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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第一章 ようこそ、異世界へ
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1ー8 試験

「じゃあどうぞ」


「ハアアアアァ!」


 次の瞬間、僕の方にはすでに槍が迫ってきていた。

 6メートルほどの距離を一気に縮め、ジェラルドは踏み出すと同時に槍を突き出す。

 うねりをあげた槍は過たず僕の心臓に正確に伸びてきて、咄嗟に構えていた刀で軌道を逸らしながら、体を捻ることで回避。


 そのまま返し刀で腹にむけて刀を振り、それがジェラルドの胴に当たる直前で槍が間に滑り込んできて刀を弾く。

 そして、ついでとばかりに衝撃で後ろに下がった僕に蹴りが飛んでくる。


「カハッ……」


 なんとか腕を差し込んで衝撃を和らげるも完全に衝撃を殺すことはできなかったようで数メートル飛ばされ、砂煙を上げながら地面をスライディングする。


「ぐうっ」


 体制を整え、立ち上がるが腕が痺れていて上手く動かない。

 手を握ったり開いたりしながら回復に努める。

 痺れて木刀を持つ手に力がこもらなかった。


 ……これ手加減してんのか!?ほんとに!?



 僕が立ち上がるまで待ってくれていたジェラルドが再び距離を詰め、槍を振るう。

 手の中で素早く、流れるように回転した槍は回転の勢いのまま、僕の首に迫る。



 一応、僕は手足に防具(貸してもらった)をつけている。

 だが、狙われているのは防具のない場所。


 うっわー、性格悪ー。

 殺す気かよ。


 内心冷や汗を垂れ流しながらも首を曲げ、刃で軌道を曲げ、受け流して……



 流したはずの槍が腹に突き刺さる。



 息が詰まりその場で硬直する。



 そして、固まった者を敵が見逃すはずもなく、槍の連撃が襲う。


 5、6発食らった後、どうにか後ろにジャンプする。

 それと同時に刀を大きく振って間合いを開ける。


 攻撃は運良く防具に当たったため気絶まではしてないが、全身に激痛が走っている。



 そんなことより。

 何をされたんだ?俺は受け流したはずだ。『はずだ』と言うより完璧に受け流した。

 なんで腹に直撃したんだ?どうやって?


 頭がハテナで埋め尽くされる。

 アイツは魔法を使ってない。

 だったら技術だが……



 そう考えてやっと気付いた。

 アイツ、穂先の手前を握って石突で俺を突きやがったな!

 じゃあさっきの連撃もか!


 どうりで回数の割に痛みがないわけだ。

 先が尖ってないから痛みが少なかったんだな。


 奴に視線で尋ねると御名答とばかりに微笑を浮かべた。

 というかよく穂先の方を持つ発想があったな。しくじってたらお前が負けてたぞ。



 相手のカラクリは理解した。

 理解できた。


 だが……

 

 わかったところで、だ。

 ……まずいな。

 腕が痺れていて、上手く力が入らないし、膝も震えている。


「どうした?もう終わりか?」


 対するジェラルドは傷一つ負わず、まだまだ余裕といった様子で飄々とした態度を崩さない。

 息もほとんどあがっておらず、自分との差を思い知らされるようだった。



 舐めた口調にイラッとする。そして彼に言い返せない自分にも腹が立って仕方ない。でも、こうして戦っている自分や腹を立てる自分を誇らしいと思っている自分もいる。


 ……なんだ?───ああ、そうか。悔しいのか。




 前の世界ではこうして『勝ちたい』と必死になることはなかった。

 まあこのくらいでいいか、と諦めていた。

 勉強も運動も友人関係も。

 成長……いや、進化か。

 おそらくスキルは関係ない。

 でも、自分の成長を知れて嬉しかった。

 今なら、どこまででも強くなれそうな気がする。


 ゆっくり刀を構え直す。今度はさらに腰を低くし抜刀術の構えをとる。

 それは映画を見て真似ただけのお粗末なもので。

 しかし敵を見据える目は過去一番で鮮烈で。


 魔法やスキル、もらったスターターセットは使わない。

 ジェラルドは素の身体能力で戦っているのだ。

 能力やアイテムに頼るのは負けを認めたみたいでカッコ悪い。


 相手が魔法を使わないなら僕も使わない。

 これは命を奪い合う戦いではなく試験なのだ。

 僕が刀を貰えるかどうかを賭けた。


 ならばせめて、僕も素の身体能力と技術で足掻いてやろう。



 そして、宣言する。



「もう、負けない」


 心は熱く、頭は冷たく、静かに回転させる。

 新たに燃え上がった闘志を見て、ジェラルドは一瞬、驚いたように表情を崩す。

 すぐに表情を戻すが、その顔には微笑が浮かんでいた。








 優人は気付いていなかったが、2人の周りには人だかりができていた。

 もう訓練の開始時間はとっくに過ぎている。

 勇者はすでに全員集まり、自然と2人を囲むように円を作って戦いに魅入っていた。

 声を出す者は1人もいない。

 皆が息を、瞬きを忘れるほど、見入っていた。


 太陽がのぼり、日差しが強くなる。彼らの戦いは太陽と競うかのようにさらに白熱していった。









 ジェラルドが駆ける。

 対する僕は静かに構え、居合の要領で間合いに入った瞬間、刀を振る。



 得物が交差する



 ガンッ、と鈍い音が響く。

 手に痺れが残っているのも気にせず、振り返って再び刃を振るう。

 今回ばかりはもう防御は捨てる。

 とにかく攻める。



 連撃連撃連撃。

 上段、中段、下段。

 とにかく攻撃を繰り出した。

 外聞や格好なんてもう気にしてなかった。

 今、彼の中にあるのは『勝ちたい』という純粋な思いのみ。



 全身に激痛が走るのも無視してとにかく刀を振る。

 そして一瞬の隙を逃さず、その首へ刃を振るった




 ゴッ

 鈍い音が響く

 熱を帯びた訓練場に静寂が戻る

 そして彼は地面に倒れ伏した。


明日もお楽しみに!



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