2ー63 敵の策
その後も魔物狩りを続ける。
以前言った気がするが、魔物には2つの種類が存在する。
一つ目、迷宮型魔獣。
二つ目、野生型魔獣。
両者の違いは単純。
文字通り、迷宮の中にいるか、外にいるかというもの。
分類の仕方は上記の通りなのだが、得られるものにも差がある。
まず、迷宮型魔獣は死ぬと身体が迷宮に吸収される。
そのため、全ての素材を体から剥ぎ取るのは殆ど不可能で、代わりにドロップアイテムが召喚される。
迷宮の仕様というやつだ。
仕組みの解明はされていない。
エラティディアの鱗はいでたじゃねえかと言うかもしれないが、あの時も十数枚しか取れてない。
逆に、野生型魔獣は死んでも死体が残り続ける。
故に素材の回収を急ぐ必要はないが、代わりにドロップアイテムが出てこない。
それから、迷宮型は死後に残る魔石の魔力が純粋で魔術具作成に向いている。
逆に野生型は他の魔獣を喰らうため、魔力が雑多だ。
使える部分はあるが迷宮型よりも限られてくる。
それに、かなり安価だ。
収入にならない。
というふうに言うと迷宮型の方が優れているように感じるが、そうでもない。
野生型の長所はもらえる経験値の量だ。
迷宮型に比べ1.2倍くらい多い。
その上、他の魔物を喰らっているが故に補助スキルが手に入りやすい。
つまり、金にはなりにくいが、強くはなりやすいと言うことだ。
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《ステータス》
【出原 奏】
種族 真獣種
LV198
HP:10811
MP:28003
攻撃:6598
防御:7167
体力:10710
速度:7128
知力:227
精神:6027
幸運:39
スキル……本
補助スキル
運命視
絶対契約
魔力吸収
星詠の魔眼(未来視+天候操作+真実の魔眼)
万物探知LV2(魔力探知+気配探知+空間探知+精霊交信+読心+記憶遡行+……)
身体強化LV3(感覚強化+腕力強化+攻撃強化+耐性強化+聴覚強化+脚力強化+……)
等価創造
祝福付与
魔力連鎖
自動回復(魔力再生+身体再生)
隠蔽
精霊魔術
幸運(幸運+退魔)
称号
神に愛されし者
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空いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
もう何も言うまい。
わかってはいたけどここまで凄まじいとは思わなかった。
どう見ても異常な数の補助スキル。
全部の神から祝福を得たとか言っていたがここまでとは。
基本的に、補助スキルによるステータス補正はステータス欄には表示されない。
つまり、表示されているステータス値は補助スキル無しのステータス値だ。
結局、奏のステータスはもっと高い。
それから万能。
まさに万能。
もしかしたら今なら負けるかもな……
手綱を握る人間の方が弱いとは由々しき事態だ。
早急にどうにかしなければ。
そんなことを考えていたら不意に遥香から声がかかった。
「梶原。この山の近くで戦闘が起こってる。数はそこまででもないし、魔力もそこまで多くないけど」
ふむ、戦闘か。
ここはまだ国境を越えたばかりのところだ。
ここで交戦したということは、偶然敵に出会ったというより、陣を敷いていたと考える方が自然だ。
でも陣を敷くかぁ……
変だな。
普通に考えて攻めるより守る方が簡単だ。
ここで戦闘をするということは向こうにこちらに勝つ自信があるということの証左だ。
正直言って、この戦争で負けることはないと思っている。
普通に戦えばこちらが勝つはずだ。
出原が裏切ればどうなるかわからないが、そうなる確率は限りなく低い。
聞いたところ、向こうの勇者は出原と同レベルらしい。
だったら負けないはずだ。
どういうことだ?
僕らの存在を知らない?
それともこの戦力差を覆す何かがある?
おそらく勇者の数自体は向こうの方が多いが……原獣種の奴らなら10対1でもなんとかなると思っている。
それにテスカの存在。
これのことも知らないのか?
ますます疑問が膨らむ。
エルリア王国を攻めた時はあんなにも入念に準備して最短で王都を陥落させて何人もの勇者を葬ったのに。
情報収集が甘すぎやしないか?
いくら何でも甘すぎる。
ここまで甘かったら今回の負けはますます確実だぞ?
元々勝機は薄いけど、もっと薄くなるぞ?
敵の考えが読めない。
わざと負けてからの奇襲とか?
そんなことも考えたが、スキルやステータス値という明確な力量差が示されるこの世界で奇襲で覆せるものは高が知れている。
何が目的なんだ?
調べてみたが、奏は嘘をついてない。
だから向こうに規格外のヤツがいるはずはない。
「俺だけが行くよ」
奏が名乗り出る。
こちらの戦力を悟られないようにするための配慮だろう。
行くとは言ってもここからスキルを使うだけだから大して時間はかからない。
向こうにも交戦中の味方がいたら手助けする旨は伝えている。
フェルテが出発前に。
「【世界の書】」
お馴染みの分厚い書物が浮かび上がり、手のひらの上で開く。
「我願う 我等が敵に流星の裁きを」
瞬間、100メートルほど上空に浮かぶ一つの太陽。
燦々と燃え上がるそれは勢いよく落下を始め、1秒足らずで着弾する。
轟音をあげてそれは燃える。
爆風は周囲の草木を薙ぎ倒し、大地を大きく削ってクレーターを作り出す。
同時に噴き上がる爆煙。
熱線を撒き散らしながら周囲を包み込んだそれは雲をも強引に押し退けた。
爆風が収まった時、そこに残ったのはポカンとした顔で佇む味方の兵士だけだった。
まあ、ちょっとした疑問の回です。つまり、どう言うことか考えてみてください。しれっと結構大事な回ですよ。後々まで重要な疑問です。