2ー72 チャンス?それともピンチ?
「帝都に連れて行くのは小見山さんと蒼弥、それから安田さんを考えてる。残りのみんなにはここの守りと近くの城の攻撃を頼みたい。あ、3人は絶対じゃない。行きたくなかったら一緒に行かなくてもいい。その時は他のみんなとここで戦ってもらう」
そこで納得すればいいものの、予想通りの人物が口を挟んだ。
「ちょっと待ってください。なんであなたが決めるんです?学級委員たる僕が決めます。もちろん皆さんの意見を尊重させて」
案の定の宮原拓人である。
だが、こちらも引き下がるつもりは毛頭ない。
「却下する。こっちの4人でもう決めた」
「強引すぎます。そもそもなんでこの3人を選んだんですか?それから、あなたはどうするんですか」
「無論、行く。こっちの4人は決定してる」
「なぜ?」
「居ないと戦力が下がりすぎるから」
「僕たちは足手纏いだと?」
めんどくせぇ。
素直に言うこと聞けや。
それからこんな質問寄越すな。
どっちを言ってもめんどくさい展開になる。
「おい!なんか言えよ!」
我慢できなくなったのか、声を張り上げた西田。
う〜ん。
どうするべきか。
考えることしばし。
うん。
無視しよう。
「それで、3人はどうする?残ってもいいけど」
「オイ!答えろよ!俺も行くぞ」
やかましい。
「え?あ、えっと」
ほらみろ。
小見山さんが困ってる。
彼女のスキルは【絶対領域】。
3人の中でも特に連れて行きたい人だ。
彼女の力は絶対の強制。
結界内では彼女は最強となり得る。
なんせ、彼女は領域内では死すらも覆す。
………うん?
死すらも覆す?
何か、引っかかった。
なんだ?
覆す………死すらも……
……………ん?
あっ
一つ、閃いた。
「わかった。個人の意見を尊重しよう。……ってことで、さっき言った3人以外で行きたい奴は僕と戦え」
僕もここで目的を果たせるかも知れない。
「僕が怪我したら連れて行く」
命令を下せる小見山にとっては簡単な課題だろうが他の奴にとってはそうではない。
彼らが出した結論は、
「ああいいぜ。ボコボコにしてやるよ」
「僕も参加します。もし君が怪我どころか負けたら僕に従ってもらいますよ」
「あ、じゃあ俺も俺も」
「これで全員?……んーじゃ、わかった」
案の定の3人がかかった。
西田翔吾、宮原誠、長利孝河。
順に、【破壊】【再演】【竜王の加護】
まあ、勝てるだろう。
普通にやれば普通に勝てる。
だが、こいつらには今回一度死んでもらう。
目的は勿論、スキルの進化だ。
「小見山さん、スキル使える?」
「オイ何しようとしてんだ!ズルするなよなぁ!」
こう言う声は無視に限る。
「で、どう?できる?」
「あ、うん。できるけど……あの、何をするつもりなの?」
「いや、ちょっと……」
3人を殺すとは言いにくい。
「ごめんね、小見山さん。死んだら蘇生する絶対を強制してほしいんだ」
僕が言い淀んでいるのを見て、奏が助け舟を出す。
「蘇生って……何するつもり!?」
「………」
なんか言えよ。
「……いや、まあ……」
どうやら乗った船は泥舟だったらしい。
正直に言うしかないかあ……
「紗夜ちゃん、お願いします。2人の言う通りにしてくれませんか?」
ナイス純恋。
最高だ。
「……わかった。純恋ちゃんのお願いだから聞いてあげる」
うん。
これで心置きなくあいつらを殺せる。
「オイ!なんなんだよ。やるならさっさとしろよ!」
「いいよ。もう準備できた」
「やりますよ。いいですね」
小見山の声に軽く頷く。
途端に僕ら4人と小見山を結界が取り囲んだ。
「じゃあ始めよう。いつでもいいよ」
「あ"?舐めてんのか?3対1ってことか?」
「ああ。正直舐めてる。さっさと来い」
全力で煽る。
もうすでに3人とも額に青筋を浮かべている。
さっさと来いよ。
「来ねえのか?やっぱ弱いもんな。うん。まあ、仕方ないか」
ぶちっとキレたのが見ただけでわかった。
「ああやってやるよお!死んでも恨むなよなぁ!!」
やっときたのか。
後ろに残りの2人追随している。
まとめて倒すか?
でもまあ取り敢えず、
「【モノリス】」
自分と小見山の上に石柱を立てる。
それから
「【宙の共鳴】出力……」
やべっ。
咄嗟に腰を落とすと頭上を裏拳が通過する。
案外速かったな。
せっかく作った光球が消滅してしまった。
「【宙の箱庭」
空間シャッフル。
もう僕を攻撃することはできないだろう。
「【再演・解析】」
言葉からして嫌な予感しかしない。
「【固形大気】盾・剣」
今回、イルテンクロムは使わない。
道具に頼ったようで嫌だからだ。
同じように、空間固定も使わない。
どうせならあんな手段取らずに正面から倒したい。
なんせ、それができるだけのレベル差があるんだから。
もう一つ、領域も構築しない。
万が一、2重の結界のせいで蘇生しなかったら最悪である。
それだと僕はただの殺人者だ。
「解析完了」
何する気かと思ったら宮原が地面に拳を叩きつけた。
同時に空間が元に戻る。
こっちもこっちで最悪だ。
頭痛がしてきた。
さっきの能力、おそらく一定時間行使することで弱点を探す……いや、弱点を作り出す力か。
【再演】はスキルの分析とコピーのスキルだから、勇者の誰かが持ってたんだな。
それにしても、まさか壊されるとは思わなかった。
「まさかあれだけ言っておいて負けるの!?」
小見山、やかましいぞ
だが、予定通りに進んでないのは事実。
「仕方ない」
盾を消して代わりに無数の不可視の弾丸を構築する。
「【竜の鱗】」
だが、攻撃は届かない。
何それ。
硬すぎだろ。
「まいったなあ」
誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いた。