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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第一章 ようこそ、異世界へ
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1ー5 規格外か、出来損ないか

 翌朝、優人を迎えに来たのは、王の側近を名乗る青年だった。

 昨晩の魔力行使による頭痛が、まだこめかみの奥で鈍く脈打っている。

 優人は込み上げる吐き気を噛み殺しながら、長い白亜の回廊を歩いた。


 その道中も、優人は怪しまれない程度に視線を動かし、道順や景色の把握に勤しんでいた。


 ……それにしても誰ともすれ違わないな。こんな大きい城なのに、使用人とかは少ないのか?


 すれ違う兵士もいない。

 案内されたのは謁見の間ではなく、人目を避けるような奥まった小広間だった。

 その事実に、優人の警戒レベルが跳ね上がる。


「入れ」


 部屋に通されると、そこには異様とも言える光景があった。

 簡素な椅子にふんぞり返る肥満体の男。

 そして、それを見下ろすように立つ白衣の研究者たち。

 最奥には、昨日の国王も控えている。


 彼らの風貌を観察していると、突然後ろから強引に膝をつかされた。

 そして片膝をついた礼をさせられる。

 勢いよく膝をついたせいで、膝のさらに鈍い痛みが走った。

 罪人を扱うかのような粗暴なやり方に、沸々と怒りが湧いた。


 ……どういうつもりだ……?勇者の反感買って困るのはお前らじゃないのか!?


「よく来たな、勇者よ」


 肥満体の男が、値踏みするような粘ついた視線を優人に向けた。

 指には悪趣味なほど巨大な宝石のついた指輪がいくつも光っている。


「……おはようございます。お呼びでしょうか」


 優人は怒りを悟られないよう、平静を装って無難な返事をした。


「ふん、最低限の礼儀は知っているようだな。エルリア王国侯爵家当主、ゲオルク・トレス・エノーである。これより貴様のスキルを詳しく鑑定する」


 なるほど、スキル判定の時に言っていたのはこれのことか。

 それにしても、こんな奥まった部屋で、国の重鎮が集まってやるってことは、相当な機密事項なのか?


「貴様はそこでじっとしていればよい」


 そう言ってゲオルクは、どこからか取り出した杖を振った。

 先端から小さい光の粒が飛び出し、扉の外へ出て行った。

 一瞬置いて扉が開き、スキル鑑定の魔術具にそっくりな見た目の、しかしそれよりもサイズの大きい魔術具を使用人の男が持ってきた。


 ……ゲオルクもスキル持ちなのか。光を使って伝言できるスキルか?


 思考を巡らせている間に準備は進み、優人は粗末な椅子に座らされて、病院にありそうな不思議な機械を全身につけられた。


 確か【進化】は新発見スキルだ、って言ってたな。

 だから調査か。

 まるで何かの生体実験に駆り出されてるみたいだな。


 ……逃げたら叛逆とか言われるんだろうからどうしようもないけど、本当に調査なのか心配になってくるな。



 暫くすると、機械を設置し終えたようで、研究者の人たちが少し距離を取った。


「ステータスと言え」


 ゲオルクの指示に従い、優人は呪文を唱えた。

 直後、半透明のプレートが目の前に展開される。


 しかし、それは昨日見たものとは異なる見た目をしていた。


「なっ……」


 ついつい声を上げてしまう。

 案の定、周りから厳しい視線が飛んでくる。

 その過剰とも言える反応に、優人は白けた目でため息を吐いた。



 展開された知らないボードを見ても、貴族の面々の顔に驚きはなかった。

 よくわからずに首を傾げると、こちらを小馬鹿にしたような深いため息を吐き出した白衣の男が教えてくれる。


「これは詳細鑑定の魔術具です。無知な貴方あなたは知らないかもしれませんが、ただのステータスボードではわからない詳細な情報を教えてくれる魔術具です」


 ……知るわけねぇだろ。最初からそう説明しやがれ。


「そして貴方のスキルは……」


 そう言いながら視線を機械に戻した彼の表情が凍りついた。


 その反応に疑問を抱き、優人は改めてステータスボードを見た。


「何だ……これは……?」


 その反応の理由は容易にわかった。

 ステータスボードの文字は大部分が黒塗りの何かに隠され、ほとんどの情報が読み取れない状況にあったのだ。

 それだけではなく、ボードに浮かんでいる黒塗りは蠢いていた。

 黒塗り同士が結合と反発を繰り返し、無秩序で、意味のない何かを描いていた。


 焦りを隠すこともせず、研究者の男がゲオルクに何かを耳打ちした。

 するとゲオルクの表情が険しくなり、王の耳元に近づいた。


 ……失敗か?魔術具も失敗は起こるのか。やっぱり魔力は電気と同じようなものって認識で良さそうだな。魔術具は電化製品で、人間が発電機そのものみたいな感じかな。


 貴族連中の動揺を横目に、優人は推測を立てる。

 思考が結論に行き着いたところで視線を貴族連中に戻すが、彼らはまだ話し合いをしていた。

 その様子に違和感を覚える。


 ……何だ?対応が嫌に遅いな。もしかして魔術具の誤作動は稀なのか?それとも複雑な故障とかが起こったのかな。


 その時、話し合いが終わったようで、研究者の男が優人に近づいた。

 その視線に今までの蔑むような様子は欠片もなく、不気味なほどの笑みが浮かんでいた。


「優人様、貴方は選ばれし勇者です。何と、【進化】は最上位スキルに分類される、大いなる力を持ったスキルのようです。我々は貴方が王国の繁栄に寄与し、導いてくださると信じております」


 何だこの胡散臭い三下は。

 僕に力があると知るや否やすり寄るってどういう神経してんだよ。


 ……おそらく【進化】が最上位スキルだったから、魔術具が異変を起こしたんだろう。ということは先ほどの話し合いはどうやって僕を国に留めるかを相談してたんだろうな。


「そうですか。喜ばしいですね」


 そう答える優人の表情は冷たい。


「ええ、ええ。ですから、国民に知らせましょう。この地で最上位スキルの持ち主が現れたことを!」

「いえ、必要ありません」


 今の反応を見る限り、おそらく貴族連中は自分がこの国に愛想を尽かして他国に逃げることを恐れてる。

 だったら、多少のわがままは認められるはず。

 そう考えての発言。


「知らせないでください。もちろん他のクラスメイト……いや、勇者のみんなにも」


 スキルの格差は力の差。

 いずれ勇者間での待遇の差に繋がるだろう。

 少なくとも、今の段階で最上位ということを知らせて火種を作る必要はない。


「それから、もしこれを機に僕だけ待遇を変えようとお考えなら、おやめ下さい。他のみんなと同じ待遇で十分です」


 研究者の男は呆気に取られ、国王の方を仰ぎ見る。

 国王がゆっくりと頷いた。


「畏まりました。ではそのようにいたします」


 

傲慢で嫌味な貴族ばかりではありません。

この国にも善良な貴族はいます。

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