1ー8 熾星終晶刀
「……ぁ、あ、ぁあああああああああああああああっ!!」
喉が裂けんばかりの絶叫が、病室の静寂を引き裂いた。
事情を知らない者が見れば精神の異常を疑うような、長く、低い悲鳴。
しかし幸いにも周囲に人影はなく、彼を止めたり、不審に思う者は一人もいない。
声の主、梶原優人は、ジェラルドに殴打されたはずの心臓を抑えてベッドから飛び起きた。
「ハアッ……ハァ……」
額から大量の汗が滴り、ベッドを濡らした。
荒い呼吸を繰り返し、ゆっくり周囲を見渡す。
「病室……そうか、負けたんだな」
無我夢中で魔力を纏い、身体を強化して振るった一閃。
それすらもジェラルドには届かなかったのだろうか。
無意識のうちに腕が上がり、心臓のあたりに触れた。
痛みはなく、服を捲っても変な傷跡は見られなかった。
気絶している間に誰かが回復薬を飲ませてくれたようだ。
そのおかげか、痛みも倦怠感もなく、寝起きにも関わらずしっかりと動けそうな感じがした。
人がおらず、人を呼べそうな道具も手近に無い。
目覚めた報告でもしようと思い、ゆっくりと立ちあがろうとした。
「い゛ッ……!!」
その瞬間、脳にひび割れるかのような鋭い痛みが走った。
咄嗟に頭を押さえるも、その時には痛みは消えていて、僅かに痺れのような小さな痛みだけが残っていた。
「無茶したか……?後遺症でなければいいんだけど……」
そう悔しそうに吐露した。
痛みと共に、先刻の戦いの光景が脳裏に浮かぶ。
驕っていただろうか?
勇者だからと。
召喚された、選ばれし自分なら騎士団長にも届き得ると。
「悔しい……なあ……」
どっかりとベッドに座り直し、天井を見つめる。
思考はぐちゃぐちゃとしていて、浮かぶ気持ちは思うように言葉にできない。
息をゆっくりと吐きながら、優人は足をベッドから下ろしたままベッドに背をつけた。
1度目を瞑り、気持ちを整理する。
次に瞼を上げた時、気持ちは少しだけスッキリとしていた。
その時、視界の端に見覚えのない武器が映った。
「……なんだあのボロ棒……誰かの忘れ物か?」
顔を上げてそれをしっかりと見つめる。
壁に立てかけられていたものは、錆びついた鉄剣のようなものだった。
火事跡から掘り起こされたかのようにあちこちが欠け、全体的に黒く薄汚れており、ゴミと言って差し支えない見た目だった。
一度周囲を見渡し、誰もいないのを確認してからその武器らしきものを手に取る。
するとその表面に一瞬黒い紋章のようなものが浮かび上がり、紋章の部分に大きな亀裂が刻まれる。
「は?えっ!?」
壊してしまったかと思い、優人は咄嗟にそれをベッドの上に放り投げた。
その間にも亀裂は広がり、ついに棒全体が亀裂に覆われる。
理解が追いつかない優人を放置して反応はなおも続き、割れ目から光が漏れたかと思うと、直後漆黒の破片が勢いよく飛び散った。
咄嗟に腕で顔を守る優人。
しかし破片が刺さるような痛みはなく、恐る恐る優人は瞼を上げた。
視界にあったのは一振りの日本刀。
もはや先ほどまでの見窄らしさはどこにもなく、堂々とした風格を兼ね備えて輝いていた。
鞘は漆黒。
艶があり、鍔にも豪奢な彫刻が施されている。
武器というよりも芸術品に近いように見えた。
「これ……もしかしてさっきの試合の……。ってことは最後の攻撃が当たったのか?」
急激に体温が上がる感覚があった。
興奮で鼓動が激しくなる。
そっと刀に触れると、脳内にエコーがかかったような声が響いた。
「目覚めたようだな。その武器は君が自ら勝ち取ったものだ。好きに使うといい」
何も言わず、優人はベッドに背を預けた。
しかし先ほどとは異なり、その顔には笑みが浮かんでいる。
「そっか……やったのか……」
胸には安堵と高揚感が残っていた。
***
一通り眺めて感慨に浸ったあと、優人は腰のマジックバックから鑑定の魔術具を取り出した。
見た目は普通の日本刀だが、ここは異世界。
どんなものでも鑑定しておいた方がいいだろうと思ったのだ。
そして予想通り、魔術具をかざすと、表面のレンズ部分に文字が浮かび上がった。
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熾星終晶刀 ランク Over
星神の神器をイメージして作られた世界に一振りの刀であり、神器のレプリカ
勇者・天野竜聖の最高傑作
破壊不能
魔力伝導効率強化
固有能力【星の恩恵】【星転斬】【星の終焉】
固有能力使用条件
勇者であること
幻獣種レベル700以上
主人として認められること
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「かなり強いな……使用条件が厳しいのが玉に瑕だけど、Overってことを考えると優しい方か」
Overランクは大陸全体で見ても希少で、強力な部類だったはず。
刀が欲しいとは言ったが、まさかこのレベルを貰えるとは思っていなかった。
説明を読む限り、勇者しか使えないようだから使用許可が降りたのかもしれない。
続けて固有能力についても調べていく。
「……なるほど、【星の恩恵】はバフと一時的な魔力制限を無くす能力。【星転斬】は不可避の斬撃を飛ばす技。【星の終焉】は超火力のエネルギー照射みたいなもんか?使ってみないとよく分かんないな」
説明の所々に専門用語が散りばめられており、読んでも微妙に理解できない。
これをくれたジェラルドに聞こうかとも思ったが、どうせまだ使えず、聞いても理解できないだろうと思い、優人は能力が使えるようになるまで放置することに決めた。
一通り調べ終わり、優人は鑑定の魔術具をしまった。
そして今度は刀を鞘から抜いた。
刀身は青白く、触れてみると金属らしい冷たさが指先を通して伝わってきた。
「重いな……まだ使いづらいか」
今これを振り回せば敵より先に自分が細切れになる気がする。
しかしせっかく手に入れた刀。
重いからと言ってこのままお蔵入りは少し悲しい。
「いいよ。すぐに使えるようになってやる」
そう言って優人はニヤリと笑った。
「とはいえ天野竜聖くんには感謝だな」
この刀の制作者天野竜聖。
おそらく会うことはないし、彼がどんな勇者だったのか知らないが、これほどの武器を作れるくらいなんだから、かなり強い勇者だったに違いない。
「大切に使わせてもらうよ」
そう言いながら、優人は刀の切先を鯉口に当てた。
刃は滑らかに鞘を滑り、パチンという小気味良い音と共に、美しい刀身は鞘に隠れた。




