2ー51 着せ替え人形
「いいよ。着せ替え人形しても」
宣言通りに二人に身を任せる。
「じ、じゃあ、これを……」
なんで顔が赤いんだ。
どこに恥ずかしがる要素がある。
渡されたのは……なんて言うんだろ?
袖が広く、ゆったりとしていて……ああ、あれだ、フェルテが来てたヤツだ。
貴族が着てた袖の広いやつ。
「それからこれも」
マントはいらない。
勘弁してくれ。着せ替え人形になるとはいったけど。
「嫌ならこっちのセットでもいいよ」
嫌な予感しかしない。
難色を示すものの、受け入れられず、そのまま試着室に押し込まれる。
10分後
やっと着替えられた。
こんな衣装初めて着るもんだから着方の正解が分からずに苦労した。
ドアを開くと二人が振り向く。その手には既に別の服が。
ホントに勘弁してくれ。
こちらを向いた二人が驚いたように目を見開く。
黒を基調とした衣服に金色の細かな刺繍がいくつも施されている。
袖は長くゆったり。
ズボンも同じくゆったり。
前は金色のボタンで止められているが、そこまで派手という感じはしない。
肩にはマントがかかっていて、簡単な留め具で固定されている。
いや、どう見ても貴族の衣装だろ。
店の場所が貴族門の前なので貴族が買いにくることもあるのだろう。
……いや、貴族なら家に衣装を持ってこさせるのか?っと言うかオーダーメイドか。
貴族の事情などどうでもいいが、多分これは貴族のやつ。っていうか普通の服と違って、そこら辺に掛けてあるんじゃなくて、専用の場所に一式揃えられている。
どう見ても高級なやつじゃん。
お金大丈夫だよな。
「いや、やっぱこの服はやめとく。着ることないと思うし……」
とりあえず逃げる。
この服で街を歩く勇気はない。
絶対目立つ。
悪目立ちする。
貴族は普通、歩かない。
馬車を使う。
歩くということは貴族じゃないということ。
貴族じゃない奴が貴族の服着て歩いてるってすぐバレる。
絶対面倒なことになる。
だから流石のアイツらも諦めてくれるはず。
そう思った僕がバカだった。
純恋がにっこりと笑って自身のマジックバックに手を突っ込む。
中から出てきたのは一通の手紙。
『いつかパーティーに呼ぶだろうからどこかの商会でパーティーに相応しい衣装を買っておくように』
あのクソ領主っ
いらねぇ、パーティーなんか。
「あとで私たちのドレスも見てもらいますからね?」
小悪魔のような笑みを向けられて、優人は心の中で絶叫した。
***
いくつかの試着を終え、結局は四着目の青基調の黒と金のラインの服を購入した。
あの後は店員の人に着替えを手伝ってもらってやったから速かった。
さすがはベテラン店員、慣れている。
パーティー用の衣装は何着もいらない。
貴族の衣装はそれ一着に決まり、後は普段着を購入する。
が、ここからが問題だった。
曲がりなりにもここは異世界。
それなりに綺麗な衣装となるとどうしても富豪用の衣装になる。
なのだがこれまためんどくさい。
何が面倒かと言えば、着るのに時間がかかる。
それからなんか自分に合わない。
布自体はいいのだが、着たことのない形態の衣装ばかりで着心地が悪く、落ち着かない。
最終的に選んだのは、『布を購入して遥香がスキルで服にする』というもの。
結局これが1番楽だ。
自分は
遥香には面倒をかけるがすぐに戦いだからすぐに作る必要はない。
全部終わった後、作ってもらおう。
遥香も二つ返事で了承してくれた。
最後に二人のドレス。
手紙の中で特に形や色に指定はなかったがあまり派手なのも良くないだろう。
これは店員に別室に連れて行かれ、店員の人に着せ替えをしてもらい、着替えるたびに僕が部屋に入って感想をいうみたいな感じで進んだ。
やっぱり淡い色の方が似合うようでパステルカラーをメインで着せ替えられていた。
それから、やはり待つ時間が苦痛だ。
ドレスは着替えにとにかく時間がかかる。
だが、スキルの研究をするほどでもない。
微妙に足りない時間がいくつもあってだんだん考えるのが面倒になり、途中からはソファーに座りながら木目の数を数えたり、窓から見える葉の数を延々と数えたりと狂気的な遊びに興じていた。
たっぷり1時間かけて選んだのは純恋が薄い水色と黄色のドレス。
遥香が淡い紫パステルカラーのドレス。
デザインは同じで本当に色だけが違う。
純恋のはバルーン状のスカート部分は水色で腕部分とスカートの一部が黄色となっている。全体に金の柔らかな刺繍があり素直に綺麗ーーというより美しいと感じた。
スカートの付け根には黄色の立体の小花の装飾があり、可愛らしさを引き立てた。
「遥香は……純恋と同じだな。うん」
「感想薄すぎだろ……」
仕方がない。
全体的に紫でスカートを飾っているのは黄色の花飾り。
純恋のものと同じように金色の刺繍があるが、遥香の方が同じ刺繍なのにより繊細な印象を与える。
おそらく色合いの関係だろう。
「言えるじゃんか。今度からは初めから……」
「やっぱ取り消しで」
「ウソ、ウソっ!ありがとうございます!」
やっぱり遥香はからかい甲斐がある。
購入手続きを進めながらそんなことを思った。
ちなみにお金はなんとかなった。
ちなみにマントは買ってません。悪目立ちするので。