表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
34/248

2ー19 願い

星を、評価をお願いします!

何卒(なにとぞ)!!


「願いを叶える」


 はっきりと宣言する。




 こういう時、まごついて返答を遅らせるのはダメだ。

 返答の速さや言葉の力強さに意思の強さが現れる。


 こういう時にはっきりと即答できるヤツは信頼したり、頼ったりできる。

 逆に、曖昧な言葉を選んだり、長々と喋って答えを遅らせるやつはコロっと意見を翻すことがある。



 まあこれは自論なんだけど。




 そんなことを考えて簡潔に返事を返す。


 返事をした瞬間、儚げな雰囲気は霧散し、今は喜色が滲み出ている。

 祠の豪奢(ごうしゃ)な虹の細工は彼女ーー脳に響く声から判断したーーの気持ちを反映しているのか、より一層強く光を発し、清い透明な水が大きく跳ねた。






 願いというのはおそらく封印についてのことだろう。

 おそらく、というか、十中八九それについてだろう。

 さっきの話の中に呪いとかの話があったから、もしかしたらそれをどうこうして欲しいということかもしれない。




 なんの根拠もないただの憶測だが、彼女には元々体があった気がする。今は失っているようだが話の内容からそんな気がする。


 体がないから鑑定なんて使えないが、彼女は強い。

 それも僕とは比べ物にならないくらいに。

 おそらくこの祠と光る地底湖を作り出している媒体は彼女の魔力だ。


 ()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 簡単に言えば、数年……いや、数十年……いや、もしかすると数百、数千年間、世界を構築し続けている。


 もはや神に等しい力と言える。


 正に神業。




 そんな強烈な、一般の人間とは隔絶(かくぜつ)した力を持っている彼女が願うのだ。

 生半可な覚悟では願いは叶えられない。


 あの返事は僕の、僕らの決意の表れでもある。

 (くつがえ)さない覚悟の現れ。



 もう、ここに来て圧倒されていた時のような弱々しさはない。

 3人の瞳には火が灯っていた。






 暫くして、再び声が響いた。










 わたしの 願いは わたしをここから 解き放つこと

 わたしを縛り ここに留める 呪いの鎖を 断ち切ること

 それが わたしの 心からの願い

 幾星霜を ここで過ごし

 幾星霜を ここに縛られ

 長く 望んだ 日の目をわたしに

 見せてくれること




 今の あなたに その力はない

 それでもいつか あなた達が

 力をつけた その時に

 わたしをここから 連れ出すことを

 今か今かと 待ち望む

 今更時間は 怖くない

 いく年を孤独に 費やした

 わたしの心は 唯々 光

 心の氷は 溶かされた




 ここでの出会いは 正に奇跡

 これを運命と 私は信じる

 どうか私の この望みを

 叶えてくれませんか




 歌が終わる。

 再び静寂が戻ってくる。


「わかった。叶える」


 少年の声が静寂を破る。

 部屋に再び喜びが戻って暖かくなる。


「まず、あなたは呪いにかかってるんですか?」





 ええ そうですね





「じゃあ、私が呪いを解けないか試してみます!」


「うん。お願い」


 そう言ってから、動きが止まる。


「……どこを浄化すればいいんでしょうか…」


「………」


 暫く待つが声は聞こえない。


「ん〜とりあえず……祠全体を浄化したら?できそう?」


「祠ってこの建物ですよね?わかりました。やってみます!……【浄化】っ!」


 部屋に金色の魔力の残滓が飛び散り、浄化と呪いがぶつかって嫌な音を立て、風が吹く。



 時間にして十数秒。

 光が収まって、部屋に元の色が戻る。

 部屋にはまだ魔力の残滓が舞い散っており、キラキラと光を反射している様子は神々しさを感じさせる。


 しかし、そこには光と共に漆黒の(もや)も存在していた。



「解けて、ない……?」


「みたいですね……すみません…」


「いや、気にすんな。まだスキルなんて殆ど使ったことなかったんだろ?」






 わたしに力を 使ってくれた

 やさしき勇者に 感謝します




 呪いの一部は 解けました

 わたしに命が もどってきます

 これは小さな 希望の光

 幸訪れる 前触れとなる

 わたしの感謝を 受けてください






 声が再び響いた。

 今度は感謝にこもった、慈愛を含んだ穏やかで優しい声色。



 どうやら解呪は完全失敗というわけではないらしい。


 周囲にあった光の粒が徐々に集まってくる。

 光は少女の形をとり、一瞬強く光った。


 光の少女は無言で頭を下げ、


「ありがとうございます、皆様。私はラツィエル。神秘を司る者。天命により、長くに渡ってこの世界を守護する存在」


 そして、一つ息を吸うと、続けた。


「私の力は未だ戻ってきていません。しかし、皆さんへの恩は感じています。この度のお礼に私にできる範囲で願いを叶えることを誓いましょう」






 皆様のやさしさに かんしゃします。






 光が徐々に散っていく。

 散ったそばから光は消え、まるで初めから何もなかったかのような無の空間が戻ってくる。



 まるで夢を見ているかのような感覚。

 脳が今まで何もいなかったと歪んで認識している。

 それでも記憶は残っている。


 さっきの出来事は現実だと記憶が示している。





 僕たちは勇者だ。


 王国の人は僕たちを恒例の行事で召喚したと言っていたが、『勇者』の名を名乗る以上、その力は誰かのために使うべきだ。

 自分以外の誰かのために。



 少なくとも僕はそう考える。


 今までの戦いは自分のための戦い。

 でも今回の行動は他の人を救う行動。



『自分の役目を果たして他人を救った』



 この事実が嬉しかった。


 ねえ蓮斗。


 今は亡き親友に語りかける。


 僕はなんとかなりそうだよ、と。












「【空間転移】」


 帰りは転移で帰る。

 転移陣が完成し、視界がぐにゃりと歪む。

 久しぶりの懐かしい浮遊感に身を任せ、さっきのことを振り返る。




 ここまで多くの敵がいた。

 誰が欠けてもラツィエルという不思議な生き物は救えなかった。



 僕が多くの魔物を倒して道を作った。

 遥香が弱い純恋を僕のもとまで連れてきた。

 そして、純恋が呪いを解くきっかけを作った。



 完全には救えなかった。


 それでも人を救えたことが嬉しかった。


 浮遊感が止まったのを感じて、ゆっくりと目を開く。


 瞳に差し込む陽の光。


 10日ぶりの太陽がこの目に飛び込んでくる。



「もう、手に取れる」


 遠いところにあったはずの第一の目標はもうすぐそこに。

 復讐を果たす日は遠くないだろう。


とある人からルビが少ないと言われたので頑張って多めにルビ打ちしています。

変換で勝手に漢字が出てくるので、あんまり難しい漢字を使ってる感覚がないんですよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ