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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第三章 星と悪童
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3ー85 ロゼフィーネの願いと求婚

「あっ、あのっ!」


 別室の隅でソファーに座っていると突然声をかけられた。


 髪は雪のような真っ白。

 セミロングの髪を左右に分けて、肩から前に垂らしている。

 胸も辺りで指をくるくる動かしていて、『自信のなさそうな女の子』というのが第一印象だった。


「僕ですか?」


 僕の前まできて話しかけてきたんだから僕相手に話しかけているのは一目瞭然だが、もし違ったら恥ずかしいので一応の予防線構築をする。


「はい。あの、優人様、ですよね?」


「そうですけど、どうかしましたか?」


 完璧な作り笑顔。

 さあ、さっさと目的を吐け!


「えっと、わたくしはベルーガ王国の護衛騎士のロゼフィーネと申します。あの、えっと、異天児の一年生です!」


 だから何、と言いたいところだが、ぐっと喉元まで出かかった言葉を飲み込む。


「僕は梶原優人です。勇者として召喚された、アルメフィア様の護衛です。初めまして」


 とりあえず笑顔で同じような自己紹介を返してやる。

 気の利いた言葉をかけてやりたいが、相手が何を考えているのかわからないので何を言えばいいのかわからない。


「あの、わたくし優人様の戦いを見て、それから、えっと、尊敬してます!」


 何でそういうことになったのかよくわからないが、まあ、尊敬される分は放置でいいだろう。


「それで、休日、会っていただきたいのです」


「誰にですか?まさかロゼフィーネ様にですか?」


「はい」


 それはまずい。

 僕には純恋がいる。

 他の女の子といていいことなんて起こるはずがない。


 ……つっても、断るのもなあ。


「1人、同行者がいてもいいですか?女性ですけど」


 純恋の休日の予定は、僕と部屋でゴロゴロすることだった気がする。

 デートとかで埋め合わせをすれば、予定変更は多分許してくれるはずだ。


 だから、純恋の同行を許してくれるんだったら行ってもいい。


「あ、はい。大丈夫です。えっと、休日に転移棟で待ち合わせでよろしいですか?」


「はい」


「では、お願いします」



 ……ふむ。


 嫌な予感しかしない。

 凶とでなければいいんだけど。


 神頼みでもしようかな?

『面倒ごとが起きませんように』って。

 祈るんだったら退魔の神とか泉の女神かな。

 両方に祈ればいっか。



 まあ、そんな考えが浮かぶ時点で、心のどこかで面倒ごとの気配がしていることは間違いない。

 ならば、出来ることは面倒ごとがさっさと片付いてくれることを願うことだけだ。




 にしても異天児か。

 あり得なくはないが……


 異天児は基本的に実技で高得点を取るため下位になりにくい。

 だが、ロゼフィーネという名前は見た覚えがない。


 まあ、勇者の中にも上位ランクに入ってない人もいたから、ロゼフィーネも実力を発揮できなかったと言えばそれまでなのだが。


 ……やっぱり嫌な予感がするなあ。


 こういう時の勘は外れない。

 残念なことに。



 本当なら今すぐ【星の記憶(ステラメモリ)】で予感の理由を探したい。

 だが、周りの人間の存在がそれを許さない。


 やだなあ……


 了承したのは自分だが、もうすでに憂鬱だった。




 ***




<綾井純恋視点>



 優人くんが退室した後しばらくしてからお茶会が始まった。


 ……暇ですね。とにかく暇ですね……


 そう。

 とにかく暇だったんです。


 お茶会自体は賑やかでいいんですが、護衛仕事についている私は参加できません。

 なので、メフィアさんの後ろから美味しそうなお菓子を眺めることしかできません。


 ん〜〜食べたいですっ!



 それにしても……あの人何だかメフィアさんに言葉がきつくないですか?

 気のせいでしょうか。


 それから何なんでしょう、先ほどからチラチラこちらを見ているように見えるんですが。

 先日の会議でヴィユノークさんが言っていたようにメフィアさんが嫌いで、護衛をしている私にも文句があるんでしょうか?


 貴族の社会は面倒臭いですね。


 優人くんの近くに居られるからそんな疲れも吹き飛ぶんですけど。




 その時、


「アルメフィア様の後ろにおられる護衛の方はどなたですか?」


 金髪の男性から声をかけられました。


「へっ!?あ、えっと、綾井純恋です」


 何で私に話しかけるんですか!?私は護衛として後ろに立っておくだけでいいはずですよね!?


 基本的にはその通りである。


 ()()()()()


 まあつまり、今回が例外だったというだけの話である。


「貴女はミディエラティオルに愛されている。それは私も同じくだ。それに対してオルティゴウスに愛されているのが貴女の主人だ。光の隣に立つべきは光。そうは思わないか?」


 突然の婉曲すぎる言葉。

 それを聞いた純恋はーー


 ……つまり、どういうことでしょうか。


 当然の如く、理解できていなかった。


「私は貴女が欲しい」


 ……あれ?


「私と共にルーンゼイトに来てはどうか?私の妻として」


「……はい?」


 ……はい?


 心の中で言われた言葉を復唱する。

 妻になれ?誰の?優人くん以外の人の?何ででしょうか?


 告白されることは何度かあったが、ここまで強引な言葉をかけられたのは初めてだったので、純恋の思考はループして完結しない。


 もしかして優人くんのことを知らないんでしょうか。

 知らなくても不思議ではありませんね。


「あの……」


「レクルクス様、この場はこのような約束をするべき場所ではありません。求婚は後日、書面にて行なってくださいませ」


 純恋が言葉を発する前に、割り込んだアルメフィアの凜とした声が場に響く。


「では他の方にも聞いてみましょう。皆様はどう思いますか?」


 そんなルール違反認められないでしょうね。


そう思って余裕の笑みで見渡したのだが。


……メフィアさん……顔色が悪い?


その疑問は純恋の予想に影をつける。


「わたくしは賛成いたします」

「私も賛成だ」


「……へ……?何で……」


 優人と別れるという最悪の未来がよぎり、純恋から冷や汗が垂れ、呼吸が苦しげになる。


『ヴァイスターク王国以外の国は勇者全員がヴァイスターク王国にいることが問題視しています。仲がいいレディプティオ帝国は強引な反対はしないと思いますが、わたくし達に協力はしないでしょう』


 ……メフィアさんからの念話!


『どうすればいいですか!?』


 念話の中なのに、自分が泣き声なのが分かります。


『応援を呼んでいます。それまで、適当にのらりくらり時間稼ぎです。わたくしも協力しますので』


 2人の時は跳ねるような声のメフィアさんの声も今は硬く、緊張しているのが分かります。




「過半数の方の賛同が得られましたが?皆様も私の求婚を後押ししてくださるようです」


「後押し、ですか。皆様はまだ王でも王妃でもありませんが、九王会議で決定した王の決定に異を唱えるのですか?」


「何を言っているのですか?私が欲しい言ったのは純恋本人であって、スキルではありませんよ。もしスキルを彼女と切り離して、純恋だけを与えると言うのであっても、私は彼女を欲します。……ああ、分かっていると思いますが、勇者が貴国の民というのは結婚の場合は例外ですよ」


「ええ、結婚は別です。ですがそれ以前に、貴女が欲しているのは【浄化】といういかにも光属性なスキルと、光属性を持つ者の伴侶の立場だけです。現に、貴方は先ほどから純恋を物のようにしか扱っていない」


「それに、私にはもう恋人がいます!」


 純恋の怒気がこもった声。

 初めて知ったその激情に、自分でも驚く。

 会場の空気が張り詰めたのが分かった。


「私は1人の大切な人がいます!貴方の元へはいきません!」


 私本人がこれだけ言えば諦めるだろう。


「ではーー」


 そう思った私が馬鹿でした。


「ーー貴女を縛る者を取り除いて差し上げましょう」


 ブチリ、と何かの枷が外れた気がした。


『優人を排するという意味です!!すぐさま否定してーー』


「ふざけないでくださいっ!!貴方はーー」


「ふざけてはいませんよ」


 最後まで言う前に言葉が重ねられます。

 妙に熱がこもっていて、不気味だと感じました。


「知っていますよ。貴方が持つのは男爵位。例え王権を使っても、私の求婚を覆すのはーー」


その時。


「覆すのはーー何だ?」


 極寒の声が場を支配する。


 たった一声。

 しかし、その一言にレクルクスは何一つ言い返せなかった。

 思い知ってしまった。

 格の違いを。

 たった一言で。


「優人くんーー!」


 そう言って振り返った純恋の瞳に飛び込んだのは無邪気な笑顔を浮かべる優人の姿だった。




 ***




「綾井さん、ちょっといい?」


「いいですけど」


 優人くんの過去を知った日から数日後。

 私はたまたま会った九重くんとちょっと長い会話をしました。


「綾井さん、優人の過去の話聞いただろ?」


「はい。聞きましたけど……あんまり長い話をして見つかったら変なこと疑われそうなので手短にお願いします」


「ああ、すぐ終わる」


 ……と言いつつ長々30分ほど話したんですけど。


「優人の笑顔には気をつけろ」


「馬鹿にしてます?」


 いきなりおかしなことを言うので少し言葉に棘がついてしまいました。


「いや、正確には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「変なタイミング、ですか?」


「そう。優人って変なタイミングで笑うから。本人曰く、大半が無意識らしいけど」


「なんでですか?」


 少なくとも、今までその顔を見たことはありません。

 笑顔はいつも無邪気ですが、タイミングは別におかしくありません。


「優人って虐められてただろ?それに、これは聞いたか知らねえけど、親も親なんだよ。だから、無理やり笑顔を浮かべて感情を閉じ込める癖があるんだよな。ホラ、怒っても深呼吸5秒だか6秒だかすればおさまるって話あるだろ?そんな感じで笑顔になるんだよな」


 ……笑えば脳が『楽しい』と誤認するという話でしょうか?


「普通はアレ、感情整理のためにやってるはずなんだけどな、小さい時からやってるせいでそう言う意味合い言うか役割が無くなってきてて、サインみたいになってるんだよな」


「何のサインですか?」




 ***




「聞こえませんでしたか?」


「い、いや?聞こえたぞ?」


 レクルクスの口調に数秒前の威張った声色の影はない。


「じゃあ言ってくださいよ」


「な、何のことだ?」


「どういうつもりで、他人(ひと)の、彼女に。しかも嫌がる純恋に、求婚してるんですか?」


 『何のサイン?サインってそりゃー……』


「な、なっ、何か文句でもあるのか!」


「おい王子様、答えてくださいよ」


 『ブチ切れるサインに決まってるだろ』



 彼の体からは、今にも人を殺しそうな魔力の波が発せられていた。



初対面でもフルネームやファーストネームで呼ぶことはあまりありません。ファーストネームで呼ぶのは相手の家庭を指すということですし、フルネームは長いので。なので、ロゼフィーネと優人が初対面で名前呼びしたのにも深い意味はありません。

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