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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第一章 ようこそ、異世界へ
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1ー7 試験

「来るがいい。先手は譲ってやろう」


 腕をだらりと垂らし、構えすらせずにジェラルドは手招きした。

 しかし優人はその様子を油断なく観察する。

 ジェラルドの様子は油断ではなく自信。

 無闇に飛び込んでも返り討ちに遭うだけだ。


 一旦、ステータスボードを開いて時間を確認する。

 訓練開始まで残り1時間と少し。

 これだけあればジェラルドの行動を観察することもできるだろう。


「行きます!」


 そう言って優人は駆け出した。


 刀を水平に構え、間合に入ったタイミングで横に薙いだ。


 バキッ!!


 しかし当たる直前、ジェラルドの強打が刀を打った。

 その衝撃で腕が痺れ、武器を落としそうになる。


「初めてにしては悪くないぞ!」


 痺れる腕を咄嗟に押さえた優人を前にジェラルドは槍を刺突に構えた。


 ……まっず……!


 直後、腹に穴が空いたかのような衝撃を感じ、気づいた時には砂の上を転がっていた。


「ゲホッ……ガハッ……!」


 感じたことのない凄まじい痛みが全身をめぐる。

 まるでバットで腹を殴られたような感覚がした。

 あまりの痛みに立ち上がることができない。


 砂の上を転がって痛みに耐える優人にジェラルドが近づき、その口元に小瓶を寄せた。


「飲むんだ。痛みが引く」


 無我夢中で優人はその得体の知れない液体を飲んだ。

 すると、一口飲んだだけで痛みが嘘のように引いていく。


「これが回復薬だ。これで立てるだろう?」

「はい……」


 優人はゆっくりと体を起こす。

 痛くないが、腹に釘でも刺さっているかのような奇妙な感覚が残っていた。


「私の強打で腕が痺れただろう?」


 優人は頷いた。

 咄嗟に腕を庇ってしまったせいで反撃に備えられなかった。


「半の鐘の間に学ぶといい。いい場所で受け止めたら、それとも、上手く力を逃せば痛みはほとんど感じなくなる」

「もう一度行きます」


 一度距離を取り、改めて優人は剣を振った。

 同じようにジェラルドが強打で木刀を弾こうとする。


 ……力を逃せ!当たった瞬間力を抜け!


 直後に衝突。

 しかし再び痛みが腕を貫き、同時に刀が手から飛んだ。

 そして無防備な腹に、再びジェラルドの槍が叩き込まれた。


 同じように吹き飛ばされ、壁に衝突してようやく勢いは止まった。

 腰のマジックバックに入れていた回復薬を一口含み、即座に優人は駆け出す。


「いい気概だ!だが!」


 ジェラルドは足元にあった刀を拾い上げて優人に放る。

 それを優人が手を伸ばした時、視界の端に槍を構えるジェラルドが映った。


「待っ……」


 声は届かない。

 再び刺突が腹を直撃し、再び壁に突き飛ばされた。


「ゲホッゲホッ……オエェ……」


 胃の中身が逆流し、訓練場に吐き戻された。

 口の中が酸っぱい。

 瞳からは涙が流れている気がした。


「敵が武器を返してくれると思うなよ」

「今は……」


 訓練だろうと言い返そうとした時、それを遮ってジェラルドの怒号が響いた。


「そんなことで世界を生きていけると思うな!!」

「なん、だと……」


 ジェラルドはゆっくり近づき、腰を下ろして壁に寄りかかる優人に視線を合わせた。

 殺気すら帯びていそうな鋭い眼光に、優人は思わず後退りしようとした。

 しかし背後の壁がそれを許さない。


「気を抜くな。甘く見積もるな。今のお前はそこらの騎士の足元にも及ばない雑魚だ。それで勇者の権威を振り翳す気か?」

「違う……」

「失望させないでよ───」


 優人が眉を顰めた、その瞬間。

 ジェラルドはハッとしたように表情を引き締め、咳払いを一つ挟んで低い声を吐き出した。


「───な」

「……え?」


 ジェラルドは立ち上がり、刀を優人の足元へ投げ捨てた。

 今の一瞬の違和感はなんだったのか。

 優人は困惑したが、ジェラルドはすでにいつもの顔に戻り、冷たく言い放つ。


「続ける気があるなら来い。君が止めるまで付き合ってあげよう」


 優人は這って刀を掴んだ。

 握り拳には血管が浮き出るほどの力がこもっていた。


「もう一回だ、ジェラルド」




 ***




 優人が斬り掛かる。

 ジェラルドが片手でそれを捌き、10秒にも満たない時間で優人を打ちのめす。

 そんな光景が何度も繰り返された。

 30分が経過しても、刀がジェラルドに触れることはない。


 ゆっくりと、しかし着実に優人は耐えるようになった。


「もう一回だ!」


 弾かれるように起き上がった優人は、腰から素早く回復薬を取り出して口に含んだ。

 ドス黒いあざが綺麗に消え去り、表情に生気が戻る。

 すでに服はズタボロに引き裂かれ、こびりついた血が赤黒い模様を描いていた。


 薬を飲む間も視線は敵から外さない。

 そして飲み干すと同時に、完治を待たずに空瓶を投擲した。


 追撃をかけようとしていたジェラルドは足を止め、槍を振って瓶を正確に砕いた。

 その隙に優人の回復は終わっている。


 低い姿勢でジリジリと距離を詰める。

 迂闊には近づかない。


 彼我の距離はゆっくりと狭まり、ついに一歩踏み込めば届く距離に至る。


 瞬きを一つ。

 視界が戻ると眼前に突きが迫っていた。


 しかし優人に焦りはない。滑らかな動きで刀を構える。

 槍の穂先が触れる寸前、滑らかに刀を外へ押し出し、わずかに軌道を逸らす。


 間をおかず追撃。

 前へ踏み込み喉元目掛けて切り上げた。

 しかしジェラルドは一歩下がって躱し、同時に突き出した槍を引き戻す。


 優人はさらに畳みかけた。

 切り上げた刀をそのまま振り下ろし、前へ踏み込みながら連撃をかけた。


「いいぞ!だが───」


 突然視界からジェラルドの姿が消える。

 優人の手が止まり、視線が彷徨う。


 その途端、足首に強烈な衝撃があり、優人の体がぐらりと傾く。


 足払い。

 しかし気付いた時にはもう遅い。

 バランスを失った体の上から、ジェラルドの追撃が迫り来る。


「───まだ弱い」


 声と同時に、心臓に掌底が叩き込まれた。

 心臓が悲鳴を上げ、肺の中の空気が強制的に吐き出される。

 その圧力に表情を歪め、気付いた時には優人の身体は床に叩きつけられていた。


「もう一回だな」


 そう言ってジェラルドが踵を返す。

 その背を優人は見逃さない。


 即座に回復瓶を投げて不意打ちを狙う。

 投げながら悲鳴を上げる身体を叱咤して立ち上がる。

 肋骨が軋み、胸の奥で激痛が炸裂する。



「ぐぅ、ぁぁあああああああ!!」


 歯を食いしばり、咆哮と共に地を蹴る。

 迫る回復瓶をジェラルドは振り返りもせずに槍で迎撃した。

 ガラスが砕け散り、中身が飛沫となって舞い散る。


 その下を、優人が潜り抜けた。

 降り注ぐ回復薬の雨を全身で浴びながら、姿勢を低く保って滑り込む。

 皮膚から染み込む治癒の力が、強引に筋肉を繋ぎ止める。


 痛みが消え、鈍った動きにキレが戻る。


 突き出された槍の柄を掴み、全体重をかけて強引に引き寄せる。


 ……もらった!!


 刀を持つ手に力が籠る。


 その優人の顔面に、鋭い拳がめり込んだ。

 視界が揺れ、足が浮く。


「やると思ったよ!!」

「……!!」


 手が伸び、地を鷲掴みにする。

 そのまま力を逃して後転。

 姿勢を整えながら奪った槍を薙ぎ払った。


「すごいな。気絶させる気で殴ったんだが……」

「槍返せとか言うなよ」


 ジェラルドは目を瞬いた。

 そして楽しそうに笑った。


「そんなことを心配していたのか!もちろん、私は拳で戦おう。奪い返されないように気をつけてるといい」

「舐めプかよ……!」


 ドンっ、という重い音が響く。

 ジェラルドの踏み込みが床を陥没させていた。


「何を言う。この程度ハンデにもならないさ」


 刹那。

 認識するよりも速く、眼前に拳が迫っていた。


「っ───!!」


 避けきれない。

 後ろに体重移動し、衝撃を殺そうとする。


 しかし、それらは全て無駄だった。


「か……は……!?」


 気づいた時には、身体は壁に叩きつけられていた。

 壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。


「なんだ……これ、は……!!」

「騎士が生身の肉体で戦うことは少ない。基本は肉体を魔力で強化し、素の力と強化の幅で勝敗が決まるのだ。そして、今のがその肉体強化だ」

「く、そ……!!」


 ……無理だ。今のままじゃ一撃入れられない。技術云々以前に速すぎる!目視できない!


「強化術を使うな、などとは言うなよ。刀は貴重で、尚且つどれも強力な力がある。それを覚悟のない者に渡す気はない」


 ……いや、僕も強化を使えばいい。魔力は僕にもある……!


 思い出せ、あの感覚を。

 あの心臓が、全身の肉が焼けるような痛みを。

 勝ちたいなら捻り出せ。

 あの人智を超えた超常の力を!


「……まさか自力で魔力を発現させるつもりか……?」


 呆然としたような声で、ジェラルドが言った。


 優人は深く息を吸い込み、体の中にある熱を探った。


「……まさか、おい、やめろ……!」


 優人の異変に気づき、ジェラルドの顔色が変わった。

 余裕の笑みが消え、本気の焦燥が浮かぶ。


「そのあたりでやめておけ! 指導なしの魔力解放は自殺行為だ! 血管が焼き切れるぞ!!」


 ジェラルドが制止しようと手を伸ばす。

 彼は知らないのだ。

 優人がすでに、その臓腑が焼き切れるような痛みをたった一人で乗り越えていることを。


 その時、優人の鼻からつぅ、と血が流れた。

 ポタポタと数滴が地に垂れ落ちる。


 ……負荷はかかる……けど、耐えられないほどじゃない!!


 感覚が異常なほど冴え渡っていた。

 細胞一つ一つが手の内にあるように感じられる。

 視界が開け、今まで見えなかった遠くの景色まではっきりと見える。

 全身に血が巡っている。

 同じように、凄まじい熱量を持った何かも、身体を巡っている。


 ……痛い。苦しい。血管全てが破裂しそうだ……!だけど、あの日に感じた痛みに比べれば……!


 カチリ、と何かが嵌る音がした。

 暴れようとする力が、優人の意思に従順に従う。



 身体が軽い。

 振るんだ、刀を。

 今なら手が届く……!


 無意識のうちに優人は刀を構えていた。


 鼻血で口元が濡れる。

 痛みで前が思うように見えない。

 しかし、覚醒した感覚によって、敵の存在が手に取るようにわかった。


「チッ……!止まれと言っているんだ!」


 ジェラルドが構えをとった。

 口では止められないと悟り、力ずくで優人を制圧しようと試みる。


 砂埃が舞う戦場で、彼ら二人の周りだけが、時の流れに取り残されたかのような静寂の中にあった。


 優人の右足に力が籠る。

 ミシ、と筋肉が悲鳴を上げ、踏み込みによって地面が沈み込む。


「来るがいい。正面から砕いてやる」


 空気が爆ぜた。


 身体が加速し、一瞬のうちに間合いを侵す。

 ジェラルドの拳が迫る。


 速い。

 だが、優人ははっきりとそれを捉えた。


「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 死線が交わる。

 拳が優人の顔面を捉える寸前。

 優人は全ての力を込めて、刀を振り抜いた。


 鈍い衝撃と、鋭い感触が同時に走る。



 一瞬の静寂ののち、ドサリと優人の体が地についた。


「……見事だ、勇者梶原優人」


 遠くで声がした。

 ジェラルドは、自らの頬に走った一条の傷を指でなぞった。

 その指先には、僅かに赤い血が滲んでいた。



明日もお楽しみに!



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初投稿なのでたくさん意見を言ってもらえるとありがたいです。

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