3ー81 勇者の死と後日譚
「……村上が死んだ?」
「ああ。魔獣に殺されたらしい」
「……墓でも建ててやるか」
僕らにできることはそのくらいだ。
冷たいようだが、迷宮に潜る上で死はつきものだ。
実力の把握ができずに、強敵に負けたアイツらが悪いという部分もある。
「まあそうだよな。アイツらにも非はあると思う。墓くらいは建ててやろうぜ」
「どこに立てるかが問題だけどな」
家がない。
だからと言って城に勝手に立てるわけにもいかない。
となるとそこら辺の野原しかない。
遺憾ではあるが、そうするほかない。
日本の墓みたいな綺麗な石は用意できない。
それに、多分誰も管理できない。
少なくとも僕は管理できる自信がない。
薄情と言われるかもしれないが、多分忘れる。
身近で死んだから墓を建ててやるが、僕らはエルリア王国で死んだ10人の墓をまだ建ててない。
むしろ僕は村上よりも蓮斗の墓を建てたい。
大して話したこともないただのクラスメイトと親友。
どちらが大切かは火を見るより明らかである。
「……おいお前、今蓮斗のこと考えただろ」
「村上のことは置いといて蓮斗の方を……」
「命の差別じゃん。やめろよ」
そんなことよりも。
「アイツら何層まで潜ったんだろうな。村上のコピーってオリジナルの7割くらいの力はあるはずなんだよなぁ」
それがどうかしたのか、と蒼弥が怪訝な顔をする。
「アイツが知ってるやつで強いのは、僕とロキエラくらいのはずだ」
「詠唱あれば俺だってそれなりにできるだろ」
聞いた話では、変身対象の情報は常時更新ではなく、対象を肉眼で視認した時に更新される。
しかし、それは『情報を持っている』だけであり、『情報を知っている』わけではない。
蒼弥や僕がが詠唱を持っていることは術者の海馬に刻まれているが、術者がその存在をスキル外の情報から入手していないと、海馬に詠唱に関する情報があることを認識できない。
つまり、彼が詠唱を使える可能性は低い。
正確に言うならば、優人の語った【完全変身】の仕組みには誤りがある。
だが、彼が詠唱の存在を認識できなかったことに間違いはない。
「ってことで強いのは僕とロキエラくらいってことになるんだけど、僕とロキエラの7割で倒せない魔獣っておかしいんだよなあ。間違いなく幻獣種上位の魔物じゃんか」
「普通に使いこなせなかっただけじゃね?」
「愚かだな。その力、貴様には余る。私の力を得たとて、私に勝てると思うな!!……ってやつね」
「諸刃の剣って言えよ。知ってるだろこの言葉」
まあね。
残念ながら村上はもういない。
どんな戦いだったのかは知らない。
そして魔物との戦いを調べるためだけに詠唱をする気もない。
墓だけ建ててこの件は終わりだな。
これが優人の結論だった。
***
週末が明けたらすぐに授業が始まる。
最初の授業は武器制作の授業だ。
別に、鍛治をするわけではない。
魔法で武器を召喚する方法を学ぶのだ。
「今日は武器召喚の魔法を教える!」
この学校にはアジュール以外の教師はいないのだろうか。
未だにアジュールにしか会っていないのだが。
いや、杖の授業の時に何人かと会ってるから初めてじゃないのか。
それでも少ないと思うが。
「武器召喚は召喚魔法の中でも最も簡単と言われている魔法だ。ただ、種類が多く、さらに武器以外の道具召喚と授業を分けるのも煩わしいため、召喚魔法という括りで4日をかけて教える!」
元の声が大きい上に、拡声の魔術具で声が増幅されているせいでただただ五月蝿い。
そんなに大声出さなくても聞こえてるって。
「武器の召喚の呪文はヴァッフェだ!スタッドを手に持ち、呪文を唱えろ!形は君たちのイメージで変わる!」
……召喚、ねえ……
「盾はシュッツェン。変形解除はツリュクケーレンという呪文を使う。まずは武器を作り、そのあと盾だ。最後に変形の解除を見せるように。変形は10秒の維持で合格する。武器はどれか一つを作れたらそれで良い」
……いらないんだよなぁ。熾星終晶刀もあとちょっとで使えるし、【十字衝】もあるからなあ。っていうか、ディアーナの後まだステータス見てないな。
とはいえいらないからと言って何もしなければいつまで経っても授業は終わらない。
……作るとしたら剣だよな……いや、刀の方がいいか。
熾星終晶刀は日本刀、【十字衝】は剣だが実際のところ、【十字衝】を振るうのに力はいらないし、あの剣は切るというより付与した術式で切り口から破壊するような感じなので使用感覚の差は大してない。
が、これは別だろう。
使わないと思うが使った時に感覚が狂わないように、刀にするべきだ。
そう考えて、ふと思った。
……これ……進化の詠唱でどうにかならないか?
ものは試し。
しかし、ここでやるには人が多すぎる。
「遥香。僕に【防音】をかけて」
「は?なんで」
「いいから頼む」
チッ、と舌打ちが聞こえたのちに、青く透明な膜が出来上がる。
「【恢戴 夔篇 爛れた因果 珠華の園に耶天の観音】」
これでいい。
これでたとえば……大鎌とか?
『【武器適応】を獲得しました』
しかし、大鎌を作る前にスキルが発動する。
しかも、手に入った力は今一番欲しかった力。
……熾星終晶刀と【十字衝】のおかげで進化が起こったみたいだけど……だったらもう剣でいいじゃんか。
実験の必要さえなくなってしまった。
「ヴァッフェ」
スタッドを右手に呪文を唱える。
思い浮かべたのはファンタジーによくでる両手剣。
どうせ使わないから装飾は凝らなくていい。
仮に学園行事でスキルも武器持ち込みも禁止された時でも、多分変形してない杖をそのままぶん回すだろう。
そのために上部は硬く、鋭く作った。
ごくごく普通の両手剣。
鈍い銀色の大きな刃。
鞘はない。
変形後すぐに使うことを考えて鞘は作っていない。
「ま、こんなもんだろ」
アジュールに見せてすぐに合格をもらった。
同時に解除の方も合格をもらう。
今までと同じく一番合格である。
幼少期から魔法を教わっている王侯貴族よりも合格が早いとなると、この事実が指し示す理由は二つに一つ。
スキルの【進化】補正か。
それとも僕の眠っていた才能か。
「ま、当然理由は僕の才能なんだけど」
「タラレバ妄想ご苦労様」
「純恋はどう思う?」
「黙秘権です」
なるほど。
君たちの考えはよく分かった。
アルメフィア、君には聞かないよ。
聞くまでもない。
君の答えは分かっているからね。
君はきっと僕の意見に賛同するはずだ。
ミーアにも聞かない。
聞くまでもない。
右に同じだ。
別に、聞いたら苦笑い以下の反応が返ってくるとか思ったわけじゃない。
断じて、違う。
「お前ら……なんでもない」
言い訳、反論、何一つ思いつかなかった優人である。
【完全変身】の詠唱使用条件は優人が言ったものに加え、『変身対象は詠唱が使える』という知識を持っていなければなりません。
村上直哉は2人が詠唱を使えることを知りませんでした。