2ー18 ラツィエル
眼前には見渡す限りの地底湖。
天井は信じられないほど高く、1番上は暗くて見えない。
湖の水はとても澄んでいて、その上、水そのものが光を放っているようで、10メートル近くあるにもかかわらず、底がはっきりと見える。
水面は小さく波立っており、パシャパシャと陸地に波がぶつかるたびに心地よいリズムを刻む
湖の真ん中に島があった。
そしてその真ん中には神殿……祠の方がしっくりくるな。
祠がある。
祠とは言って小神殿と言って差し支えないサイズはあり、外から見た感じ、学校の教室を4つくらいつなげた広さがあるように見えた。
純白の祠は螺鈿細工のように不思議な色に光り、湖の光を受けてキラキラと輝いている。
壁も屋根もおそらく床も全てが白一色の異色の空間。
全てが捩れた虹色のような不思議な色合いをしており、たまに魔力が迸ることで一層輝きが増し、周囲に波動を放って、それがまた不規則な波を立てる
祠の扉の前まではこれまた同じように純白の橋が掛かっており、僕らを招待するかのように赤の絨毯まで引かれている。
手すりには見事な彫刻が。
これ以上ないほど豪華で、それでいて静かでどこか哀愁漂う儚げな雰囲気がある。
3人ともこの光景に見惚れていた。
あまりにも美しい光景。
洞窟と地底湖と祠。
この3つが完璧な調和を作り出していた。
《聖域》
それ以外言葉が浮かばなかった。
完全無欠の美の領域。
そんな言葉がピッタリと当てはまるような空間だった。
ぼーっとしながらフラフラと橋を歩く。
橋を渡り切ると勝手に扉が開き、中が見えるようになる。
まるでヨーロッパの教会のような空間だと思った。
実際に見たことはないが。
四方にある窓には色ガラスがはまっていて、部屋にカラフルな光を差し込ませる。
真ん中に太い通路を開けて左右に長い椅子が数列並べられており、荘厳な雰囲気が漂っている。
唯一教会と違うのは上座に白の玉座があること。
無人の玉座は哀愁ではなく畏怖を持って僕らを迎えた。
ギイィと音がして、後ろで扉が閉まっているのがわかった。
バタンと一際大きな音が聞こえると同時に再び声が響いた。
今度はのっぺりとした無情な声では無く、嬉しそうな、楽しそうな、愉快な声。
微かに漂う悲しみを嬉しさで打ち消したような
儚げで夢を見ているかのように心細げな少女の声
歌うような、飛び跳ねるような、心地よいリズム。
私はラツィエル
形なき声
名前なき声
姿なき声
全てを識る声
むかし むかし 遥か遠くで
私は呪われ 私は敗れ
私はここに 封印された
ながい ながい 時間がたった
ここまでたくさん 人が来て
誰もここに 来れぬまま
静かに 命を 引き取った
誰にもそれを 知られぬままに
彼らのいのちは わたしの元に
死んではじめて 皆ここに来る
誰もがすでに 声のみだった
我は神秘を 司る者
すべてを識って すべてを動かす
それでも 人は われを恐れた
彼らにとって われは影
だれも知らぬ この場所で
すべてを 動かし あやつる者
今のわれは ただ声一つ
形も 色も 姿も 心も
何一つない 世界の礎
われはかげで 生きる者
ある日 天に 創られたとき
課された役を 演じる人形
人も 神も 悪魔も 天使も
王も 賢者も 大人も 子供も
だれもできぬ 役目を果たす
創られた時の 願いのままに
そこにあるのが われのつとめ
今や時代は過ぎ去った
だれかがその身に 皆の心を
まとめて背負う 時はおわった
今はだれも われを知らぬ
だれかがここに 気付いたならば
われはここから 抜け出せるものを
だれも言葉を 信じない
だれもここに気付かない
われが日の目を 見る時は
もっと遠いと 思っていた
ここまでの道はあまりに遠い
いくつもの関が 立ち並び
いつも勇者の 邪魔をする
ここに来たのは 何かの運命
ここに来たのは 何かの奇跡
ああ
勇者よ
ここに辿り着いた者達よ
われの願いを 叶えてくれますか
『声』はそこで途切れた。
呪縛のように僕らを縛り付けていた何かが解ける。
あの言葉は一言一句頭に残っている。
どうやっても頭から抜け出ない。
頭に直接刻み込まれた感じ。
でも気分はいい。
答えも決まっている。
振り向くと2人とも僕を見つめて頷いた。
声を発する。
震えないように気をつけながら。
「願いを叶える」
不思議な声です。
果てしない物語のとある部分をちょっと真似ています。
パクってはいません。