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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
83/248

2ー66 叛天開

 天野竜聖の新スキルである【拒絶】。


 彼自身、スキル【創造】に劣らない強力なスキルだと言っていたが、万能ではない。


 当然、賢い彼はそのことをよく理解している。




 その弱点とは、火力の低さ。




 敵のあらゆるものを拒絶するという、防御に特化したスキルであるがために、一対多数の戦いに大変不向きである。

 耐えるだけなら余裕なのだが。



 だが、今回は耐えるだけでは何も解決しない。

 寧ろ、状況は悪化する。



 だが、問題ない。



 何が弱いのか。

 何が他に劣るのか。

 何が出来たらもっと強くなれるのか。



 適切に分析して実際に使用を繰り返してきた。

 実戦での使用は初めてだが、失敗はしないだろう。






 ()()()()()()()()()()()()()






 奢りでも、衒いでもなく純然たる事実。


 天野竜聖は紛うことなき天才。

 自信は多分にある。





 兵士たちの槍が迫る。

 それを見て。


 ああ、あれにしよう。

 あれを使おう。



「術式解放【叛天開(へウラトゥ)】」



 一枚のカードを切った。



叛天開(へウラトゥ)】。

 それは天野竜聖が生み出したスキルの臨界。

 ただのスキルを最上位に引き上げるための、そして、最上位のスキルを最上位のさらにその頂点へと引き上げる一つの技術。


 かつて、彼を最強たらしめた御技。




 腕を振る。

 ただそれだけ。




 刹那、彼を中心に魔力が全方位に照射され、衝撃波が通り過ぎる。




 次の瞬間、彼の周囲には敵の姿はなかった。

 代わりにあるのは周囲の壁につけられた人型の穴であった。





 命あるものは消せない。

 でも、拒絶の本質はあらゆるものを嫌だと言って寄せ付けないこと。


 反論の余地なく拒むこと。


 ならば。


 消せないなら、遠ざければいい。



 兵士たちは全員、壁に叩きつけられて死んでいた。



 壁は大きく陥没し、家を貫通して飛ばされている者もいた。




『経験値を獲得しました』


 再び響くシステム音。


 それを聞いてステータスを開くと一気にLV300まで上がっていた。

 遅いがまあ、こんなもんだろう。


 殺したと言っても魔力の少ない平民の兵士だ。

 簡単な魔法しか使えない奴らに負ける道理はない。



 彼らは(すべから)く、格下なのだ。







「じゃあ次は貴族街だね」


 さも当たり前といった表情を浮かべて少し歩き、立ち止まった。



 眼前にはいくつもの黒い影。


 魔導馬に乗った騎士団が到着した。

 貴族門の前で向き合う両者。



「やあ、初めまして。天野竜聖です。早速ですが僕のために死んでください」


 彼の中に見逃すいう選択肢は存在しない。

 躊躇いなく戦線布告とも挑発とも取れる言葉を発する。


 それから忠告を挟んで突撃する。



 すぐさま魔導馬とおそらく魔法でできた色鮮やかな剣が消え、更に鎧も消える。


 そうなってしまうと残る攻撃手段は魔法のみ。



「「「ジェルガ!!」」」


 一斉に手元に魔法陣が浮かび上がりそこに紅蓮の炎が一つ、生み出される。

 同時に僕の足元に魔法陣が敷かれ、結界ができる。


 大方、結界内のものを燃やす魔法だろう。



「放てっ!」


 手元を離れたそれらは一直線に僕の元へ飛来し、僕に当たる前に逆再生のように騎士たちの手元に戻っていった。

 僕の足元の陣と結界はいつのまにか騎士の足元に移動していて、彼らを焼殺する籠と化している。



 結界をどうにか壊そうと壁を叩くも、そんなもので壊れるわけがない。


 既に騎士達が結界を動かす権限は拒絶されており、彼らが仮に魔力を止めても結界は消えない。

 騎士の顔は驚愕で塗りつぶされており、口を顎が外れそうなくらいにあんぐりと開けて呆然としている。



 放たれた火球が結界の縁に触れる。

 壁の中が赫く染まり、煙に包まれる。


 くぐもった音で阿鼻叫喚が響く。

 残された騎士達は呆然とした表情を隠せていない。



 そのまま驚愕で気絶でもしてくれれば楽だったのだが、流石は騎士団。

 ただでは負けない。


「二列目前へ!」


「ガイアス!」


 呪文と共に剣が消え、あっという間に盾の出来上がり。


「ガイアス……?」


 ………自分にはまだできないらしい。

 何か特別な道具でも祝福でもいるのかな?


「さっさと死んで。時間の無駄」


 既に30人以上殺しているが罪悪感もなければ躊躇いもない。

 なんせ、もう死んでるんだから。



















「ステータスっと」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<ステータス>

【天野 竜聖】



 種族 真獣種


 LV345


 HP:12472

 MP:26065

 攻擊:7119

 防御:7993

 体力:11372

 速度:8048

 知力:221

 精神:24040

 幸運:56


 スキル……拒絶



 補助スキル

 攻撃耐性

 痛覚麻痺LV10



 称号

 生きる屍


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うん、いいよ。この速度ならこれが終わる頃には400レベくらいにはなってるかもね。死んだ人たちも役に立てて喜んでるよ、きっと」


 そう言いながら今潜ったばかりの貴族門を見上げる。

 その足元には、体の大部分が欠損して元が何だったのか分からないほど形が崩れた肉塊が、山を成していた。


 もちろん全て人の屍である。



 沸騰したかのようにボコボコと音を立てながら泡を吹き上げるものもあり、現実とは思えない光景。

 正に地獄絵図。



「っていうか、魔導馬って持ち主殺したら消えるのか。だったら1人くらい残しとけばよかったな。失敗失敗」


 仕方なしに美しく舗装された貴族街の道を歩く。


「待ち伏せなんて意味ないんだけどなぁ」


 そう言ってスキルを行使する。



「建物の拒絶」



 周囲にあった幾つかの絢爛豪華な貴族館(きぞくやかた)が根元から飛ばされる。




 飛んだ館は周囲の建物をものの見事に巻き込んで、結局十数個の屋敷を潰して停止した。

 そこら中から呻き声が聞こえる気がするが僕の知ったことじゃない。



 ()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()



 強いと言うんなら転生でも奇跡でもなんでも起こして復活したらいい。

 僕には関係ない。



 弱いと言うんならさっさと僕の前に出てきて死んでくれ。

 そして糧になってくれ。



 逃げて生き恥を晒せとは言わない。

 すぐに出てきたら一瞬で殺してあげるから。




「ん?あれって普通の馬か?」


 倒壊した貴族家の屋敷の厩舎らしきところに茶色い生き物が見えた気がした。


「よかった。殺しちゃわないで」


 馬に飛び乗ると腹を叩いて前へ進ませる。

 馬術は200年前にエルリアで学んだきりだったけど忘れてなかったようだ。


 あの時の苦い記憶の一片が役に立つことが来るとは思わなかった。



 馬を動かすこと約10分。

 領主の館が見えてくる。


 門番はおらず、重厚な門は一部の隙もなくかっちりと閉じられている。


「意味ないのにねぇ」


 軽く叩いて拒絶すると簡単に扉が吹き飛ぶ。

 飛んできた扉に押しつぶされたようで苦悶と憎悪の表情を浮かべた騎士2人が屹然とした表情でこちらを睨みつける。



 万が一もありえないとは思うが不意打ち対策に一応、剣で2人の首を飛ばしておく。



 ステータスを活かして2回のベランダへ飛び乗ると窓から中へ侵入。


 中にいた子供が何か言う前に首を飛ばす。


 そして迷うことなく扉に手をかける。



 ゴスっ!



 鈍い音が聞こえて、身体を久しぶりの不思議な感覚が突き抜ける。



 廊下で待ち伏せしていたようで、木製の扉を貫通した鉄槍……と言うより魔力でできた槍だろうか?それが腹に2本刺さっている。



 だが、痛みはほとんどなかった。


 あれだけの拷問を受けた僕に今更腹の穴が痛むわけがない。

 それに、痛覚麻痺の補助スキルもある。



 痛いというより、寧ろ擽ったい。


「邪魔」


 最も簡単に金具は壊れ、扉が飛ぶ。

 そのまま廊下の壁を壊して風穴ができる。



 燦々と照る太陽が鬱陶しいが、太陽を拒絶するわけにもいかない。

 成功しても自分は死ぬし、それ以前に多分無理だろう。

 大きすぎる。


 まあ、別に太陽が憎いわけでもない。

 八つ当たりはよそう。








「さて、ここだな」


 かなり広い館だったので見つけるのに時間がかかった。


 領主はこの部屋にいる。




 最初に城門を潜ってからずっと通路という通路を全て潰してきたから逃げられないのはわかっていた。

 隠しの非常通路もあったが既に天井を崩して通れなくしている。


 でもまさか未だに執務室にいるとはな。

 まさかコイツが僕と同等に強いというわけではないだろう。

 レベルはともかく、戦闘センスとスキルの有利で僕に分があるはずだ。


 ということは諦めたか。



 扉を開けつつ予め通達しておく。


「初めまして、領主さん。早速ですが僕のためにさっさと死んでください」


 中にいたのはただ1人。

 腕を組んでこちらを睥睨していた男はハァと深いため息を吐いて剣を抜く。

 そしてもう一度こちらを睨みつけて告げた。


「貴様にやるものはない!ここにあるものは全部私が持っていくッ!」


 そう言って喉元に剣を持っていく。


「バカだなぁ……剣の拒絶」


 同時に、こっそりヤツが展開していた自爆用魔法も拒絶する。


 大方、自死した後、爆弾で家ごと僕を吹き飛ばす算段だったんだろう。

 それに、何勝手に死のうとしてるんだよ。

 生殺与奪の権を持つのは僕。

 勝手に死なれるのはいただけない。


 勝手に死なれると経験値が貰えないんだよ。

 やめてよね。


「じゃあね。お馬鹿さん」


 そう言って拳を構える。


 そして大きく踏み込みーー


「やはり貴様はクズだな」


 ーーその寸前で拳が止まった。


 否、止めた。


「ーー貴様のような正義を知らぬ輩が力を持っていいと思っているのか!異天児だか勇者だか知らぬが貴様のようなガキに正義はない!!」


【正義】


 その言葉にピクリと目元が揺らいだ。



 過去の記憶が脳内を駆け回る。

 じゃあ何で僕らは殺されたんだろうと憎悪と冷めた疑問が浮かぶ。


「教えて欲しいな。君たちの正義」


 僕が納得できる答えがあるなら教えてくれ。

 何で死ななきゃならなかったんだ。


 記憶の中の男は貴族こそ正義と言った。


 なら僕が世界を作り変えたって構わないだろう?

 僕の存在こそが正義という世界を作っても構いやしないだろう?



「私の正義?ハッ!笑わせるな」


 男が醜い口を開いた。


「貴様が悪で、悪に鉄槌を下す私は正義に決まっているだろう?」


 一番嫌いな答えだ。


「クズはクズでしかなく、クズ以外の何者にもなれない!貴様のような薄汚れた下賤なゴミどものせいで我々貴族の高貴なる社会が一体どれほど汚されたことか!!!クズとして生まれ、クズとして生きる貴様に正義などない!クズとして、高貴なる我々の奴隷として、生涯汚いその身を捧げればいいのだ!!」


「もういいよ」


 予想の遥かに上をいくクズだった。

 こいつに比べれば自分こそ正義と謳っていた男の方が100倍マシだ。


「殺せばいい!殺すがいい!貴様が悪という事実は未来永劫変わらぬ!」


 拳を振りかぶってその勢いのまま前に突き出す。



 ーーその当たる直前。


「貴様に女がいるのなら、その顔を拝んでやりたかったな!クズの隣に立つのはクズに違いないからなァ!」


「っぁーーー!!」



 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!




 魔力を込めて殴る。

 グチャという不快な音と共に頭が潰れて頭蓋が割れる。


 胴と首が離れる。

 ガックリと膝を地につけた首のない身体は大量の血を撒き散らしながら倒れ込んだ。


 死ね!

 消えろ!


 死んだのはわかっている。

 それでも殴る手を止められない。


「ーーッぁぁああああああ!!!」


 幾度も幾度も殴る。

 頭蓋が粉々になり、脳が弾け飛ぶ。


「死ねェァ!!!」


 メキメキッと音がして床が沈み、2階に落下する。


 その衝撃でようやくハッと気がつく。




 何度殴っただろうか。

 一体どれだけの間殴る続けただろうか。


 足元には原型を留めぬ肉塊と、臓物が飛び散っていて、部屋は血の色一色に染まっていた。







 その場に残ったのは全身を赤に染め上げた1人の少年。

 1000を超える人間が消えたその街で狂気の表情をはらんで笑う。



 街の全てを壊した今も、無秩序に笑う少年は既に人間という枠から大きく乖離していた。




「これで第一歩だ。もうちょっとで本格的に始められる。……アハハッ………どうか……どうか僕に神の祝福がありますように」








 恍惚とした表情を浮かべた少年はいつも笑う。


 今の彼に喜び以外の感情はない。


 全てを失った彼が思うのは世界への復讐。


 そして宿っているのはただただ深い憎悪の光。


 壊れた少年は今も笑う。


 只々、願いが叶うその日を夢見て。


彼は全てを失った。

友も、恋人も、心も、命も。


全てを失ってなお、その少年は光を見ている。


彼は決して堕ちてはいない。

ただ真っ暗な憎悪の炎の中で正義を掲げてもがき続ける。


大義はない。

されど正義はある。


消えることのないその炎を鎮められるのは、おそらくこの世でただ1人だろう。

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