2ー39 敗北経験
「ーーって感じでテスカが仲間になった。2人とも仲良くしてやってくれ」
「はぁ!?おかしいだろ!なんだよコイツ。こんなレベルのヤツが仲間になるなんて聞いてねぇよ!」
当たり前だ。
僕だって聞いてない。
僕の人生予定に天獣種の仲間は存在しなかった。
「でも仕方ないじゃん。ちっちゃいし、可愛いし、強いし。テイムしない選択肢なんてないでしょ」
「でもさ……」
「私はいいですよ?歓迎します!こんなに可愛いんですよ!」
そう言ってテスカを抱きかかえて撫で回す純恋。
面白い一面が見れた。
目の保養になる。
「ああ……もういいよ私も賛成。歓迎するから。テイムしたってことは私らが攻撃されたりはしないんだろ?」
「しない、はず。……テスカここにいる3人には攻撃するなよ」
キャウン、と可愛らしい声が返ってきた。
了承か拒絶か判断できない返事だが、きっと了承だろう。
この声で拒絶ならもう誰の心も信じれない。
「梶原。おい、梶原」
遥香がこちらを指さして名前を呼んでいる。
なんだと思い、指の先を見ると僕の靴を叩きながら右手……右前足?を上げるテスカの姿が。
「お手をすればいいんじゃないんですか?」
そういうこと?
なんで?
とりあえず言われた通りにお手をする。
手が触れた瞬間、テスカから魔力が流れてきて、同時に僕からも流してないのに魔力が流れる。
おそらくスキルで僕の魔力を操ってるんだろう。
……っていうか、人の魔力も操れるってやばくないか?
魔力を通わせること5秒。
何かが繋がる感覚がした。
『初めまして主様。私がテスカなのだ。よろしくなのである』
「へっ?はっ?……ああ、念話か」
「順応早すぎだろ」
自分でもびっくりだよ。でも一回ここの地下であったじゃん、そんなこと。
「2人も聞こえるのか?」
「いや、聞こえない」
どうやら聞こえたのは僕だけらしい。
テスカに3人とも念話を繋いでもらって、改めてもう一度。
『初めまして主様。私がテスカなのだ。よろしくなのである』
「あのさ、いくつか質問いいか?」
まず声を上げたのは遥香。
念話は頭に伝えたいことを思い浮かべて頭の中で話せば伝わる。
『いいのである』
「なんでお前がここにいたんだ?前はドラゴンがいたのにさ」
聞いたことによると、迷宮のボスが交代することなどない。
なのに今日はエラティディアではなくテスカだ。
『本当のボスは私なのである。なのに、昔ここにきた人が無理やり新しいボスを設定したのである。迷宮?というのであるか?ここは。ここができてすぐ、まだボスの私が迷宮?の魔力で生まれてない時、ここにきた者が地下に光る何かを置いて、最終層ののこの部屋に別のボスを置いたのである。それでこの前、そのボスが死んだので本当のボスの私が配置され直したのである。迷宮の魔力がそのボスの力に使われたので私が成長しなくて、今もボスなのに幼体のままなのである。分かったであるか?』
一応理解した。テスカの言う光何かというのはラツィエルのことだろう。
正しいかは分からないが、聞けばわかるだろう。
……後で会いに行こうかな?
「その口調はなんなんだ」
『口調であるか?何かおかしいであるか?』
「いや、まあいいけど。なんでそんな口調になったのかなって」
『気付いたらこんな口調になってたんであるよ』
なるほど。
意味が分からない。
***
僕らのことについて伝える。
勇者であること。
国が滅ぼされたこと。
帝国を攻める準備をしていること。
レベルアップのためにここにきていること。
『レベルアップに戦いが必要なら私と戦えばいいのではないか?今は私の方が強いのだから力になれると思うであるよ?ちゃんと加減もするであるよ?』
その言葉でここからの行動が決まった。
50階層のボス部屋で向き合っているのは3人と1頭。
今回の戦いは純恋と遥香も参加する。
今回の戦いを経験させるのはいい体験になると思ったのと、圧倒的強者との戦いで一気にレベルアップできると思ったから。
ついでに、さらっと流したが、テスカをテイムしたことで僕が幻獣種にランクアップした。
ステータスもいくらか上がったのでどのくらい天獣種に通用するのか試したかったというわけだ。
幻獣種下位が天獣種中位に勝てるとは思ってないし、そんなおめでたい頭ではないのだが、はっきり言って僕が完全に負けたのはスキルなしの城でのジェラルドとの戦いくらいだ。
正直にいうと、国を出てからまだ負けたことがない。
だから今負けて失敗ーーというより敗北を経験するのもアリなのかなと思ったということ。
実戦での敗北の経験は貴重だ。
多くの場合、こういう冒険者業をしている人は敗北が死に直接繋がる。
敗北したのに生き残っている人は本当に少ない。
成功という奇跡をなん度も積み重ね、さらに失敗をして、その上で生き残った結果生まれるのが成功者なのだ。
さっきから奇跡だ貴重だあーだこーだと言っているが、いずれ僕らも同じように失敗を経験してさらに強くならないといけないのだ。
国を攻める以上、失敗は許されない。
奇跡がどうとか言ってられない。
それに、だ。
負けることで一度落ち着こうとも思っている。
レベルアップをやめるわけではない。
慎重な行動を心がけようということだ。
3人ともいくつかの補助スキルと称号を手に入れ、武器も手に入れた。
さらに大幅なレベルアップと戦闘の連続で一気に強くなったことで悪い意味で余裕ができた。
いや、できすぎた。
努力を否定するようなのであまり言いたくないし、自分自身、そう思いたくもないが、少し傲慢……というか自信が過剰についている気がする。
もちろん実力もそれなりに向上している。
それから自信も必要ではある。
だが、それ以上に自信の大きさが、いざとなった時に行動を阻害しかねないと思ったのである。
自信はあくまで戦闘中の気持ちを高め、より良いコンディションで戦うための補助。
最も大切なのは自身の行動力と実力なのだ。
少なくとも僕はそう思う。
「だから、僕らを死なない程度に本気で戦ってくんない?」
『了解したのである!』
こうして地獄が始まった。
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