1ー1 ようこそ、異世界へ
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梶原優人は青林高校の一年生で普通の生徒として生きていた。
学力は平均、友人も最低限はいて、運動は得意。
でも、他には特徴のない生徒である。
なんでもいいから特徴を挙げてみろと言われれば、インドア派または陰キャのくせして運動神経がいいことくらいだろうか。
ちなみに、この前あった体力テストは確か、学年3位だった。
な、すごいだろ?
とはいえ特徴がそれしか浮かばないのもいかがなものかと思われるが。
しかし彼は気にしない。
故にこの特徴のなさは何の問題にもならない。
これで友人がゼロとかいう、ザ・陰キャ男だったならちょっと悲しかったのかもしれないが、生憎彼には親友なる存在がいたので、これ以上彼がこの話題を気にすることはない。
僕は当たり前というものが好きだった。
当たり前の日々。
当たり前のように朝目覚めて朝食を摂り、歯磨き、そして身だしなみ。
全部確認してからいざ外へ。
変わり映えのない通学路を歩き、いつものように友人と挨拶を交わして門をくぐる。
そして面白みのない授業を耐え抜いて放課後に外の景色を横目に読書する。
そんな何気ない日々を愛していた。
決して友人が多いわけではない。
他クラスにまで足を伸ばして、必要性を問いたくなるほどの多くの友人を抱え込む奴らと比べると、クラス内でハブられない程度の交友関係───つまり必要最低限の友人しかいない僕の周りは決して賑やかとは言えないだろう。
でも数人の仲の良い友人と2人の親友。
それだけで僕の日常はいつも群青色に染まっていた。
苦労が無いわけではない。
古傷を忘れたわけではない。
それでも、充実した毎日の『当たり前』がこの上なく大好きだった。
そしてその日々が終わりを告げたのが今日という日。
今日この日を以て、梶原優人の日常は崩壊を迎える。
誰もが予期し得ない超常的な現象によって、彼の運命は強引に書き換えられる。
今は終礼直後の放課後、まだほとんどの生徒が教室に残っている。
教室に変化が起こったのはそんな時だった。
刹那の出来事だった。
部屋を駆け抜ける閃光。
床に描かれた幾何学的な紋様。
クラスに響く驚愕の声。
語彙力がなくて申し訳ないが、最後の記憶はそんな感じのファンシーな光景だった。
「優人っ!!」
慌てて手を伸ばす親友の姿が見えた。
しかし、襲いかかる謎の浮遊感に抗うことは敵わず、僕は意識を手放した。
***
「…………!!」
「………」
「………」
「───!」
「──────ではないのか!?」
誰かの声が聞こえる。
多分、知ってる人の声。
いや、知らない声の方が多いか。
なんだか体が冷たいな。
そういえば何してたんだっけ?
よくわからないことを考えているうちにだんだんと意識が浮上してきて───
「……ふぇっ?」
変な声をあげた。
自分からこんな変な声が出たことに驚いた。
こんな声を出すのって女子の特権かと思ってたのに。
「え?あっ、えぇ?ば、ばば、はっ?」
変な声が止まらない。
いや、落ち着け何?これ?……ああ、夢か。
勝手にそう結論づけてペチペチ頬を叩いてみる。
夢じゃない?!え?えぇ……?
驚きというより困惑が浮かんだ。
当然だ、僕はこんな場所を知らない。
それから今日コスプレイベントがあるなんて話は聞いていない。
目が覚めたらいきなり中世のコスプレイヤーに会うなんて思ってもいなかった。
さっきから変な声しか出ない自分が馬鹿みたいで奇声を上げることで落ち着いた俺は視線を周りに向ける。
辺りを見渡すと、自分の周りには見るからに不機嫌そうな表情をしたクラスメイトが立っていて、誰かに文句を言っているようだった。
俺のように倒れている人はおらず、みんな立っていた。
それにしてもどこだ?
床は木ではなく白一色の石のような物でできている。
所々に細かな彫刻が施され、日本では見られない異種の美しさがあった。
寝ていたからなのか身体中が痛い。
美しい部屋ではあるのだが、どこもかしこも石でできている。
寝ていたら痛くなるのは当然だな。
足元には見覚えのある謎の紋様もあった。
「蓮斗?」
俺は咄嗟に隣にいた友人の名前を口にだす。
「ああ、やっと起きたのか。いつまでも起きないから、そろそろ起こそうかと思ってたんだぞ」
「何があったんだ?」
質問を飛ばすと友人は困ったような表情をして、その後、何か言おうと口を開きかけるが結局声にならず、
「ん〜異世界に来た……とか?」
かなりアバウトな言葉を放って、馬鹿らしいとばかりに肩をすくめて笑った。
異世界、ねえ……。
何とも都合がいい言葉だ。
まぁ、床に魔法陣的な物が浮かんでいきなり中世に来たとなれば、信じ難くとも現実が示す事実はただ一つ。
本好きで、その上異世界転移系を好んで読んでいた人間からすると、答えは容易に理解できる。
そう、勇者召喚である。
……声色から察するに……蓮斗は何となく分かっているな。
というか、ここにいるほぼ全員が理解はできずとも事態の把握はしているようだ。
……ふむ、僕が最後まで寝てたみたいだな。
僕がスヤぁしている間にちゃんと状況は把握できているようだ。
どうやら遅れているのは自分だけだったらしい。
っていうかもっと早く起こしてくれよ、眠りの邪魔は悪いとか変な気ぃまわさずに。
ぶつぶつ小さく呟きながら、優人は極めて冷静に事態を把握する。
側から見ればかなりヤバイやつに見えたことだろう。
それに気付いていたのかは分からないが、蓮斗は優人の肩を軽く叩いて壇上を指差した。
「とりあえずアイツらの話聞いてみろよ」
蓮斗が指し示す向こうでは我らがクラス委員長、宮原拓人の姿があり、中央の壇上に佇む誰かと何か話していた。
「つまり、僕たちはこのエルリア王国に勇者召喚で呼びだされていて、あなたたちは僕たちにスキルを与える代わり勇者として働いてほしいということですか?」
「ああ、その通りだ。だが、我々は勇者に魔王や悪魔を倒して欲しいわけではない。簡単に言うと召喚は数十年に一度行われている儀式だ。本来は1人を召喚するのだが……まあ、何か手違いでもあったのだろう。多くの勇者が召喚されるのはこちらとしては喜ばしいばかりだ。」
「では、僕たちに何をしろと?」
「主に国の治安維持を考えている。それから、少し気になることもあってな、それについても任せたい」
「もしかして……」
「そんなことよりもよォスキル先に貰おうぜ。どうせ他の奴らもそっちの方が気になるんだろ?」
宮原と国王の会話に口を挟んだのは不良、西田翔吾。
もう少し空気読めよというような雰囲気になったが他の生徒も話に飽きていたのは確かなようで、西田の言葉に頷いている者もいる。
しかし皆の前に立っていた国王らしき人物に気にした様子はなく、胡散臭い笑みを浮かべて部下に命じた。
「ハハハッ、うむ、それもそうだな。話は後にして先にスキル判定をやろうではないか。アレをここにもってこい」
国王の機嫌を気にしていた宮原も良かったというふうに息を吐いた。
そして部屋の隅にいた人たちが四角い何かが乗っている台を押してきて、魔術具?と言うのだろうか、そんな見た目をしたものを僕らの前で静かに止めた。
ようこそ、異世界へ