2ー34 迷宮に行こう
「だけど、あそこに行ってもお前はやることあんのか?あれだけレベルが高かったらやることが無くないか?」
「いや?そうでもないぞ?僕でもあそこのボスのエラティディアよりもまだ弱いし、インフェルノの試運転も見てみたいし、新しい技の開発もしたいし……それに多分、あそこより難しい迷宮ってあんまり無いぞ?多分」
実際のところ、全然ある。
古都エラルシア周辺の迷宮、と枠を設ければあの迷宮が一番難易度が高いが、大陸全体で見るとそうでもない。
あそこよりも難易度の高い迷宮はこのヴァイスターク王国にもある。
そしてエルリア王国にも普通にある。
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基本的に迷宮は横穴で、横長の階層がいくつも積み重なって縦に長い構造物が出来上がっている。
一つの階層に一体の階層ボスがいて、ボスを倒すとボス部屋の奥にある次の階層への扉が開き、その奥に下への階段が現れる。
そして次の階層にも同じように魔物がいて、その奥にボスがいる。
あくまで一般的な例であって、全てがそうではないのだが、多くの迷宮がこうなっている。
迷宮の形は一種類では無い。
一般的な迷宮は通常の魔物がいるスペースがあり、奥にボス部屋があってそこにボスがいる。
しかし、稀に階層そのものがボス部屋で次の階層に進んだ瞬間ボス戦が始まる迷宮も数は少ないが、それでも一定数存在する。
階層全体がボス部屋の階では、一般の魔物もいて、それらに混ざってボスも階層全体を闊歩している。
このような階の場合、ボスの多くが一般の魔物と同じサイズだったり、変身や隠蔽スキルでステータスや見た目を偽っている。
そのため、常に周囲に気を配り、敵の気配や立ち回り、視線やわずかな動作から相手の力量をはかることができることが攻略の前提になっている。
つまり、僕たちにはまだまだ早いということ。
敵のボスがスキルを使っているという時点でボスは天獣種、または神獣種。
超絶ラッキーで、幻獣種LV800くらい。
奴らはいくら勇者といえどなかなか勝てない化け物たちだ。
運で、奇跡で、偶然で勝てるかもしれないというのは、彼らに対しては考えるだけども烏滸がましい。
そもそもの話、上位2種に関しては、ボスの居場所云々ではなく戦力の問題で人間の負けが大体ーー9割確定している。
そんな化け物との戦闘において運の要素など1%以下。
奇跡を起こすようなスキルでもない限り、実力がすべての殺し合いである。
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さっき言った通り、迷宮は階層ごとにボスが一体いる。
深層になってくるとまた違ってくるのだが、50層くらいだとこれは全迷宮共通。
少なくとも今までに見つかっている迷宮では共通。
そのため、冒険者たちは下の階層を目指して日々、ボス戦に身を投じていたのだが、
ここで不都合が起きた。
いくら冒険者といえど所詮は人間。
いくらアイテムボックスとかマジックバックみたいな便利グッズが生まれたとしても所詮は人間の道具、限度がある。
それまでの人間の迷宮攻略では休養の圧倒的不足という限度があった。
国はこの事実を重く受け止め、結果、術式が面倒で複雑、その上製作に大量の魔力が必要な転移陣を浅い層には10階層ごと、中層には5階層ごと、幻獣種が登場するあたりからは1階層ごとに設置した。
多量の魔力を使ったその対策は大きな成果を残し、以降、多くの迷宮で転移陣が採用された。
しかし、どうしても多くの場所を繋げる転移陣は魔力量的に無理があった。
結果、最終的にその階層と地上のみを繋ぎ、さらに転移陣横に置かれた登録の魔術具で冒険者カードに登録した転移陣の登録を持つ者だけが使用できるというような制限を作ることで製作に必要な魔力を減らして魔力問題を解決した。
しかし、少なくなったとは言え、数日かけてようやく集まる魔力が必要な転移陣を全員が全員使えるわけではないし、少しでも魔力を節約するために歩く人もいるが、全体的に見ると効率化は図れた。
各局のところ何が言いたいのかというと、
原獣種下位が多い一般の迷宮では僕のレベルアップの役にたつ真獣種以上の魔物と相対するまで長い時間がかかる。
何層もの階層をクリアする必要がある。
実力があるからと言っていきなり転移陣で30層からスタート、みたいなことはさせてくれない……というか陣の設定上できない。
結果、あそこの森の迷宮……これからは始まりの迷宮と名づけようか。あそこでレベルアップした方が効率がいい。
少なくとも、今はあそこの方が都合がいい。
なにしろあそこはすでに全階層攻略しているのでどの階層にでも転移できるので彼女らにとって相性の悪い敵が多い階は飛ばせるのである。
どうでもいいかもしれないが、空間転移の場所の条件は視界にはっきりと映る場所、一定時間以内に通った場所である。
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「ってことで、始まりの迷宮に行こうと思ったんだけど、どう?帝国攻めるんなら今のレベルじゃ圧倒的に足りないと思うし」
「私は優人くんがいいならいいですよ。自分がまだ弱いのは分かってますし」
「私も行く。戦闘向きのスキルじゃないけど、3人の中で自分だけ弱いのはちょっと」
「了解。まあ、元々勇者が揃ったら無理矢理にでも行くつもりだったからね。それがちょっと早まっただけだよ。みんなが集まってから、僕らが圧倒的に強いのを見せて驚かせるのも面白いし」
「行くのは明日からか?」
「そのつもり。明日、僕の転移で一気に行って、すぐに戦うつもりだから知っといて。相性良さげな敵がいるんだ。……ああ、初めは僕も近くで見ておくつもりだから気負わずにいればいいから」
そんな感じで僕らの迷宮行きが確定した。
2人とも相性がいい……共通点は【インフェルノ】……出力が上がり続ける【インフェルノ】……ああ、アイツか。
皆さんが忘れた頃にあいつの再登場です。