2ー45 報告
ブクマ、星を何卒!
迷宮から帰ってきた僕らが今いるここは第三都市フレーデン。
街に戻ってくると、早速門番から領主の館に行くように言われて兵士に連れられて屋敷まで来た。
「すまない。待たせたな」
観音開きの扉が開いて領主が入ってくる。
青を基調とした衣装でたくさんの刺繍が刻み込まれた見るからに高価な服だ。
服装からして、ザ・貴族って感じ。
胸の辺りに紫の魔石が嵌め込まれたマントの留め具があり、そこから若葉色のマントが垂れている。
若葉色一色で華美すぎることもない、いい意味で簡素なマントだ。
まあ、簡素とは言ってもこの衣装もマントも装飾も平民価格だと全部、目玉が飛び出るくらい高価なものなんだろうけど。
どっかりと僕らの正面のソファーに座る。
ちょうど僕が机を挟んで向かい合う形だ。
……そういえばこの人の名前なんだっけ?
フェルテ・トレス・イシュタリアである。
「2日振りですかな。一応、もう一度自己紹介しておきましょう。ヴァイスターク王国第三都市フレーデン領主、フェルテ・トレス・イシュタリア。娘のルーナが昨日視察から帰ってきました。娘とは途中で会ったようですが……後でまた改めて挨拶をさせましょう」
「いいですよ。あの時挨拶はしましたし」
「そういうわけにもいかぬ。貴族の体面というかなんというか、面倒なことがあるのだ」
「それなら受けますけど」
「助かる。だが先に情報を伝えようと思っていてな。まず勇者について。周辺国に散らばっている勇者を一旦この都市に集めることになった。どこの国に集めるか問題になったらしい。会議に5日もかかったらしいが、この国の王が一喝したら黙ってくれたらしい。これでもこの国は大陸で2番目に大きいの国だからね」
「勇者を一時的に集めるだけなのに面倒ですね」
「いや、結構な重要案件だぞ?君たち自身が勇者だから実感がないのかもしれないが勇者は他の人間より圧倒的に強い。たった一人だとしても喉から手が出るほど欲しい存在だ」
……確かに召喚直後に騎士団長と渡り合えるくらい強いって異常だもんね。まあ、お互い魔法とかスキルとか使ってなかったけど。
そうは言っても魔法とスキルとではスキルの方が基本的には強いのだ。
互いに魔法とスキルを使って殺りあえば、……まあ、負けたかもしれないけど、少なくとも今なら勝てる。
あの時はサブスキルが弱すぎたから仕方ない。
そんなことを考えてふと思う。
「よく大陸最大の国が許しましたね。国家の最大戦力が此処に集まるなら全力で止めそうですけど」
「本当は止めたかったとは思うが、今回はそれはできなかった。この国やルーンゼイトの方がエルリア王都のエラルシアから近いせいか、そもそも勇者が彼の国まで辿り着かなかったのだ。それに、ここからロルニタ帝国まで大体1週間なのだが、レディプティオ帝国からロルニタ帝国まではどれだけ魔法で距離を飛ばしても1ヶ月かかる。はっきり言って、あの国に集める利点はない」
なるほど、と納得する。
僕らが頷いたのを見てからフェルテはそれに、と言葉を続ける。
「最大ともなるといろんな柵が増えてくるのだ。2位も面倒だが1位はそれ以上だ。国土の大きさが違えば軍事力も経済力も違うからな、どの国も一挙手一投足に警戒する。その気になればあの国はロルニタ帝国のように勇者に頼らずとも、十分国を落とせるくらい強いからな。1位と2位の差が大きすぎるのだ」
まるでお手上げと言わんばかりにフェルテは両手を軽く上げる。
……ロシアとアメリカの国土差みたいなもんか?あれ?2位ってアメリカだったよな?
「………それで……いつごろに集まるんですか?クラスのみんなは」
質問したのは純恋。
僕がどうでもいい国土のあれこれを考えているうちに話を進めてくれた。
こういう時に助かるよね。
いつも僕が一人でダラダラ話を進めているが、別に純恋にも遥香にもこの役は任せられる。
男である自分が矢面に立った方が良いと思っていつも僕主体で色々しているが、彼女らにそのくらいの信用はあるし、それを任せられるくらいの力もあると信じている。
忘れがちだが別に僕は会話は得意ではない。
あんなに大人と喋っておいて何言ってんだって思うかもしれないが、得意ではない。
趣味は読書。
これで何人かは察するだろう。
陰キャ、とまではいかないが基本的に一人でいる方が好きだったりする。
親友は2人。
彼らを除くと、クラスメイト=友達の思考回路の末に生まれた友達しか友達はいない。
結局、僕は会話が好きではないのだ。
逆に、純恋や遥香は会話好き。
立場がクラスーー否、学年のアイドルみたいなだったので友人が多い。
結果否応なしに会話が増えて会話が得意になっている。
だって今まで二人との会話は不自然に途切れたことないよ?
始まりの迷宮の最下層で会って、ほとんど初対面だった時も普通に会話が続いたもん。
***
「明日の予定だ。もしかしたら明後日になるかもしれない。3組に別れて来ている感じだな。調べた限り、全員揃っている」
「何人ですか?」
「15人だ」
ここに来たのは28人だったはずだから、10人死んだか。
国が滅んだにしては生き残った方だ。
……なんか……冷たくなったよなぁ。
まさかクラスメイトの死にこの程度の感情しか抱かないとは。
自分の冷たさにびっくりだ。
戦いの日々の中で感情が薄れてきたのかもしれない。
そんなことよりも。
「よく全員集まりましたね。拒否した人はいなかったんですか?」
「身の安全と生活の保障を伝えると、全員集まった」
……買収してない?
「それから、他の勇者が集まることと、戦争参加を強制しないことも伝えた」
なるほど。
買収じゃなかった。
だったらやるべきことはやはりレベルアップだが、どうすればいいのかさっぱりわからない。
当然だ。
この世界に来たのは数週間前だし、まだまだこの国について知らないことが多すぎる。
ならば協力を仰ぐべき人は決まっていて、3人と1匹で期待に満ちた視線を送る。
視線を受けたフェルテはというと。
「なんだ?私に何か期待してるのか?ふはははは……よく分かってるじゃないか」
そう言ってわざとらしく横柄に頷いた。
お察しの通り、大陸最大はレディプティオ帝国です。
別に忘れても全然問題ありません。次の登場は第3章の中盤なので。