2ー20 次の国へ
僕らは今、困っていることがある。
「街が見つかんねーんだけど……」
「仕方ないですよ。今まで迷宮にいたんですから現在地も方角も近くの街も何もわからなくて当然ですよ」
あれから約半日、僕らは未だに街に辿り着けずにいた。
空間転移で森を一瞬で抜け出すまでは良かったのだが、なぜか未だに街が見つからない。
原因はわかっている。
おそらくこの予測は正しい。
それはついさっきのこと
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《ステータス》
【綾井 遥香】
種族 原獣種
LV122
HP:1283
MP:2441
攻撃:680
防御:722
体力:913
速度:682
知力:186
精神:556
幸運:低すぎるため測定不能
スキル…魔力探知
補助スキル
隠蔽
称号
クソガキ
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「ふっ、ふふっっ……アハ、あははははっ!」
「おいっ笑うなっ!これは私のせいじゃない!だから笑うなぁ!!!」
「クッ…ククッ…フッぶふぅ、ブハッ」
「梶原ぁああああ!」
『低すぎて測定不能』だってよ!そんな数値あんのか。
コイツ面白すぎだろ。
「それに……称号・クソガキってふふっ、あはははははははははははっ」
「っざっけんなよ!これは!お前が!言ったせいだろ!」
みたいなことがあった。
ひどい言いがかりである。
とどのつまり
何が言いたいのかと言うと、十中八九遥香のクソ雑魚幸運値のせいで街が見つかっていない。
「最悪だ……まあ、今更言ってもしょうがないいんだけど……」
残念なことに僕は遥香だけを置き去りにして逃げるほどの冷酷さを持ち合わせていなかった。
何か……とりあえず道でも見つかれば誰かに会えたり、街までつながっている可能性がある。せめて道だけでも……
「梶原〜!でっかい道あったぞ〜」
何でクソ雑魚幸運値が道見つけられてんだよ。
みたいな言葉は口には出さない。
このくらいの空気は読める。
空間探知を駆使して遥香を探すと、純恋にも声をかけてそこに向かう。
丘のてっぺんにいた遥香に追いつくと視線を追って下を見る。
「おぉおおおお……すげぇ。絶対勘違いしてると思ったわ」
「私が道すら見分けられないとでも?」
「いや、幸運t…」
「雑魚じゃないっ!」
まだ何も言ってないのに怒られた。
こんなに早く返答できると言うことは幸運値雑魚の自覚はあるようだ。
***
遥香が見つけた道はきちんと舗装されて馬車でも通れるように整えられた道だった。
「どっちに行けばいいかわからんけど……どっちかに行けば街に着くか!」
「そうですね。迷っても仕方ありませんし」
……まあ、変なところに行ったとしても転移で戻れば済む話だしね。
エルリア王国に戻ったら大変だけど、それ以外ならまあ。
そんなことを考えながら出発した一行だったがそんな心配は必要なかった。
遠くからガタガタと音を立てて馬車……簡素な木製のやつだから貴族じゃないっぽいな。見た感じ商人が乗ってるようだ。
後ろに荷馬車っぽいのがついてきてるから、おそらく間違いではないだろう。
「ちょうどいい。あの人に聞いてみるか」
と言ってから、
「僕らが勇者ってことは一応隠していくことにするよ。あの人が帝国の人だったらまずいことになるかもしれないし」
一応釘を刺しておく。
遥香もそのことは考えていたようですぐに頷く。
「ああ、その可能性もありますね。そんなことまでしっかり考えてるなんてやっぱり梶原君はすごいです!」
しょっちゅう言ってくれる純恋の称賛の声に心がほっこりする優人だった。
「お〜い。すみません僕たちこの辺りを旅してる者なんですけど、道に迷ってしまって。すみませんが、近くの街までの道を教えてくれませんか?」
僕らの前で荷馬車暫く止まる。
が、誰も出てこない。
「お〜い」
もう暫くしてから躊躇いがちにスーツ姿の老人が降りてくる。
(ああ、商談があったのか?それとも今から行くのか?)
老人だが眼光は鋭く、一切口を開くことなく射抜くような視線をこちらに送っている。
「あの〜」
「お爺さん。道を教えてくれませんか?」
「……」
……しまった。認知症の方だったか。
「お爺さん!」
痺れを切らしたようで遥香の口調が雑になる。
それからようやく老人が口を開いた。
「申し訳ありませんが、まず先に皆さんの名前を教えていただけますか?」
「なんでですか?」
それは困る。
本名を名乗ったら勇者とバレる可能性が高い。
だが、偽名なんて考えていない。
今咄嗟にそれっぽいことを言っても後ろの2人が合わせられるかどうか……
睨み合うこと約5秒。
「仕方ありません」
老人が再度口を開き、パチンと指を鳴らす。
いきなり後ろの荷馬車から全身に鎧を着込んだ騎士っぽい人が5人くらい飛び出してくる。
魔法使いっぽい人も先頭の馬車から出てきて杖の先に魔力が集まってパチパチと放電のような音を立てる。
一瞬、頭が真っ白になった。
それから、自分の命が狙われていることに気付いて最高統治者を展開しようとする。
その時、女性の声が響いた。
「武器を下ろしなさい。失礼でしょう」
馬車の中から聞こえる凛とした声。
少女特有の儚さが残る声が響いて老人があからさまに狼狽える。
「で、ですがっ危険な者を近づけるわけには……」
「黙りなさい」
それだけで老人は口を閉じて一歩下がる。
開いた扉から少女が降りてくる。
安っぽい木製馬車から降りてきたドレスの少女。
そのギャップに再び頭が真っ白になる。
(は?は?え?どう言うことだ?何で貴族が出てくるんだ?)
こちらを向いて姿勢を正し、足をそろえた少女はスカートの裾をちょこんと持ち上げると軽く膝を曲げて丁寧にお辞儀する。
その動作は洗練されていて、思わず見惚れてしまうほどだった。
その動作に見惚れていると純恋から刺さるような痛い視線が飛んできた上、足を思い切り踏みつけられた。
何この理不尽?
「初めまして、わたくしはヴァイスターク王国侯爵令嬢、ルーナ・トレス・イシュタリア。以後お見知り置きを。」
そして彼女は名を名乗った。