2ー38 テスカ
ここからは僕の出番。
というより僕のためのレベルアップの時間。
「領域構築・虚々籠霄」
巨大な結界を作る。この結界の役目は発動した術式が迷宮を不必要に壊さないようにすること。
【宙の共鳴】を使えば否応なしに周囲の地形は破壊される。
自分の術式のせいで崩れ落ちた土砂で窒息など笑えない。
発動から約5秒、縁から順に出来上がっていた結界が完成する。
形は円柱。
49階層までのボス部屋の空間を結合し、大きな円柱の結界内に閉じ込める。
固形大気で足場を作り、2人を上の方に残すと、数十体のボスが混在した地獄へと身を投げる。
下の方でキラキラと敵の魔法が光るのを見てからモノリスを展開。
左右に石柱ができたのを確認してから重力に身を任せながら、自分の攻撃の準備も進める。
「宙の共鳴・6層」
モノリスの前に作られる6の光球。
それらは形成が終わると同時に一斉に飛び出し、奥で待つ魔物に向かって飛ぶ。
こちらに向かって飛んでくる魔法は多くが宙の共鳴によってかき消され、うまくすり抜けたものもモノリスによって起動を変えられ、宙の共鳴の後を追って、こちらの攻撃に加わる。
光球が地につく。
同時に響く轟音。
空気が振動し結界が揺れる。
下で真っ赤な血が舞うのが見える。
結果は一瞬で現れる。
僕が地面についた時、生物の姿はなかった。
あるのは地面に散らばる肉片と体内から弾き出された魔石、それから数々のドロップアイテム。
ただ、それだけだった。
純恋と遥香を下に転移させ、周囲に散らばるものを一緒に回収する。
下には大きな血の池ーーというより湖みたいな酷い状態だったのであまり見せたくなかったのだが、そうは言ってもこの量の物を1人で回収できるはずもなく、結局頼むことになった。
「優人くんてこんなに強かったんですね……分かっているつもりだったんですけどね……。強さが段違いです。やっぱり強い人が近くにいると安心ですね」
「私らがあんなに時間かかって一体倒してたのにそれを何十体も一気に倒すんだもんな。そりゃあそこまで強くなれるわな」
「まあね。……でもすぐに2人にもあのくらい強くなってもらうから」
「無茶苦茶だっ!?」
日本にいた時、人間付き合いはそこまで好きではなかった。
でも今はこんな時間を気に入っていた。
『早く終われ』ではなく『いつまでも続いてほしい』とまで思っている。
……人付き合いを好きになることなんてないと思ってたんだけどな。
今や、彼女らが心の支えの一部になっていることには気付いてる。
依存すればするほど離れた時のショックが大きいのは身をもって知っている。
それも2度も。
そうと頭では分かっていても離れたいと思うことはなかった。
……成長というか退化というか……変わったな。良くも悪くも。前に進めたことを喜べばいいのか、教訓を活かせてないことを嘆けばいいのか。
「優人くん?また難しい顔になってますよ?」
「何かあるなら相談しろ。そんな顔をされてると気分悪くなる」
2人が心配している。
わかりやすく顔を顰めてこちらを見ている遥香だが、彼女も自分を心配していることが声色でわかる。
「すまん。気をつける。……大変になったら相談させてもらう」
「しっかりしてくださいよ?次は……エラティディア?でしたっけ?強いボスですよ」
「大丈夫。勝つから」
そんな感じで道中の敵を軽くボコして今いるのはボス部屋の中。
2人は入口の外で待機してもらっていて、部屋にいるには僕と魔物の2体のみ。
なのに僕の頭は困惑があった。
中にいたのはエラティディアではなかった。
ホワイトタイガー………というよりサーベルタイガー?
長い牙付きのホワイトタイガー?
……サーベルホワイトタイガー?
例えるなら………ん〜……『クラッ◯ュ・オブ・◯ラン』のフ◯スティ?
このキャラが通じる人が一体どれだけいるのかわからないが、子犬サイズのサーベルタイガーがそこにいた。
魔物で、しかもボスのくせに可愛い。
おそらく幼獣。
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《ステータス》
【テスカ】(幼獣)
種族 天獣種
LV382
HP:74539
MP:316480
攻撃:117145
防御:172429
体力:193865
速度:56539
知力:21
精神:85
幸運:105
スキル…エネルギー操作
種族特性
結界無効
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馬鹿げたステータス。
『天獣種』の三文字。
そして幼獣という表記。
それから、
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《テイム可能》
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この5文字
テスカは初めにいた位置からまだ動いていない。
クゥンと寂しさの混じった鳴き声が響いた。
……エラティディアじゃない!?なんだ魔物は
サイズは子犬。
多分、どこかの宿の庭を闊歩していても気づかないだろう。
魔力は莫大。
そこらの人とは比べ物にならない量の魔力を持っている。
僕ですら比べ物にならないならない、どころか比べるという行為すら烏滸がましく感じるほどの圧倒的な隔たり。
なのに庭にいても気付かない。
それほどまでに完璧な魔力の隠蔽。
一度バトルになれば1秒も持ち堪えられないだろう圧倒的力。
その魔物がテイムの対象になっている。
純恋&遥香を呼ぼうとして、やめる。
ここでこいつを刺激するのは良くない。
戦いになったら絶対負ける。
そもそも、だ。
テイムができるんだからテイムすればいい。
というよりそれしか選択肢がない。
「……てっ、テイムっ!!」
瞬間、僕らを中心に風がーー否、大量の魔力が吹き荒れる。
周囲が魔力で満たされて酔ったような感覚になる。
約10後、魔力の風は止み、真ん中には全身に黒い魔力を纏った小さなサーベルタイガーがいた。
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《ステータス》
【梶原 優人】
種族 幻獣種
LV21
HP:18361
MP:179278
攻撃:14203
防御:16329
体力:22134
速度:12183
知力:162
精神:18017
幸運:78
スキル……進化【宙】
補助スキル
格上耐性
領域構築補助
自己治癒強化
称号
星神の加護 狂戦士 不屈の精神 反逆者 復讐者 殲滅魔法の使い手 世界の作り手 ボスをボコボコ
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