてあわよくばこのまま一緒にいたい。
もう離れたくない。
ありがとう。
助けてくれて。
ありがとう。
みんなを守ってくれて。
そして、
ありがとう。
また会いにきてくれて。
約束を守ってくれて。
えー……マジですみません。投稿順を間違えました。ミスって昨日、夕方までこれをあげていましたが、今の順が正しい順番です。以後気をつけます。