2ー65 ローデリアの惨劇
書いたか書いてないのか忘れたのでここで書いておきますが、純恋と遥香は双子の姉妹です。
まあ、学年が違っても特に物語の進行に支障はないのでどっちでもいいですが、作者が作成時に作った設定では、2人は双子です。
元勇者、天野竜聖は街道を歩いていた。
目的地は決まっている。
エルリア王国だ。
あそこに一つ忘れ物がある。
だからそれを取りに行く。
忘れ物とは神器。
昔の自分の魔力を辿って神器の魔力を見たところ、一つ、取られているらしい。
しかもよりによって熾星終晶刀。
正直、アレを取られるのはかなり面倒だ。
まあ、一番のお気に入りの神器ではなかったが。
最高傑作の一つなのもあったから国王が殊更大事にして誰にも渡さないと思ってたけど、さては、刀が理解できなかったんだな?
刀なんてどこにもないからな。
国宝とかに指定する意味も、ずっと所持し続ける意味もあまり無かったんだろう。
それにしても、
もしもに備えて隠しておいてよかった。
アレまで取られたらたまらない。
復讐が更に遠のいてしまう。
まあ、手に返ってきそうだから今更考えることでもないんだけど。
だが、懸念もある。
レベルが低いことだ。
目的の神器に熾星終晶刀のような馬鹿げたレベル制限はないが、それなりに制限がある。
今のレベルは僅か51。
そして、当然のように原獣種。
無茶苦茶低い。
スキルの魔力消費が少ないのがせめてもの救いだ。
消費魔力の少なさのお陰でスキルはそれなりに使えるが結構まずい。
これでは神器を見つけても使えない可能性が出てくる。
そんな時に見つけたのがロルニタ帝国第二都市・ローデリアだった。
この世界の城……というか街は中国風の、街全体を城壁で囲む仕組みらしい。
そして、ここの城には何故か結界が張ってある。
「最近は近代化が進んでるのかな?」
まあ、あり得なくはないだろう。
なにしろ200年も寝ていたんだから。
200年前には首都だけにしか街の結界は無かった。
ここを攻めてレベルアップ、か………
「悪くはないね。どうせすぐに世界ごと終わるんだし。むしろ、真っ先に滅んだ街ってことで名誉になるかもね」
平然と狂気的な言葉を発する。
心が壊れた少年に情はない。
故に誰かの生活を脅かすことに躊躇いがない。
「うん。早速始めようか。見た感じ……スキルを封じたりする結界じゃないね。よかった」
心底嬉しそうに笑みを浮かべる。
歪みも澱みもない純粋な、子供のようなキラキラとした笑みだった。
「結界の拒絶」
音を立てず、結界が消える。
城壁にいた兵士がそれに気付いたようでざわつき始める。
結界の消滅にすら気付かないだろうと考えていたので、少し驚いた。
門の上の見張りたちは突っ立てるだけ、とかいう考えは偏見だったらしい。
何があったのか知らないが、大都市なのに街の周りを歩く人はいない。
すぐに僕に気付くだろう。
特に急ぐ必要性も感じられないのでゆったりと歩いて城に近づく。
「あそこだ!」
「子供が近付いてるぞ!」
「魔法準備っ!」
「でっ、ですが子供ですよ!?」
「いいから準備だっ」
「は、はいっ!」
何なの?
たかが結界を壊したくらいで。
「放てっ!」
今から死ぬんだよ?
今更、何されようが構わないでしょ
「邪魔」
一言。
瞬間、接近していた魔法を弾き返す。
城壁の上でどよめきが広がっているが気にしない。
「馬鹿だなあ。死ぬんだからそんなことせずに神頼みでもすればいいのに」
この世界は神の力が強い。
日本では何の意味もない神頼みでもここでは笑えない。
本当に奇跡が起こりかねない。
だが、
「まあ、どうでもいいけど」
正直、少年にとってはどうでもいいのだ。
人の命など。
所詮は、他人の命だ。
見ず知らずの他人が死のうが生きようがどうでもいいのだ。
扉に手を当てて拒絶する。
途端に重厚な鉄扉が消え失せ、街が見える。
城門を悠然と潜り抜けると視界の端に数名の兵士が走ってくるのが見えた。
「準備運動かな」
見た感じ、騎士団ではない。
ならば余裕だろう。
騎士団が来て数の差が大きくなりすぎる前に殺し切りたい。
「うおおおおおおお」
雄叫びを上げる兵士。
対して一言。
「邪魔」
瞬時に敵の持っていた槍と鎧が消え失せ、驚愕の表情を浮かべているうちに喉を剣が通過する。
『経験値を取得しました』
久しぶりに声が聞こえて強くなったことを確信する。
三人が一斉にかかってくる。
だが、問題ない。
そこにはあれがある。
死んだ男の槍を出現させる。
彼らがいる位置は1人目の男の槍を消した地点。
スキルを解除した途端、心臓に不可避の槍が突き刺さり、絶命する。
あと2人か。
パチンと指を鳴らすと兵士の鎧が消え、動揺している隙に剣を一閃。
……ん〜奥からいっぱい兵士出てきちゃったなあ。まあ、どうせ全滅させるつもりだったからいいけど。
肉弾戦において、僕の力はそれほど強くない。
良くも悪くも平均だ。
軽く後方に飛んで、そこに落ちている槍を2本投擲。
そのあと剣に持ち替えて駆け出す。
「槍の拒絶」
空中の槍が消える。
槍を投げた目的は攻撃じゃない。
さっき兵士は見たはず。
槍が突然空中に出現してそのまま突き刺さる光景を。
だったら、槍が消えた地点は彼らが通行不能な地点になる。
ただ通らなければいいだけ。
しかし、戦闘中常に槍の存在を頭に入れておくのは命取りになる。
だがこれだけで勝てるわけがなく、僕と同じく剣を持った兵士や拳を握った者たちが雄叫びを上げて駆け出す。
一旦無茶をして乱戦に持ち込む。
一対多数を乱戦と言うのかは定かではないが、取り敢えず敵の間を駆け回った。
そして機を見て術を使う。
「解除」
空中で消えていた槍が顕現し再び飛翔する。
タイミングは完璧だったようで、顕現した時点で2人の首を貫いていた。
『経験値を獲得しました』
再び脳内に声が響いた。
次回、竜聖の新技解放です!