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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第二章 幻帝戴天
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2ー14 ポンコツ天使

『経験値を獲得しました』


『レベルが上がりました』





 感情のない声が脳内に響く。

 普段ならテンションが下がるような覇気のない声だが、今の自分にこれ以上下がるようなテンションなどない。



 脳内にインフォメーションが響くと同時にスキルを全て終了させた。


 これ以上続けるともう助からない。

 黒龍ではなく自分のスキルで脳破裂を起こして死んでしまう。

 そんな最後は嫌だ。


 どうにか腰にある吸血鬼の血を取ろうとクネクネとと芋虫のように気持ち悪く這い回る。


 なんとか鉛の重りを下げているように重たい手を動かして瓶を探って……何も無かった。


「な…んで……まさか割れて無くなったのか?……」


 そう言ってから思い出す。

 ああ、戦いの序盤で使ったんだったな。

 そうだった。



「クソッ」



 残りの瓶は部屋の前に置きっぱなしだ。

 扉までは10メートルほど。

 普段ならなんの苦でもない距離が永遠に届かない場所に思えた。


 ゴソゴソと再び芋虫のように床を這う。

 地面は抉れていて尖った石が剥き出しになっている。


 這うごとに身体に傷がつく。

 今は全身傷だらけ。

 満身創痍という言葉がピッタリと当てはまるような格好だ。



 動くたびに傷が痛む。

 自分が這った後に赤黒い血の跡が刻まれる。



 戦いの軌跡や戦士の勲章と言えば格好はいいが、怪我は怪我。

 いくら軌跡でも勲章でも痛むものは痛むし、死んだらそれまでだ。



「マズい……意識が……」



 気絶はマズい。せめて止血しないと気絶が永眠に早変わりする。


 せめて止血を……習ったことなどないが、せめて傷口をどうにか……


 視界が狭窄する。

 感覚はとっくに麻痺していて、自分が本当に動いているのかもわからない。


 少なくとも、遠くに見える扉が近くに見えることはなかった。


 なんとか近づこうとするも遅々として進まない。


 自分の終わりを覚悟する。


「クッソォオ……」






 結局何もできなかった。

 死んだ仲間の復讐も、これから精一杯生きるという誓いも。

 何もかも守れていない。



 何もできない自分が悔しくて涙が出る。

 結局できたのは多少のレベルアップだけじゃないか。


 勝手に飛ばした仲間たちは無事だろうか。

 あの時ももっといい方法があったのではないだろうか。

 もっと僕が強ければ……



 あの時もう後悔しないって決めたはずなのに後悔が押し寄せてくる。


「あああぁぁ…くっそぉ…」


 後悔と共に意識を手放しそうになる。








 そして天使は降臨する。





「姉さん姉さん、あそこで死んでる!ん?……死んで……ない、のか?」


「梶原、くん?」


 失礼な言葉と自分の名前を呼ぶ声。


 その声を最後に僕は意識を手放した。







 目が覚める。それから一瞬で覚醒する。その間コンマ2秒。


「知らない天井だ……」


 異世界にきて2回目のこのセリフを吐き出す。

 まあ、ここは迷宮なんだから天井なんて全部おんなじで知っているもクソもないのだが。


「目が覚めましたか?おはようございます。梶原君」


 目の前に天使がいた。


 体をそのままに目だけを使って器用に状況を確認する。


 なるほど。

 僕は今綾井さんに膝枕をされているんだな。


「なるほど。夢か」


「え?いやいや、違いますよ。起きてください梶原君。ここは現実ですよ?」


「現実で女子に膝枕なんてされるわけないだろう。これは夢なんだ」


「だから違うんですって!起きてください。ほらほら」


 綾井が僕の頬をふにふにと引っ張る。なるほど感覚がある。夢じゃ無かったのか。

 夢じゃないのか……


「ええええええぇぇぇぇぇ?」


 洞窟に彼の声が響き渡った。











「それで、今は何をしてるんだ?」


 状況を理解して改めて彼女の正面に座り直して色々と確認する。



「えーとですね、今は梶原君の目覚めを待ってました」



 まじかーめっちゃいい子じゃん。



「妹の遥香は部屋の前で敵が来ないか見張ってくれています。梶原君が倒れてからずっと見てくれてるんですよ?2時間近くもずっと見張ってくれてるんです」



 ……それは私は今まで全部妹に任せてて、膝枕以外何もしてないよっていう宣言か?


「私が勝手にやってるだけ。嫌なわけじゃない」


 遥香はそう言うが、純恋は天然なところがある。

 これが天然でやってるから恐ろしい。


 こんなポンコツに一瞬でも心を奪われそうになったことが残念だ。


「梶原君大変だったんですよ?浄化スキルのおかげでもう大丈夫ですけど」



 そう言えばそうだったなと思って怪我してた場所を確認する。

 傷は跡形もなく無くなっていて体調も普段通りの水準まで戻ってきているようだった。


「ありがと。一応、感謝する」


 ここは素直に感謝を伝える。彼女がいなければおそらくあの時死んでいた。

 感謝してもしきれない。


「感謝が全然足りない。主に姉さんへの」


 うざ。

 お前には感謝なんてするもんか。




「いえいえ、大丈夫ですよ。友達なんですから助けるのは当たり前です。それにしてもすごいですね。あんなに強そうなドラゴンを倒してしまうなんて。」


「あっ。そう言えばアイツどうなったか知ってる?」


「亡くなられたドラゴンならあそこにいますけど?」


 部屋の隅っこの瓦礫で埋まった場所に生気のない翼らしきものが見えた。それからその隣にはおそらくドロップアイテムであろう2枚の鱗らしきものとガチャガチャがあった。


 ……なんでガチャガチャ?


「あ〜えーと、もしよかったらドラゴンの素材の回収手伝ってくれない?2人とも」


「それはいいんですけど……一応誰かが扉の前にいた方が良いのではないですか?」


「ボス部屋の中ってボス以外の魔物って入んないぞ?」


 言うべきか迷った事実を伝える。


「……え?」


 このことを聞いた遥香は声を震わせながら姉さんのお願いなら辛くないって言っていた。

 1ミリだけ同情をおぼえた。


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