1ー2 スキル判定
初日の今日は4話投稿で、明日からは1日1話の投稿です。
「では、誰からでもいいのでこちらに来て、魔術具に手をのせてください」
四角い箱のような見た目の、魔術具と呼ばれる道具を持ってきた少女が声をかける。
しかし前に出る者はなく、お互いに視線を交わし合ったまま動かない。
優人も同じように動けなかった。
困惑が思考を占め、何をするべきなのか分からなかった。
「おい、お前からいけよ」
「でも、出席番号順に行った方が……」
「私は最後でいいかな」
「誰かさっさといけよ!」
「でも……」
ガヤガヤと皆が口々に喋り始めた。
優人は少し離れたところからその様子を眺めていた。
もちろん率先してスキル調べをしてもらう気はない。
おそらくみんな同じ気持ちだが、他の人のスキル判定を先に見ておきたい。
……だけどそろそろ誰かが行かないとまずいか……?
本人の人柄は分からないが、国王と呼ばれている人の前で言い争うのは絶対に良くない。
優人はチラリと国王に視線を向ける。
国王はそばに控えていた騎士に何かを伝えていた。
騎士が頷く。
そして内容は聞き取れなかったが、小さく何かを唱えた。
いつのまにか優人はその様子を凝視していた。
「魔法……」
呪文と共に騎士の持っていた槍は短い杖に姿を変え、その先端に不思議な光が集まった。
パチッ
何かの爆ぜるような音が微かに響く。
そして直後、部屋に火柱が立った。
顔に熱波が吹きつけ、皆がその光景に目を見開く。
今までの喧騒はなかったかのように静かになり、部屋に響くのは炎が燃える轟ッという音だけだった。
「我々も暇ではないのだ。早く終わらせてくれないだろうか?」
王の視線は鋭く、そして冷たかった。
まるで命のない人形を眺めるような。
静寂の戻った部屋に声が響くとみんな我先へと魔術具の前に列を作った。
文句を言う者はいない。
西田でさえ青ざめた顔で小刻みに震えていた。
逆らうことはできない
このことに誰もが気付いたんだろう。
本能でも、理性でも。
1番初めに測定したのは赤木。
魔術具に手をのせると魔術具が光り、魔術具を持ってきた少女が声を上げた。
「【魅了無効】です!」
部屋に沈黙が訪れた。
……能力が文字通りの意味なら微妙なスキルに感じるけど……他の例がないと強さが分からないな。
それからも順に判定が行われて、ついに優人の番が回ってきた。
魔術具に手をかざすと他の人と同じように光が迸り、横にある別の魔術具に文字が浮かび上がる。
「【進化】……?」
しかしスキル名を読み上げる少女の声は困惑が混じったものだった。
「あの……何か問題でも……?」
心臓が早鐘を打つ。
何か失敗や不具合があったのかと、優人は恐る恐る問いかけた。
しかし少女は答えず、ゆっくりと周りの貴族らしき人々の方に振り返った。
「進化だと?なんだそれは」
「聞いたことがないな」
「いや、だが名前を見る限り悪くはないようだが……」
「今時、未発見のスキルがあるとはな」
壁際にずらりと並んでいた、絢爛な衣装に身を包んだ貴族たちも、困惑しつつ言葉を交わしていた。
聞こえてくる話から察するに、【進化】は今まで誰も持っていないスキルのようだ。
非常にまずい異常事態ではなかったことに、優人は安堵の息を漏らした。
「勇者様、ステータスボードにスキルの効果が記されております。『ステータス』と唱えてくださいませ」
王の隣に座っていた女性が指示を出した。
おそらく王妃と思われるその女性の指示に従い、優人は呪文を唱えた。
「ステータス」
そう呟くと、目の前に青みがかった半透明の板が現れた。
それを見て数人が同じように呪文を唱えるが、そのステータスボードは、優人には見えなかった。
しかし何やら空中を仕切りにタップしているのを見る限り、どうやら他人には見えない仕様のようだ。
納得し、改めて視線を自分の手元に移す。
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《ステータス》
【梶原 優人】
種族 原獣種
LV1
HP:9
MP:36
攻撃:7
防御:8
体力:11
速度:6
知力:6
精神:8
幸運:4
スキル……進化【天候操作】
効果
進化条件を満たすことで所持スキルが上位のものへ変質する
サブスキルの進化の系統は初期に入手したサブスキルの系統と同じ
天候操作
天候を自由に変化させることができる
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「……どういう意味でしょうか?【天候操作】というのは文字通り天気を変更する能力ということですか?」
もしそうならかなり弱い気がする。
飢饉でも起きない限り、雨乞いで治安維持の役に立てないと思う。
【進化】のシステムがよく分からないな。
そう思って問いかける。
しかし返答は氷のように冷たかった。
「其方に意見は求めておらぬ」
鋭く、重圧を感じるような声色。
その一言で、優人は言葉を継げなくなった。
それを待って、少女は王に何かを告げた。
口の動きの割に何も聞こえなかったから、おそらく魔法を使ったんだろう。
王が何か言い、それに少女が頷いた。
「それでは次の方」
「あの、僕の方は……?」
「後日直接勇者様を招集するとのことです。それまでお待ちください」
それだけ言って、少女は再び魔術具を操作し始めた。
これ以上は無駄だと悟って、優人は素直に引き下がる。
その直後、大きな歓声が上がった。
「おぉぉぉおおおおお!!」
多くの視線が魔術具の一点に集まる。
その中心にいるのは西田翔吾だった。
見ると、西田がこちらを小馬鹿にするような目で見ながら、こちらを指さしていた。
周囲の貴族も口々に西田を褒め称えている。
「なんだったんだ?」
「西田が強いやつを引いたらしいぞ。【破壊】ってやつらしい」
なんだよそれ。
名前からして間違いなく強いじゃん。
そして───
「宮原拓人、スキルは【再演】です!」
続く説明によると、いわゆるスキルコピーができる能力らしい。
……いいなー。こんな複雑でよくわかんねえスキルじゃなくて、そういう見るからに強いスキル、僕も欲しかったなー!
正しくチート。
疑う余地なし。
すると、壇上の王様がゆっくりと立ち上がった。
「勇者翔吾、よくぞ【破壊】を手に入れた。そして勇者拓人、其方も良い力を得た」
いきなりの褒め言葉に、優人は目を見開いた。
「かの力はどちらも、かつて英雄と称された強大な力を持った勇者が所持していたもの。その力、必ずや我が国の繁栄に役立ててくれ」
英雄の力、国の繁栄。
その輝かしい言葉の中に、優人のための席は用意されていないようだった。
握りしめた拳に爪が食い込む。
良くないとわかっていても、湧き上がる嫉妬を抑えることは難しかった。
西田は噛ませ犬ではありません。(今のところ)
スキルは噛ませ犬っぽいけど。
ついでの情報として、【魅了無効】は最弱候補のスキルです。




