2ー44 【拒絶】
創造スキルの本質。
それは無を有にすること。
材料や素材を一切必要とせず、思うがままにモノを作り出すスキル。
スキルというものは基本的にどれもこれも理不尽なほどに強力なものばかり。
しかし、この【創造】はスキルの中でも一線を画す強さを誇る。
その最大の特徴は創れる物にほとんど制限がないこと。
実際、神器を創った時も古代魔術具を創った時も材料は要らなかった。
なんのリスクも負担もなくあらゆる物を作れた。
しかし。
命となると話は別。
いくら強力な創造スキルといえども命は創れなかった。
故に代償を支払った。
一つ、自分の死後、自分の死体を材料にして創造を行うこと。
一つ、死亡時にスキル・【創造】を失い、今後一切創造系統の魔法及びスキルを使用不能にすること。
一つ、新たに手に入れるスキルは完全なランダムとすること。
一つ、ノアちゃんが一切関与しない全ての記憶を消去すること。
一つ、蘇生後の肉体の寿命の最大値を30年とすること。
一つ、寿命の最大値を自身で延長することはできないこと。
一つ、発動条件を『天野竜聖の死』とすること。
命の代償と思えば少ないとも思えるこの条件。
それでも本来代償など必要としない創造スキルにとっては十分すぎる代償だった。
おそらく復活だけならば自分の死体提供と創造スキルの放棄だけで足りた。
だが、スキル取得の条件が厳しすぎた。
スキルは天獣種以上が基本的に持っている。
幻獣種にも持っている者はいるが、その例は極めて稀だ
とにかく、スキルを持つのは難しすぎるのだ。
《スキルは基本的にスキルの内容に干渉できない》
このルール、みたいなものがある。
勇者にスキルが与えられるのは召喚の魔法陣には『この魔法陣を通った者にスキルを与える』という効果が付与されている。
一見、なんの条件も無いように思えるが、結構な条件がかかっている。
全異世界の中から1人を選ぶのだ。
選定の対象の数は数百兆、数千兆どころでは無い。
数京、数垓ーー否、無限にいると言っても過言ではないだろう。
そんな中から一人選ばれるのだ。
尤も、今回はエルリア王国で20人近く呼ばれているが、基本的には一人だ。
今回のは原因不明の誤作動ではなく、ロルニタ帝国の勝手な勇者召喚のせいで起こった誤作動である。
とどのつまり、召喚には『召喚対象』という点で結構厳しい制限があるのだ。
数垓分の1を引く確率なんてほとんどゼロだ。
そんな条件があるからこそ勇者は召喚に際してスキルを与えられている。
確率論では殆どゼロのものを引くのと同じくらいシビアな条件となると、条件に提示できるのはもう記憶や寿命くらいしかなかった。
結果得られたのは【拒絶】。
名前からして復讐にぴったりのスキルだ。
復讐にこれ以上いいスキルはないかもしれない。
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【拒絶】
対象が持っていて、自分が持っていない物及び状態を拒絶し、無にする。
自分も対象も持っているものを拒絶した場合、自分と対象のものの両方が無くなる。
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「なるほどね、面白いな。自分に無くて相手にある能力を打ち消すって感じか。復讐にちょうどいい」
そう言って薄っぺらい乾いた笑みを浮かべる竜聖。
だったらこれはどうか、と言ってスキルを行使しようとするも、この部屋にスキル阻害の魔法がかかっていることを思い出して中断する。
世界を壊すと言ってもスキルが使えない今の状態で更にこのステータスとなると脱出はかなり難しい。
投獄前のステータスであれば壁でも壊して楽々脱出したのだろうが、今はそうもいかない。
結局、誰かにここから出る手助けをしてもらう必要がある。
「仕方がない、か」
どうにもならないが、別に暇というわけでもない。
忘れがちだが身長こそ青年サイズだが筋肉は赤子レベルである。
歩くのも一苦労な体で戦うというのはいくらスキルがあっても無謀だ。
これからやるのは筋力トレーニング。
夢にまで見た復讐を果たすためには努力は惜しまない。
脱出は難しい。
ここは皆から忘れ去られている秘密の牢獄。
そもそもそれ以前に世界への復讐者を脱出させるバカはそうそういない。
それでも、
自分の勘はこのままで問題ないと告げている。
なら大丈夫だ。
心配することは何もない。
息を吸って言葉を紡ぐ。
誰にも聞こえていないと分かってはいるが。
虚空に向かって歪んだ笑みを放つ。
「せいぜい残りの時間を楽しんでよ。僕がここから出るまでの短い時間を。少ない余命を楽しみなよ」
例え過去の力を失えど。
例え大切なモノを失えど。
僕の真ん中は変わっちゃいない。
やると決めたらやり遂げる。
理由なんて、証拠なんて、そんなものは必要ない。
僕ができると言ったら出来るんだ。
だって僕は、天才だから。