2ー21 新たな街
「え〜……そうです。ここから近い街の話でしたわね?……チャーフ」
「かしこまりました、お嬢様。ここから1番近い街はこの道をあちらに進んだ先にあるゲファハーという街ですが、栄えている商業都市であるとともに、おかしな奴らが集まる領地でもあります」
ルーナに名前を呼ばれた老執事・チャーフが説明を始める。
「少し遠いですがここから7日ほどのところにフレーデンという街がありますのでそちらをお勧めいたします。この国の第三都市でとても栄えておりますのであなた方の旅に必要な道具や情報も集まることでしょう」
(なるほど……悪くないな)
「わかりました。ありがとうございます」
返事をすると今度はルーナが前に進み出て言葉を発した。
「先ほどの無礼をお許しください。勇者様が必要とされるものもフレーデンでは集まるでしょう。皆様の力が正しきことに使われ、民の救いとなることをお祈りします。」
は?……何でわかったんだ?誰も勇者だなんて言ってないぞ?
いつバレた?
もしかして勇者だけの特徴があるのか?
内心動揺しまくって、それでも無言はまずいと思って即座に言葉を返す。
「……何故僕らが勇者だと?」
彼女は僕らが勇者だと確信していた。
だったら隠す意味はないだろう。
「申し訳ありませんが、鑑定の魔術具を使わせてもらいました。ですが、街ではこっそり鑑定されることもありますので気をつけた方がよろしいですよ?」
そういうことか。
鑑定の魔術具を使うと瞳に緑の魔法陣が刻まれる。
だから鑑定されたらわかるんだけど、ルーナは翠眼だ。
鑑定の魔術具の光も緑だから同色で気付かなかったんだろう。
(もっと用心しないとな……)
「ご忠告ありがとうございます、ルーナ様。以後、気を付けます。」
「ルーナと呼んでくださいませ」
「では僕たちのことも名前でお呼びください。僕は梶原優人。彼女が……」
「綾井純恋です」
「綾井遥香」
「では、これからはそう呼ばせていただきますね。先ほど言った第三都市フレーデンはわたくしたちが治めている土地です。もしかするといつか会えるかもしれませんね。……わたくしはこれから少し遠くの農村の視察に向かいますのですぐにとはならないかもしれませんが」
彼女は定期的に農村の視察を行っているらしく、庶民寄りの貴族で人気が高いらしい。
チャーフが言っていた。
本当かどうかは知らないけど。
今回も視察で、場合によっては農村を救うために人をさらに派遣したり、お金で工事を進めたりして支援するらしい。
とっても平民から人気のあるお嬢様である。
「ああ、そうなんですか。それではお気をつけください。また会う時を楽しみにしています」
「ええ、皆様こそお気を付けくださいね」
そう言って別れる。
暫くして、馬車が見えなくなっってから空間転移でどんどん道を省略する。
ルーナ(チャーフ)曰く、
「フレーデンは少し遠い街なので7日ほどかかる」
らしいが、ほとんどの距離を飛ばした僕らは半日もかからず、夕方には到着した。
街には閉門時間というのがあるので、もしかしたら今日も野宿かと思ってもいたのだが、どうやら間に合ったらしい。
門には4人の兵士が立っており、入街する人の身分を確認していた。
本来は門番にステータスかギルドカードを見せないといけないらしいが、見せたくないので3人でこっそり転移。
人通りが少ない裏路地に出ると、堂々と表に出て何食わぬ顔で街を歩く。
悪いことをした自覚はあるが、こういう時こそ堂々としている方が実はバレにくかったりする。
向こうの世界でクソガキだった時に覚えたことだ。
まあ、そんなことはどうでもよくて、
「とりあえず宿取りたいんだけど……ぶっちゃけ、今どのくらいお金ある?」
「申し訳ないんですが、銅貨が2枚だけですね」
「私はゼロ」
俺はというと…中銀貨3枚だけだな。残念ながら。
普通の街なら数部屋借りられるんだけど、ここは大都市フレーデン。
とにかく物価が高いのだ。
国境が近いこともあって他国の商人も多くがここへ立ち寄る。だから、珍しいものがたくさんある代わりにとにかく何をするにしてもお金がたくさんいるのだ。
普通の街ならば、古くて貧相な代わりに安い宿的なものもあるんだけど、大都市のここにはない。
「何とか一部屋なら一晩だけ借りれるけど……どうする?」
「私は梶原君が何もしないと信じてるので構いませんけど……」
もっと警戒心をつけろ。
「姉さんがいいなら私もいいけど……姉さんに何かしたらぶっ殺すからね?」
「遥香に何かしたら?」
「ぶっ潰す」
何を?と聞くのはやめておいた。
この辺りからしばらく平和です。