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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
93/248

2ー76 勝敗

 ギイィィィン



 再び刃が交わる。


 いつ準備したのかは知らないが奏の周りには人形のようなものがぷかぷかと浮遊していた。

 こちらの攻撃は全てその人形が捌き、今の奏は新たに作られた六つの星を壊している最中である。


 たまに手が空いた時に剣でちょっかいを出しあっているが、両者が直接戦う時間は短い。



 2人の戦闘なのに星と奏、人形と僕の戦いになってしまっている。



 消耗が大きいのは奏の方なのでこのまま続ければ僕が勝つだろうが、それはそれで味気ない。


「【ルシファー】っ!」


 だから、動く。

 突如地面がボコボコと沸騰を始める。


 直感で危険を感じたのか、急いで詠唱を始める。


「我に翼を与えよ」


 よっぽど危険だと思ったのか、詠唱の省略という無駄に高度な技術を使って背中に青の翼を顕現させる。


「我は設定する 我は変化を司る者」


 詠唱終了からおよそ1秒の誤差をあけて、地面から()()が立った。





「は?」




 起こり得ない出来事を前に、一瞬思考が停止する。



 わけがわからない。

 僕はこの星の地核のエネルギーを炎星として地上に打ち上げるはずだった。



 それがどうだ。


 なんで水が噴き上がっている。

 何をされた?


 そんなことを考えていると噴き上がっているだけだった大量の水が意思を持ったかのように僕を襲った。


 モノリスが完全に防いだので怪我はないが、内心、動揺していた。




 本来なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 なのになぜ炎が水に変わっている?


 原因は一つしか思い浮かばない。

 変化があーだこーだと言っていたあの詠唱だ。


「わからないって顔してるね」


 水を動かしながら刺突剣・七星剣で器用に攻撃を繰り出してくる。


「我は設定する 汝は既に拘束されている」


 途端に背後に純白の板と紐が召喚され、転移したかのように視界が変わる。

 そして、次の瞬間には磔にされ終わっている。

 無防備となった心臓に剣の切っ先が向けられ、そのまま勢いよく突き出された。


「【月蝕(ルナ・エクリプス)】」


 だが、それだけで流れに飲まれて負けるほど【星】は弱くない。

 刺されるのは承知。

 それを前提として優人は次の行動を決める。


 能力発動と同時に、身体と接している部分から黒く変色して、僕を拘束していた十字架がボロボロと崩れる。


 月蝕は万物を蝕む腐食毒。

 崩壊に僅かに時間がかかるものの、だいたい何でも腐食できる。



 しかし、直後にダダダっと一瞬のうちに四度突かれる。


 拘束から1秒も経っていない。


 だがさすがは神剣というべきか。

 四撃とも完全に体を貫通している。


 ただ、優人のプランにこの状況は織り込み済み。



「【日蝕(サン・エクリプス)】」


 使いたくはなかったが、プラン通りに治癒を始める。

 そこに焦りはない。



 日蝕(サン・エクリプス)月蝕(ルナ・エクリプス)の対極にある力。

 全てを蝕み崩壊させるのが月蝕ならば、身体に害なすものを排除し、再生を行うのが日蝕。



 但し、完全ではない。

 対極にある日蝕(サン・エクリプス)月蝕(ルナ・エクリプス)は相性が悪い。


 それも最悪。



 そのため、どちらかを使った直後にもう一方を使うと効果が半減する。

 だから今も痛みが残っている。



 別の技を使えば完全に治すこともできる。

 だが、したくない。



 制御できる自信がないし、やりすぎは自身を消滅させかねない。

 あの技で消滅したら確実に奏の力でも蘇らせられない。

 小見山でも無理かもしれない。

 なぜなら、原因がわからなければ命令しようがないから。




「どうする?まだ治す?」


 煽るような言葉を投げかける奏。

 そんな奴に対して、僕はなんでもないというふうにニヤリと笑った。


「なに、お前相手に治癒はこれだけで十分だ」


 その笑顔を受けて、奏は僅かに表情を歪めた。




 ***




 ……あの神剣、何か能力があるのか?


 煽りながらも、優人の頭は高速で回転していた。


 棘の部分が光り輝いている。

 トゲトゲは6本……いや、刃の部分を入れたら7本か。

 その7本のトゲトゲ部分の内4本が光を帯びていた。

 そして、今まで受けた攻撃は4回。




 攻撃のたびに何かが蓄積される?

 攻撃するたびに攻撃力が上がるとか?




 実際のところ、優人の予想は斜め上を行っていた。

 確かに光に意味はあったが、出力は関係ない。


 実際はそれより遥かに危険なもの。



「さっきも言ったけどさ、気をつけて」


「よく理解した」


 何も理解できてないが、虚勢を張った。




「我願う あらゆる敵に打ち勝つ力をこの身に」


 黄色の光が降り注ぐ。

 ほんのりと身体が黄色に色付き、僅かに攻撃の威力と速度が上昇する。



 徐々に【十字衝(サザンクロス)】が押されていくがこのまま流れに負ける僕ではない。

 そして星の力もこの程度ではない。


「【スターバースト】」


 バスケットボールサイズの光球が、いくつも上空約100メートルの場所に浮かび上がる。

 浮かび上がった小さな太陽は燦々と地面を照りつけ、地を焦がす。



「落ちろっ!!」


 合図とともに光球が弾け飛び、幾百もの流星が降り注ぐ。


「無茶苦茶だなっ」


「オマエに言われたかねえよ!」


そう言いつつ優人は後方に大きく跳んで距離を開けた。



【スターバースト】は広域に影響を及ぼす代わりに、一つずつの火力は低い。

これはあくまでも、奏に防御を強制して、【星】に有利な距離を作るためのものにすぎない。



「砲門展開」


 術式を展開。

 自分の前に4の漆黒の円が構築され、輪の中心から金の光が漏れる。


「殺す気かよっ!我は設定す この身に虚の力ありっ!」


 それから一息つく。


「設定 我は秩序を正す力を持っている!設定っ 我は雷を司る者!癒しの光を我が身にっ!!」


 合計四つの詠唱をこちらの魔法が完成するまでの一瞬で構築。


 直後、僕の技が完成する。


「行けえっ!!【コズミック・レイ】っ!」



 地面が抉れ、風が吹き荒れる。

 放たれたのは4の光線。


 相対する奏が用いたのは、全てを吸収する力。


 術者の元を離れた光は尾をひきながら奏にぶつかり、吸収された。






 血が撒き散らされる。


 何が起こったのかわからずに目を見開く奏。

 力が抜けてガクリと体勢を崩して膝をつく。


「な……んで……」


 神剣・七星剣を構え、今一度立ち向かおうとするも起き上がれない。


「我願う 我が身に浄化の………ガハッ!ゴホッ!ガアッ……」


 その身を蝕むのが毒と気づいたようで浄化をしようとするも、できない。

 別に毒に特別な効果があるわけではないが、苦しさに耐えきれず身体ごと地面に倒れる。


「は……はは…俺の負けだね…」


「悪くなかったぞ。今回は完全に出力不足だ。手数は完璧だったと思う」


 最後の一撃の時、奏はカウンターを狙っていた。

 自身の魔力が少なくなり、ただでさえ低い火力が更に落ちることを悟った彼は僕の魔力を吸収することを考えた。


 相手の魔力を喰らうことで大規模な攻撃を行うつもりだったのだろう。


 実際、最後に選択された力は秩序と雷。

 雷はその眷属神の多くが攻撃……特に破壊の力に優れている。

 そして、秩序を乱す者を攻撃する際に自身を爆発的に強化できる力である秩序の権能を取得し、更に出力を強化する。


 秩序の定義はある程度術者が曲解できるため、僕を秩序を乱す者として指定するつもりだったんだろう。



 カウンターをもろに食らったらどうなっていたかわからないが、僕には勝てる自信があった。

 あの攻撃で勝敗を決める自信があった。



 それでも、レベル差のある僕に危機感を抱かせることができたんだから今回の勝負、奏は大健闘だろう。


「やっぱりオマエ強いな」




 笑顔と共に賞賛を送った。


「……褒めてもらえるのは光栄だけどさ、そろそろ治してくれてもいいんじゃない?」


 返ってきたのは、仲間の悲痛な叫びだった。


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