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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
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2ー42 ラツィエルの話

「先ほどぶりですね優人、純恋、遥香」



 僕らは今、迷宮地下のラツィエルの神殿にいる。


 脳内音声に従ってフラフラと地下に行ったらなんとラツィエルが人化していたのだ。



 まあ、元々精霊っぽい雰囲気だったし、神秘を司る者?だったっけ?そんな自己紹介してたんだから神秘の力みたいなので人化できてもおかしくはない。


 それにずっと脳内音声聞かされるのも疲れるし。



 ラツィエルは今、神殿奥の玉座にゆったりと腰掛けていて、うっすらと開けた瞳で見下ろしていた。


 肌は雪のように真っ白。

 細かな刺繍の入った黄色……と言うより金色のドレスを着用しているが、派手という印象はなく、むしろお淑やかというイメージがピッタリと重なる。

 そして、全身から淡い光が漏れ出している。


 真っ白な顔に表情はなく、ただただ金色の瞳が僕らを映しだしていた。



 玉座の横にはこれまた純白の杖がふわふわと浮かんでいる。

 先端には金色の魔石が付いていて、6本の鉤爪型の装飾が魔石をガッチリと固定していて、柄の部分を光の波のような魔力の波動が脈打っていた。





 音もなくラツィエルは立ち上がる。


 ゆっくりと前に進むと、玉座前の小階段を少し足を地から離して、滑らかに降る。

 その背後を杖が追随する。







 彼我の距離がおよそ3メートルとなったところで歩が止まる。


「改めて、わたくしはラツィエル。光の女神ミディエラティオルが眷属神の第3神、神秘の女神」


 そう言って静かに腰を曲げて礼をした。

 所作のひとつひとつが美しく、思わず見惚れてしまうような動きだ。

 金のドレスが体の動きに合わせてサラサラ揺れる。

 そのドレスの動きさえも神秘的なものに見えた。



……は?神秘の女神?どゆこと?光の女神の眷属神?


しかし、それ以上の困惑が直後に襲いかかる。


「意味がわからないという顔をしていますね。……もう一度言いますね。光の女神ミディエラティオルが眷属神の第3神、神秘の女神です。……とはいえ、呪いのせいで力が衰えているので今はそれほど大きな力はありませんが」



 そうはいうが、弱いわけではない。

 見た感じ、魔力量は()()()()()テスカの100倍はあるだろう。



実際は100倍どころか1000倍くらいあるかもしれない。


 とにかく全てが規格外。

 神を名乗るだけあって力の基準が僕らとズレてる感じがする。

 普通は天獣種の100倍以上の力を持って、弱体化したとは言わない。



「『弱体化したとは言わない』とか考えているようですけど、神ともなると普通の眷属神は今の(わたくし)の10倍は強いですね。これでもミディエラティオルの眷属神第3位です。その私が自分より下位の眷属神より圧倒的に弱いんです。今の私は結構な弱体化状態ですよ。聖獣や世界獣なら今なら私を倒せるかもしれません。………それに私に呪いをかけてここに閉じ込めたのは過去の勇者ですからね。私も無敵ではありません。たとえそれが全盛期でも」


「え!?は?………思考が……」


「読めますよ。よっぽどのことがない限り。弱くなった今でも」


……はぁ。


 その言葉を聞いて心の中で盛大な溜息を吐き出す。

 ここまで力の差を見せつけられて、さらに思考まで読まれると〔ラツィエル=神〕の式に疑う要素はもうほとんど残っていない。


「今更態度を変える必要はありませんよ。土下座とかは無意味ですし、してほしいとは思いません」


 ほら、またよまれた。

 抵抗も、誤魔化しも、何もかも無駄だと悟り、もう一度、今度はラツィエルに聞こえるように溜息をこぼす。



「…………………………ここに呼んだのはこの前と同じく、解呪のためですか?」


 しばしの沈黙。

 ーーからの本題に入る。



「そうですね。スキルは神にも有効です。そもそも呪いがスキルによって付けられているので対抗するにはスキルの力が必要です。本来なら私たちが持つ【神能】によってスキルは弾かれるのですけど、あの勇者のスキルが殊更強力だったので弾くことができずに呪いを受けてしまいまして。基本的に、スキルに対抗できるのはスキルだけですからね、都合よく来た浄化のスキル持ちの純恋の力を借りることにしたわけです」


「……私は協力を拒むつもりはありませんけど、呪いは神の力でどうにかならないものなんですか?」


「度合いによる、としか言えませんね。実際、今も十分力を行使しています。力を行使しているのでまだ生きながらえているんです。神能がなければ呪いを受けた時点で死んでますよ」


「だったら手助けします」


「それはありがたいですね。さっきより力が強くなったようですから今回の浄化で大半の呪いが解けるかもしれません。…………では早速頼めますか?」


「はい。……【浄化】」


 スキルの行使と共にラツィエルの純白の肌から黒い霧が溢れ、浄化の光と鬩ぎ合う。

 徐々に黒が押され、それに伴って女神の体から放たれる光が一段と強くなる。



 杖の魔石から光が溢れる。

 その光景をじっと見ていた女神が一瞬表情を驚愕で染め上げ、その後嬉しそうに微笑んだ。



 杖を掴む。

 そして、少し杖を持ち上げると軽く地面を叩く。




 魔石から溢れていた光が線となって記号を描き、円を描き、魔法陣を作り上げた。

 刹那、陣が消えると今度はラツィエルの頭上に現れる。



 陣は一瞬強く輝くと光の粒を周囲にばら撒き、やがてラツィエルの全身を包み込んで彼女の姿が見えなくなる。

 すでに純恋の浄化は止まっており、その荘厳な光景に見惚れていた。





 やがて光の雨が止む。

 その中から出てきたのは白かった肌を健康的な肌色に変え、溢れんばかりの神々しさをその身に留めたラツィエルだった。


 背中には光の後輪、手には金の魔石のはまった豪奢な杖。

 肩からは白の長いローブが垂れており、ずるずると床で引きずられている。

 だらしなく床を擦っているにもかかわらず、その引きずられたローブですら美しく感じるから不思議だ。




 ラツィエルが一歩前に進み、距離を詰める。


 そしてしばしの沈黙の後、口を開く。


「私は女神です。軽々しく頭を下げるわけにはいきません。ですが、今回だけは頭を下げさせてもらいます。ありがとう存じます」


 そう言いながらドレスの裾を小さく摘んで優雅に礼をするラツィエル。


「もう少しかかるかと思っていましたが、今回で完全に浄化はできたようです。皆様に感謝を。……(わたくし)は神秘の女神です。頼みがあれば、私一人にできることならば叶えますよ?」


 それを聞いて遥香と僕が揃って純恋に視線を送る。


「梶原君が決めてしまっても……」


「いや、今回は純恋が決めて。ほとんど純恋の功績だから」


「えぇ〜……だったら……私たちが困った時まで願い事を取っておいてもいいんですか?」


「構いませんよ。わたくしたち神は貴方がたとは時間の感覚が違いますからね。人間の一生なんて一瞬です。私にとってはいつ来ても同じですよ」


「だったらまた今度この願いは使わせてもらいます」


 それから、とラツィエルが言葉を続ける。


「貴方はロルニタ帝国を攻めようとしているようですけど、油断しないほうがいいですよ。これは助言です。………ではわたくしはこれで。ご機嫌よう」



 ラツィエルローブを翻して階段を登り、玉座につく。

 僕らの前に未だ浮いていた杖が彼女の手元に帰還し、それを手に持った彼女が軽く床を叩く。



 次の瞬間、僕らは迷宮の入り口にいた。


ラツィエルが受けたのは呪詞詠唱ができれば神でも即死の呪いです。ラツィエルは神秘の権能で運良く助かっただけです。

神能が即死を常時弾いているわけですから、ラツィエルもかなり消耗しています。


純恋のスキルはまだそこまで強くありません。浄化が完了したのは呪いが劣化していたからです。


次回、視点が変わります。

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