2ー23 親友だそうです
ガチャっと音がして鍵があき、扉が開く。
そのままベッドにダイブしたい気持ちを抑えて踏み止まって後ろを振り返る。
2人も相当疲れているようでふらふらとベッドに近づくと僕の横を通りすぎ、そのままダイブした。
ここで問題が一つ。
ベッドが二つしかない。
あのヤロォ、わざと二つベッドの部屋を寄越したな。
やっとあの時のニヤニヤした、不穏な笑みの意味がわかった。
最悪だ……
「取り敢えず、ベッドは2人で使ってくれ。僕は適当に床で寝るから」
万が一の時にはこうしようと考えて準備していた言葉を吐く。
正直、もう寝る場所なんてどうでもいい。
どこで寝ても野宿よりマシだ。
そんなことよりとにかく休みたい。
そんなことを考えていると
「私らが一緒に寝るから梶原は1人でベッド使え」
遥香にそう言われた。
……いや、そう言うならどっちかさっさと片方のベッドに移れよ。
ベッド両方占領しながら言う言葉ではないと思う。
お前はいつからサイコパスになったんだ。
「おい、遥香。さっさと移れよ」
反応なし。
耳を澄ますと2人分の、リズムの良い寝息が聞こえる。
いやまじふざけんな。
退けよ。
「起きろ」
しばらく肩を揺すってみるが、反応はない。
「知らないからな?お前、今さっき純恋が寝てるベッド指さしたよな?知らんぞ?朝起きて喚くなよ?」
どうせ聞こえてないが、警告を口にしておく。
だって朝見つかったらどうせ蹴り飛ばされるだろうから。
「言ったからな?もう知らねえよ?」
そう言ってベッドに入った。
睡魔との戦いの真っ最中に寝る場所について深く考えたことを後になって恨んだ。
***
何かが動く感覚がして目が覚める。
そして、目の前にこちらを見つめている美少女の顔があるのに気がついて、そのまま彼女の腰に腕を回して抱きしめた。
え?え?と困惑した声が聞こえてくるが今の寝ぼけた僕に困惑の声なんて無意味に等しい。
今の僕はまさに無敵だ。
美少女を抱きしめて眠ること数分。
今度は頬をぷにぷにと突かれる感覚がして目が覚めた。目の前の純恋の顔をぼんやり眺めて、
それから緩慢とした動作で今の状況を確認して。
「っーーー!!」
大声を出しそうになって、慌てた純恋に口を塞がれた。
初めて目が覚めてから覚醒するまでおよそ10分。
随分とゆっくりとした速度で覚醒する。
それから、口を塞がれて思考を巡らせる時間ができたため、一旦深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
まあ、深呼吸程度でバクバクとうるさく鳴り続ける鼓動が収まるはずもないのだが。
ゆっくりと昨夜のことを思い出した。
そして、
「責任は遥香にあると思います」
とりあえず責任逃れをやってみた。
「……」
しかし、当然返事は返ってこない。
返ってくるのは困惑の表情のみ。
「何でもないです。ごめんなさい」
それから謝る。
対応を間違えれば一気に首と胴が泣き別れである。
「勝手にさっさと寝た私も悪いので、別にいいんですけど……まだ抱きしめるのやめないんですね」
「当然。偶然、たまたま抱きつける機会なんてなかなか無いしな」
「遥香が起きたらどうするんですか」
「大丈夫。言い訳は考えてある」
『お前がこのベッドで寝ろって言ったんだからな』これで完封する。
「っていうか嫌じゃない?こういうの」
「誰彼構わずするわけではありませんけど、梶原くんにされるのは、少なくとも嫌ではないです」
「好きでもない?」
「……意地悪は嫌いです。それから好きかどうかは人によります」
ちょっと投げやりな感じで赤面しながらそう告げられた。
「なるほど、僕は良かったんだ」
「意地悪は嫌です!もうっ」
小さく笑いが漏れる。
ああ、良かった。
本当に良かった。
「良かった。ビッチじゃなくて」
「ビッチじゃないです!私だって恥ずかしかったんですからね!?っていうか、梶原君が先にやったんじゃないですか!?」
「いやでも結構乗り気で抱きしめ返してきたじゃん」
「それは……」
「梶原ァァァアアアアアアアアアアア!!!!!」
爆音が僕らの蜜月を遮る。
一気に掛け布団が剥ぎ取られ、遥香が登場。
「何だ、起きたのか……もう少しそっとしてくれれば良かっーー」
「貴様ぁああ!姉さんをっ、姉さんに何してんだっ!ふっざけんなぁぁぁあああああ!!!!」
「大丈夫ですよ、遥香。私は何もされていませんから」
……いや、現在進行形でされてるよ。ずっと抱きしめられてるんだもん。
「ね、ね、姉さんコイツに何をされたの!?言ったら私がコイツを倒すから!!」
「う〜ん……大丈夫ですよ?私は梶原……優人くんの…………友達?……親友ですから」
遥香、凍結。
指一本動かなくなった。
まあ、どうでもいいことである。
そんなことより綾井純恋の親友になれるとは。
それから、仮に親友だとしても、恋人間でもやるかわからないようなことをした危険な狼を許すとはなんて優しい人だろうか。
どこかで僕は相当徳を積んだらしい。
クラスメイトから友達を飛び級して親友になった優人であった。
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