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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第一章 ようこそ、異世界へ
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1ー7 「大人気なさ」という名の誇り

 翌日、男子の半数近くが寝ぼけ眼だった。

 相も変わらずスキルやら魔術具やらについて夜遅くまで話し合っていたらしい。



「おはよー」


「うん、おはよ」


「ふあぁ…ほはひょう(おはよう)…」


 次々と食堂へ降りてくるクラスメイトと挨拶を交わす。カウンターでパンとスープを受け取り、席につく。


「おはよー優人」


「ああ、おはよう」


 席で挨拶を交わすのは相も変わらずお馴染みの蓮斗。


「眠そうだな。いつ部屋に戻ってきたんだ?」


「ん───多分3時くらいだと思うけど、正確にはわからないな。時計ないし」


深夜に眠りにつき、6時という早朝に起きる。

そんな生活を送っていながらも親友の声には今日もハリがあった。




 ところで、この世界の時刻は鐘の音で知らされる。

 午前4時に一の鐘

 午前6時に二の鐘

 8時に三の鐘

 10時に四の鐘

 12時に五の鐘

 14時に六の鐘

 16時に七の鐘

 18時に八の鐘

 20時に九の鐘

 22時に十の鐘

 のように日に10回鐘がなる。やっぱ、異世界の時計は鐘がいいよね!


 鐘は城ではなく、城の近くに建てられた神殿の尖塔の最上階に取り付けられていて、それを拡声の魔術具を使って王都中に聞こえるようにしているらしい。

 僕も実際に見たわけじゃなくて聞いた話だからいつか神殿にも行ってみたいと思っている。



 軽く談笑しながら食事を終える。話の途中に聞いたんだけど、蓮斗のスキルは【透過】らしい。

 文字通り、なんでも透過するスキルらしい。

 強いスキルってよりかは便利スキルって感じだな。銀行強盗し放題じゃん。


 訓練のことを考えながら、席を立つ


 ガチャ、バンッ


 無駄に大きな音を立てて扉が開き、豪奢な鎧に身を包んだ青年が入ってくる。

 そして、扉の前で一礼すると口を開いた。


「やあ初めまして、勇者の皆様!私はエルリア王国で騎士団長を勤めているジェラルド・エイブ。以後お見知り置きを。今日の訓練は三の鐘から始まります!!場所は第二訓練場、わからなければ城の騎士にでも聞いてください!では!!!」


 彼は無駄によく通る大音声で簡単な挨拶と伝達事項を伝えると口を閉じ、もう一度礼をすると足早に部屋から去っていった。


 突然すぎて食堂にいた皆が固まっていた。

 驚きで誰も口を挟むことはできなかった。


「なんか嵐みたいなやつだな」





 と、いうことで。

 やってきました訓練場。


 誰かと一緒に行こうかと思ったのだが、みんな部屋に引き上げてしまい僕1人で来ることになったのだ。

 勿論時間になればみんな来るのだろうが、出来ればここに来る時も誰かと一緒が良かった。

 因みに、唯一(ゆいいつ)一緒に来てくれそうな蓮斗は二度寝しに行った。

 いい加減にしろ。



 少し早めに行くと数人の騎士がジェラルドの指示のもと、大量の武器や防具を運んで、並べていた。

 もちろん魔法で運んで並べていた。


 地面には初めて見る魔法陣が刻まれており、青の光を帯びている。そして、その中から次々と訓練用の武器と思われる物が飛び出してきていた。


「やあやあ少年、お早い到着だね」


 僕の存在に気付いたようでジェラルドから声がかかる。


「ええ、まあ。初めての訓練ですから。それに武器にも興味があるので」


 僕はできるだけ素っ気なく返答する。

 僕から見たジェラルドの印象は『チャラくて軽薄そうな男』だ。

 相手を探るために返事を選ばせてもらった。


「なるほど、使いたい武器は考えてきたかい?ない武器もあるがほとんどの武器は揃っているからね」


「刀ってありますか?」


「カタナ?ああ、君たちの世界にあるっていう片刃の剣?剣でいいと思うんだけど嫌なのかい?」


「やっぱり刀がいいですね。男のロマンですし」


「ロマンね……私は何とも思わないんだけどねぇ」


「でしょうね」


「貶してるのかい?」


「さあ?どうでしょう」




 ***




「結論から言うと、あるにはある。だが希少だ。木刀はあるが真剣はほとんどないのだ。創造スキルで勇者が作った刀が幾つかあったが数年前に盗まれて今は四振りしかない。工程が違うから職人に言っても作れないだろう。それで……どうする?」


「それはもちろん希少な真剣の一振りをもらいますよ」


「ふははははっ……よくぞ言った!刀は宝物庫にある。おそらく王に言えば態度と功績次第でいつかはくれるだろうが、その時は私が許可しない」


あの態度がビッグな王様が本当にくれるかな?


「ところで刀を熱望するということは木刀くらいは振るったことがあるのだろうな?」


「ええ、ありますよ」


 小さい頃、とある剣豪の映画にハマって大量に木刀持ってたんだよな。

 その映画見て我流で刀術を学んだ幼い僕の恥ずかしい記憶である。

 運動神経が良かったのでそれなりに様になっているのが皮肉なことだ。


「……少し手合わせしろ。手加減はする」


 ジェラルドの声に熱がこもって口調が乱暴になる。


 そして僕はと言うと、頭が真っ白になっていた。


 は?え?いや?なんて言った、この人?


 ……え?いやいや、様にはなってるよ?なってると思うよ?でも実戦経験なんてあるわけないし。いや、無理でしょ。


 考えているうちにジェラルドは自分用の木槍と僕の木刀を持ってきて、木刀を僕の足元に放ると槍を構える。


 ……いや、選ばせる気ないじゃん。


 僕の答えは初めから決められているらしい。


 だが!

 もう少し抗わせてもらう!


「ですが、これから訓練が始まるんでしょ?だったら今やったら怪我で訓練が……」


「それについては安心しろ。回復魔法が使えるやつがいるし、使うのは木刀だ。せいぜい骨折だろう。」



 どうやら怪我についての認識に差があるらしい。

 最悪骨折ではなく、()()()()骨折らしい。


 いやでも引けない。

 引くわけにはいかない。

 ここで引けば骨折にまで持っていかれることになる。


「だったら訓練の後でもいいと思います」


 訓練終わったらすぐ逃げよ。


「いや、体力を消耗しているはずだ。回復魔法で怪我は治せても体力は回復しない。それに、私が認めなければ刀の訓練をしても無駄になるぞ?」


「いや、でも……」


「やかましい。私がやると言ったのだ。さっさと構えろ」


 説得は無駄だと察した僕はため息をつきながら木刀を持ち、ゆっくり持ち上げて構える。


「じゃあどうぞ」


「ハアアアァ!」



 ジェラルドの声が響き、戦い───否、試験が始まった。


大人気ないのがジェラルドの誇り。

誰にも容赦しないのがジェラルドの誇り。

さあ勇者よ、私を驚嘆させてみろ。



***



あぁ、そうだ……

この日常が欲しかったんだ。


この日々がいつまでも続けばよかったのに。

そして彼がいつまでも【彼】でいてくれたらどれほど良かったことだろうか。





ちなみに補足です。回復魔法では体力は戻らないからとかジェラルドは言ってますが、体力を回復させる魔術具とか全然あります。別に訓練後に戦ったとしても疲労に関しては問題ありません。

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