2ー52 祝福
店から出て食事を終え、神殿に来た。
理由はある。
ゼレニグム商会を出た時のこと。
「あの……お客様。衣服のこととは関係ないのですが……一つよろしいでしょうか」
入り口の扉に手をかけたところで一人の店員に呼び止められた。
「なんでしょうか?」
「先ほど入口前の兵士の方が言われてたのですが、皆様は祝福の儀を受けてらっしゃらないのですか?あっ………皆様が勇者だということは聞いております」
配慮して最後の一言を小さく付け足した彼は緊張した面持ちで疑問を述べる。
だが、僕らにはわからない。
「あの、祝福の儀というのは……」
「あっ、あのっ神殿で神々の祝福を賜る儀式なんです。勇者の方だからっ、あのっ、普通の子は10歳の時に神殿で祝福を得るんです。ですから皆さんも受けてみてはどうでしょうか」
「神殿に行けばいいんだな?」
「はい。神官に言えばやってもらえるはずです」
この前行った時にしてくれればよかったのに。
そんなことを思ったが今は戦いの前。
祝福が何かは知らないが受けておいて損はないだろう。
祝福なんて異世界っぽさMaxだし。
回想終了。
それで、神殿に今来ている。
前回と同じように長い階段を登ろうとしたら階段下にいた兵士に呼び止められた。
「何をしているっ。神殿に何の用だっ!」
いきなり剣呑な雰囲気で話しかけられる。
「祝福の儀?を受けたいと思って」
「今はその時期じゃないぞ?今は金が必要になるが、あるのか?」
「いくらなんだ」
「知らん!俺が儀式の部屋まで連れて行く。そこで神官に聞け」
聞いたなら知っとけよ。
階段横の小さな扉をくぐり、まっすぐな通路をそのまま進み、奥にある観音開きの扉の前に立つと兵士が誰かと連絡を取り合った。
直後、扉が開いて礼拝室っぽいところに着く。
兵士はここで待つようにだけ伝えてさっさと来た道を戻って行った。
ホント、どこからどこまで真っ白だ。
かろうじて床に紫の絨毯がつい先ほど僕らが通った扉から一段高い祭壇らしきところまで敷かれているくらいで残りは白。
純白で清潔。
美しく静謐。
そして神々しく幻想的。
よく言えばそう表せるだろう。
まあ、逆に言えば見ているだけで寒くなるほどの寒色で統一されている。
ここまで統一されるといっそ清々しいまである。
後ろから静かな床を擦るような音が聞こえ、誰かが来たのを察知する。
「お久しぶりですね、皆さん。遅くなって申し訳ございません。それから……先日自己紹介し忘れていたものですからここでさせてもらいますね。フレーデン神殿神官長、ユーノです。以後お見知り置きを」
片膝をつき、胸の前で握った右手を包み込むようにして左手を重ねる。
よくわからないが多分、この世界の挨拶なんだろう。
一瞬、会った人全員にこんな面倒な挨拶を?………とバカなことを思ったがそんなわけない。大方、目上の人との初対面の時とかだろう。
僕らにそれをしたのは僕らが勇者だから……か?
この前しなかったのは………挨拶の場面では僕らが勇者って知らずに普通にやって、あとで勇者って気付いたけど挨拶のタイミング逃したって感じかな?
別にどうでもいいが。
「今回は祝福の儀を受けに来ました。お金もちゃんとありますよ」
「準備が早くて助かります。すぐに始めてもよろしいですか?」
僕らが頷いたのを確認してからゆっくり部屋の中心に進み出ると片膝をつき、掌を床に押し当てた。
直後、床に魔法陣が浮かび上がる。
床の絨毯の下から光の線が出ている。
それだけで収まらず、魔法陣はどんどん大きく広がって、最終的に部屋の床全体を埋め尽くす大きさになった。
深く息を吐いたユーノがこちらに来るように、と手招きをする。
僕らが陣に乗ると逆にユーノは陣から外れて詠唱を始めた。
「世界を統べし主神が一角、雷の神ゼノイムラージェよ。その眷属である祝福の神ツェルノヴェーテよ。我らの声を聞きて御身が力を与えたまえ。万物を祝う祝福の光を彼等に」
詠唱の終了と同時に一瞬陣がカッと光を強くし、魔力を吸った。
一拍の間を開けて3人の頭上1メートルほどのところに小さな魔法陣がいきなり現れる。
直後、陣から光が溢れる。
陣から落ちた光の結晶は余すことなく僕らの身体に吸収され、心なしか体温が上がった。
……もしかして部屋が寒色系で統一されてるのって、この時のため?
なんて、場違いな考えが脳裏に浮かんだ。
少しずつ強化です。あ、神様の名前はまだ覚えなくていいです。神様が重要になるのは第3章の中盤からなので。