2ー58 仲間
「我願う………名前教えてくれない?君」
どうやらスキルに名前がいるらしく、申し訳なさを滲ませた声で純恋に問う。
「あっ、え?」
対する純恋は困惑を浮かべたまま、教えていいのか、と視線で問いかけてくる。
まあ、ここに来て危害を加えるとは思えないが万が一のため、視線で許可を出した後、魔力を再び全身に巡らせる。
奏は特に気負った様子も不自然な様子も見せずに言葉を紡いだ。
「ん。わかった。……我願う 綾井純恋に奇跡の祝福を」
本の文字に光が灯り、淡い金色の光が漏れ出す。
途端に響く無機質な声。
『奇跡の女神の祝福が感知されました。これより、ステータス上のあらゆる確率が上昇します』
「我願う 綾井純恋に幸運の祝福を」
同じように無機質な機械音声がステータスボードから響く。
その後、真実の女神の祝福もかけたところでひと段落ついたらしく、ドヤ顔で、さも大層な仕事をしてやったとでも言いたげに腕を組んで胸を張っていた。
まあ、実際に大した仕事をしたんだけど。
なんだか顔がウザい。
ウザい顔されたにも関わらず、少しだけ好感度が上がるから不思議だ。
『3柱の神々の祝福を確認しました』
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真実の魔眼
使用中、片目が真実の魔眼に変化し、以下の2つの力が使えるようになる。
嘘をつきやすくなる。
嘘が見抜きやすくなる。
補助スキルレベルが1の時の能力成功率は5%
現在の能力成功率は80%
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4人で一つのボードを覗き込みつつ、感嘆の息を吐く。
「これなら十分でしょ。2、3回やれば確実」
確かに、80%あれば結果にもかなりの信憑性がある。
だが、……
これなら自分を信じられるだろう。
さぁ、やるならさっさとやれ!
とばかりに奴は両手を大きく開く。
姿勢は堂々としているくせして、さっきのスキル行使が辛かったのか、身体をプルプル震わせているのが面白い。
生まれたての馬みたいだ。
「いや、もうしなくてもいいだろ。これで敵ってことはは無いだろ」
口端を持ち上げながらそう言うと
「そうですね。ここは信じましょうか」
珍しく純恋が察して話に乗る。
「姉さんがいいなら賛成」
ダメ押しとばかりに当然の如く賛成の意を示す遥香。
3人が一斉に口を挟む。
ここまで自分に不利な条件をわざわざ揃えて、敵はあり得ない。
ここまでくれば疑う余地もなく、スキルを使ってまで確かめる必要性も感じない。
ーーという建前のもと話すがその実、奏を揶揄っているだけである。
「は!?いや、ちょっと待て!ここまでお膳立てしたんだから一回くらいやってくれよ!」
「安心しろ。もう信頼してる」
「そういうことじゃなくて!」
「どういうこと?」
とは言っても、理由は当然察している。
「………」
だが、あえて空気を読まない。
結局、この後何か奏から言われることはなく、そのまま流れで仲間になった。
別に仲間なんていう括りを作ったつもりはないのだが。
綾井姉妹とも仲間というよりは同じ目的のために一緒に行動しているだけという方が正しい。
本当のことを言えば、帝国に関するあれこれが終わったら一度勇者を強制招集して話し合い、そこでいくつかのグループに分かれて再びグループ行動をする予定だ。
まだ誰にも言ってないので純恋も遥香もこのことは知らない。
フェルテにも言われたが、勇者ははっきり言って過剰戦力なのだ。
理由があって召喚されたものの、本来なら1人しか来ないところが、30人近く来たのだ。
30倍の大戦力である。
通常、1人しか呼ばないということは戦力的には1人で十分だということ。
とどのつまり、明らかな過剰戦力である。
おそらく、勇者全員で団体行動をすることはできないだろう。
理由は簡単。
何故なら、勇者が滞在中の国が周辺国にとっての脅威となるから。
例え勇者がそれを望んだとしても国が認めないだろう。
もし仮に全員一緒に動くならば、その時は勇者が国の援助を一切受けないことを確約した時か、世界全てを敵に回した時だ。
だが、国の援助一切なしに生活するのはかなり苦しいと思われるので現実的ではないし、世界を敵に回す予定も今のところない。
それに、僕の望みはみんなの幸せ。
その過程に『世界』という敵は必要ない。
もし自分たちを貶めようとするならばその時は全力で抵抗するが、生憎戦いは望みじゃない。
僕にとって戦いとは理想を叶えるための道具。
そして過程。
力を持たずして理想郷を作れると言うのならば僕はいつでも力を捨てられる自信がある。
僕にとっての戦いとはその程度のものだ。
おそらく僕は国に今、一緒に行動しているメンバーを解散させるように通達されればすぐに応じるだろう。
ほぼ間違いなく今のメンバーは勇者の中でもトップクラスの戦力保持者。
固まっていることがどれだけ国に影響を与えるのかは考えるまでもない。
……だから変な気を持たないようにしてたつもりだったんだけどなぁ
情は結束を強くする。
しかしその反面、別れを辛くさせる。
どうやら自分は今のメンバーを思っていた以上に好ましく思っていたらしい。
情が判断の邪魔をしている。
つくづく、この情というものは思考の邪魔をする
誰かを大切に思えば思うほど別れが辛くなる。
それがどんな形の『別れ』であれ。
「どうにかしないとな……」
誰にも聞こえないような声で呟き、小さく息を吐き出した。
『辻褄が合わないところが多々ある』と、ある人に言われたんですが、ほとんど第三章で解決させます。
とりあえず、なんかおかしいな〜って思いながら読んでください。